見出し画像

追悼 Robbie Robertson

  • 友人からの知らせでRobbie Robertsonの訃報を知りました。 Robbie Robertson (1943/7/5-2023/8/9)は、ロックバンド The Band (1967-1976)のリーダー、ギタリストで、個人的にはそのギタープレイからめちゃくちゃ影響を受けました。

  • 自分がギターを始めてすぐの頃(高校生時代)、リアルタイム(80年代MTV全盛の頃)に、演奏したいと思うような音楽がなくて、世代じゃないのに70年代のロックをよく聴いたり、演奏の手本にしていたのですが、とりわけ The Band のブルースやカントリーといったルーツミュージックを色濃く反映したサウンドは、バンドアンサンブルとしての練度も高くて、本当によく聞き込みました。Robbie Robertson のギターにも大きく影響を受け、The Bandのレコードをかけながら、なんちゃってなりきりプレイをずっと演って楽しんでいた高校生時代を思い出します。

  • ジミー・ペイジ、リッチー・ブラックモア、ジェフ・ベック、ジミ・ヘンドリックスといった同時代の人気ギタリストと違って、ロビーのギターはとにかくシンプル。難しいことも派手なことも演らないけど、誰よりも気持ち良くバンド全体を盛り上げるプレイヤーでした。この人のシンプルテクニックの奥深さを語り出したら、一晩中でも語ってしまいそうなくらいですが、きっと世界中にそんなファンが沢山いることでしょう。

  • この動画に出てくるエリック・クラプトンもThe Bandの大ファンであることを公言しています。The Band の解散コンサートを記録した映画 The Last Waltz(監督は名匠マーチン・スコセッシ)からの名場面ですが、このブルース曲では、イントロ、中盤、終盤と3度のギターソロがあり、それぞれのギターソロに何ともドラマティックな展開があるのです。

    イントロで軽快にギターソロを弾くクラプトンが、ソロ2コーラス目の終わりに、ギターストラップが外れるアクシデントに見舞われます。バンド全員の瞬発的判断でロビーがギターソロを引き継ぐのですが、3コーラス目の頭からジャストタイミングでロビーのギターソロが入ってきます。気持ちよくロビーにソロが交代出来るように、リヴォン・ヘルムのドラムが色々な選択肢があった中から、何と気の利いたことにブレークを入れて、頭からロビーのソロに切り替わることを明確に演出します。この瞬発的対応に要した時間は実に一小節ちょっとです。この場面だけでも素晴らしいミュージシャンシップが伝わって来ます。ゲイトマウス・ブラウンのようなモダンな感じのフレーズを流暢に繰り出すクラプトンのプレイに代わって、シカゴブルースをバックグランドに持つであろうものすごくシンプルなロックなソロをキメるロビー。きっちり1コーラスだけギターソロを受け持ち、再びクラプトンにソロを返す。味方から自分の陣地でパスを受けたディフェンダーが、サイドバックからドリブルで上がって味方ストライカーに的確なパスを出す、気持ちいいパスを受け取ったストライカーも気持ちよくドリブルで進む、そんな感じの場面です。

    曲の中盤のギターソロリレーも見ものです。クラプトンが彼らしい単弦中心の流暢で、かつロックなギターソロを1コーラス分ちゃんと決めて、2コーラス目からロビーにギターソロをバトンタッチします。クラプトンのソロが結構いいソロだっただけに、パスを受けたロビーはいったいどうするのか?
    何と中音から高音に駆け上がる複弦連打のフレーズを繰り出し、高音に到達した時点でチョーキングを絡めた単弦弾きを繰り出し、2コーラス分の熱いソロを決めてしっかり爪痕を残しています。クラプトンからのいい流れを止めずに、自分の土俵に変えて勝負する、そんなロビーらしい素晴らしいアプローチに、クラプトンもバンドメンバーもみんな笑顔でこの瞬間を楽しんでいる様子がばっちりフィルムに納められています。

    曲の終盤のギターソロは、クラプトンをたっぷりフィーチャーする場面です。期待通りたっぷり3コーラス分のギターソロをバッチリ決めて大盛り上がりするのですが、映像を見て大変興味深いのが、歌を終えてギターソロに入ったクラプトンが、普通ならボーカルスタンドよりも一歩前に出て来て、ステージのセンターでスポットライトを浴びながらソロを弾いてもおかしくないシーンですが、ステージのサイド後方に移動して、こともあろうか客席ではなくThe Bandのメンバーに向かって楽しそうにギターソロを弾いているではないですか。この時ばかりはギターヒーローではなく、The Bandファンのギターキッズの立ち位置で演奏を楽しみたかったのだと思います。何度観ても心踊る凄い熱いドキュメンタリーです。

  • THE BAND が残した芸術の頂点がこれかもしれません。ステイプル・シンガーズとの共演ですが、ここまで一体的に溶けあっているものを