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自分にとって心地いい空間を作りたい。つながりから生まれたカフェ(2020/03/01掲載)

数多くの浜魂(ハマコン)登壇者の中から、地域に大きなインパクトを与えているプレイヤーを称える「浜魂アワード2019」を受賞した、カエルかえるカフェ 小川町店の高萩登志子さん。2002年にいわき市にUターンし、2019年4月に「カエルかえるカフェ」を立ち上げるまでの経緯や今後の展望をお伺いしました。

<タタキアゲジャパン公式サイトアーカイブ>
本記事は、タタキアゲジャパン公式サイトに掲載されていたものです。
肩書・内容は掲載当時のものとなります。


Uターンのきっかけは「猛暑」

いわき駅から夏井川を横目に見ながら、豊かな田園風景の中を25分ほど車を走らせると、いわき市小川町にたどり着きます。国道沿いの看板に従って進むと、閑静な住宅街の中に見えてくるドームハウスが、高萩さんの経営する「カエルかえるカフェ」です。

いわき市平(たいら)で生まれ、小島町で育った高萩さん。高校に進学するタイミングで、お父様のご実家のあるいわき市小川町に引っ越しました。小川町で3年間を過ごしたのち、進学のため上京。36歳までの18年間を都内で暮らしました。そんな高萩さんがいわきにUターンしたきっかけは、「猛暑」。当時は、テレビ情報誌の記者を経て、フリーのライターとして活躍されていました。

「1999年頃は猛暑で、都内は40度を超えるようなものすごい暑さでした。私は暑いのがすごく苦手で、それに耐えられなかったというのが大きな理由です。そんな時、お盆にいわきに帰省したら、気持ちよくて。田んぼの稲が風で翻る様子が綺麗ですし、風も気持ちいい。朝も気温が下がるから、暑い中でもゆったりできるというか、気を許せる時間帯がある。やっぱり田舎はいいなぁと思って小川町に帰ってきました」

Uターン後も、しばらくはフリーのライターとして働き続けました。東京で取材をし、いわきで執筆する、東京といわきを行き来するスタイル。しかし、2011年に起こった東日本大震災を機に、働き方を見直すことにします。

「震災がきっかけで、もう少し地元に関わりたいという気持ちが芽生え、地元の会社で広報の仕事を始めました。同時に、地域活動に参加するようになりました。小川町の地域振興協議会の下部組織『まちづくり検討専門委員会』に参加するようになり、行政と地域住民が一緒にお祭りを企画したりしていました。小川町の人たちと交流する中で、『カフェがないよね、だから小川はダメなんだよね』という話を聞くことがありました。もともとカエルが好きで、カエルで町おこしをしたら面白いんじゃないかな、と思っていたこともあって、『じゃあ私が、カエルでカフェやろうかな』と。ここで、カエルとカフェが結びついた感じです」

「好き」からはじまったカエルカフェ

高萩さんがカエル好きになったのは、Uターンした2002年頃のこと。

「携帯電話にカメラ機能が付き始めた頃でした。もともと虫が好きで、庭に出て虫を撮影していたんです。そこにカエルもいて、その流れの中で、カエルを撮るようになったんです。それをパソコンに取り込んでみたら、ものすっごく可愛く思えて、そこからカエルにハマりました」

小川町といえば、「蛙の詩人」とも呼ばれ、蛙をモチーフにした詩を数多く生み出している詩人・草野心平(くさのしんぺい)の生まれ故郷であることでも有名です。草野心平の生まれ故郷という小川町のアイデンティティと高萩さんのカエル好きが掛け合わさって生まれたのが「カエルかえるカフェ」でした。

実現に向けてプランをさらに具体化するため、2017年に、福島のこれからを担うリーダーや起業家を増やすことを目指す人材育成プロジェクト「ふくしま復興塾」に第5期生として入塾。

「私としては、カエルカフェのプランをさらに練るつもりでふくしま復興塾に入りました。でも、周囲の反応がいまいちだったんです。それで、『やっぱりダメなのかな』と行き詰まっていました」

そんな時に高萩さんが参加したのが、ふくしま復興塾とTATAKIAGE Japanのコラボレーションで開催した、ふくしま復興塾×浜魂「復興塾浜魂」。これは、復興塾第5期生の事業構想を、浜魂スタイルでより良い構想にブラッシュアップする目的で開催されました。

復興塾浜魂で参加者とディスカッションする高萩さん(浜魂公式サイトより)

「復興塾浜魂では、『私は小川でカフェをやりたいけど、どういうカフェだったらみなさん来てくれますか?』というテーマを来場者に投げかけました。カエルはダメだと思っていたので、『カエル』という単語は、一度しか出しませんでした。『カエルという案もあるんですけど…』という、あくまでも一例として挙げただけ。それよりも、コーヒーが好きなので、とか皆さんの集まる場所を作りたいです、というようなアピールばかりをしていました。それなのに、皆さんが口々に、『小川でやるならカエルのカフェ』と言ってくださったんです。『小川は草野心平の生まれ故郷だし、草野心平記念文学館もあるので、小川のイメージはカエル』ということで、カエルを推してくれたので、『あぁ、間違いないんだ』と思って。それでここにカエルカフェができたという流れです」

初めてのDIY、そして初めてのカフェ経営

「カエルで行こう」と決めてから、オープンまで1年半。カフェを経営した経験もなく、場所も決めかねていたため、ひとまずオープンに向けて経営の練習をすることにしました。

「2018年に、いわき駅近くの喫茶店『ブルボン』の場所をお借りして、コーヒーの仕入れや料理の仕込み、お金の流れなどカフェのオペレーションの練習をさせてもらったり、チラシを撒いてどのくらい反応があるのかなどを実験してみたりしました」

8ヶ月にわたるブルボンでの練習を経た後、運よく現在の物件を見つけて、カフェをオープンしたのが2019年4月。オープンまでは、慣れないDIYに苦労したといいます。

「それまで全く経験がなかったDIYにチャレンジし、塗料を塗り、ビス止めをして、テーブルを作ったり、本棚を作ったり、入り口の壁も自分で白く塗りかえました。楽しくもあり大変でもありましたね。でもありがたいことに、やったことがないDIYに挑戦していると、教えてくださる方や手伝ってくださる方が現れるんです。カフェオープンに向けて受講した、ハーブティ講座の先生の旦那さまがDIYが得意ということを知り、本棚の作り方はその方に教えてもらいました。また、私がカフェを始めようとしていることを浜魂のTwitterで知って、仙台から駆けつけてくれた大学時代の同級生もいました。それから、36歳で家庭教師から大工さんに転身したお友達が、棚をつけに来てくれたりとか。色の塗り方や板の加工の仕方はそのお友達の親方に教えてもらいました。少しずつ繋がりが広がり、本当に色々な人にお手伝いいただいて、形にしていきました」

DIYで作り上げた本棚。カエル関連の書籍が並びます

オープンにこぎつけることができたポイントは、「私以外の人たちの力かな」と話す高萩さん。

「出会いとか、助けてくださった方がいたから、ここまでできたと思います。私一人じゃ無理だったかなと。この物件を借りることができたのも、知人からの紹介でした。なかなかいい物件が見つからず、自宅でやろうと決めて、図面まで引いてもらったあとに、『こんな物件があるよ』と教えてもらって。まわりのたくさんの人の力でできあがったカフェです」

SNSを通じて、全国のお客様と繋がる

定休日だったにも関わらず、取材中にもたくさんの方が訪れるカエルかえるカフェ。オープンから約1年が経ち、地元に根付いていることが伺えます。

「カフェができてからは、『小川に作ってくれてありがとう』と地元の方から感謝されることが多かったです。今も所属する地域振興協議会の方々もランチに来てくださったりしますね。小川に遊びに来たお友達に、こんなところがあるんだよ、と紹介する感じで来てくださるお客様も多いです。カエルで『小川らしさ』を感じることができるのもいいのかもしれません」

オープン当初は地元のお客様が半数を占めていましたが、現在ではSNSでカフェの存在を知り、市外や県外から訪れるお客様の割合も増えてきているそう。

「カエル好きのパワーってすごいんです。例えば、カフェのことをInstagramで知ってくださった栃木県にお住まいの方。その方の息子さんは大のカエル好きで、中学3年生の受験生です。合格したらここに来るのを目標に勉強を頑張っていますというご連絡をいただいたことがあります。また、これは市内のお客様ですが、カエル好きの女の子が、小さいころから大事にしているカエルのぬいぐるみを持ってきてくれて、将来はここでバイトしたいです、なんて言ってくれたりとか。その他にも、以前、『松本かえるまつり』という長野県松本市で6月に開催されるお祭りで、お気に入りのカエルの置物を買ったことがあります。そのお店のオーナーが、私のInstagramの投稿を見て、松本からいわきまで遊びに来てくださったこともあるんです。こんな風に、カエルを楽しんでもらえるのは嬉しいですね。皆さん、SNSで繋がっていて、カエル好きの間では、『いつか行きたいお店』として挙げていただくこともあります」

「松本かえるまつり」で購入した金属製のカエルの置物が、高萩さんの一番のお気に入り(右端)

自分が楽しめるメニュー、落ち着ける空間を追求

カフェの経営について、「すごくこだわっていることがあるわけではないのですが…」と控えめな高萩さん。しかし、お話を伺っていくと、細部まで、高萩さんの思いが詰まっていることが伝わってきます。

例えばお食事。カエルかえるカフェには、地元の食材を使用した定番のお食事メニューのほか、タイ産のバニラ風味の紅茶など一風変わったドリンクメニューも用意されています。

「基本的に私は楽しめないと嫌で、自分が作っていて楽しいメニュー、自分が食べたいメニューを出すようにしています。定番は、ハッシュドポークとカエルの焼き印が押されたカエルのトースト。でも、今度グリーンカレーとイエローカレーを始めるんです。まだカフェを始めて1年程なので、パスタなど新しいメニューにチャレンジしたりとか、色々実験しているところです。バニラ風味の紅茶も、カエルとは全然関係ないですけれど、『美味しいから飲んで!』という感じで出しています。これは、タイに行ったときに出会ったもので、知り合いのタイ料理屋さんから紹介いただいた輸入会社から仕入れています。これもつながりですね。コーヒー豆は、地元・小川町の自家焙煎珈琲工房Toco Toco Coffeeさんから仕入れたものをメインで使っています。その他にも、ファーム白石さんの里芋を使わせて頂いたり、近くの農家さんのカボチャやトマトを使ったり、あかい菜園さんからトマトを買ったり、できる範囲ですが、なるべく地元の食材を使うようにも心掛けています」

お店の雰囲気づくりにも、ご自身が心地いいと感じる空間を追求している様子が伺えます。カエルかえるカフェの店内に並ぶのは、落ち着いたシックな雰囲気のカエルグッズや、カエル関連の書籍。

「私はカフェで放っておかれたいタイプなので、お客さまも放っておくのが基本です。音楽もすごく静かなのを掛けていて、褒められることがあります。『カエルカフェというと、賑やかな空間かなと思っていたけど、静かでいいね』とか。店内にはカエルグッズがたくさんあるのですが、適量を心がけて、落ち着いた空間を作るようにしています」

店内には、顔をはめて写真撮影ができるスポットも

さらに、外のテラスには、自転車ラックも見えます。

「実は、自転車で背戸峨廊(せどがろ/夏井川渓谷の支流の一つである江田川のこと)を訪れる方がこの辺を通るんです。小名浜や平、広野町から自転車で来る方もいらっしゃいます。皆さんコンビニで立ってごはんを食べているから、座ってもらいたいな、と前々からちょっと気になっていて、自転車ラックを置きました。SNSで『自転車ラックのあるカフェ』なんかのハッシュタグで探すらしいんですよね。それも、自転車乗りの方に教えてもらったんです。このカフェもそういう風にInstagramで発信していて、それで見つけてきてくれることが多いですね。カエル好き、自転車好きなどカフェに来てくださるお客様のレイヤーは多い方がいいかな、と思っています」

今後は、カフェという形にこだわらず、この場所を活用していくことも検討したいと話す高萩さん。

「最近では、朗読会などのイベントに使っていただくこともあります。今度、お料理教室も開催します。そういう風に、飲食の場としてだけではなくて、イベントの場として使っていけたらという思いは当初からあったので、少しずつそれに近づいていっている感じですね。お料理が美味しいお店、コーヒーが美味しいお店、はたくさんあります。今後は、食にこだわるだけではなく、様々なイベントで場を活かすということにチャレンジできたらと思います」

「素敵な方々に出会えた」いわき

いわきにUターンして18年が経った高萩さん。最後に、いわきの「良さ」をお伺いしました。「あまりにも当たり前すぎて、改めて考えるのは難しいですね」と話しながら、次のように語ってくれました。

「Uターンしてみて、よかったことばかりですが、『素敵な方々に出会えている』というのが一番かな。出会いから刺激を受けたり、様々なことにご協力いただいたり。震災の影響もありますよね。震災前は、もしかしたらこんなに密な関係性じゃなかったかもしれないと思うんです。震災を経て、いわきの良さが拡張したような感覚があります。例えば、今はイベントの多いいわきですが、個人でイベントやろう、みたいな動きも震災前は少なかったように思います。震災後、少しでも自分のやりたいことをやっていこうとか、人とのつながりを大事にしようみたいな流れが強くなり、今に至っている、という実感があって、震災の要素は大きいんじゃないかなと思っています」

「猛暑」をきっかけにいわきにUターンし、さまざまなつながりを活かして、地元・小川でカエルかえるカフェのオープンに至った高萩さん。今後のカフェの新しい展開が楽しみです。

文・菊池裕美子
写真・沼田和真

●information
カエルかえるカフェ 小川町店
住所 いわき市小川町上小川字湯ノ沢47-101(草野心平記念文学館から車で8分)
電話 0246-48-4066
営業日 金土日(祝日はお休み。たまに営業)
営業時間 11時〜17時
facebook https://www.facebook.com/kaeru.kaeru.cafe/
twiter https://twitter.com/kaeru_love_hagi
Instagram https://www.instagram.com/kaeru.kaeru.cafe/
blog
  https://ameblo.jp/ogawa-de-cafe/

カエルかえるカフェ 小川町店 店主
高萩登志子(たかはぎとしこ)

1966年いわき市平生まれ。磐城女子高等学校(現・磐城桜が丘高等学校)入学時に父親の実家がある小川町に転居。明治学院大学に進学し、卒業後はテレビ情報誌の記者などを務める。その後、フリーライターとして活動。2002年にUターンし、会社員などを経て、カフェ開業に至る。


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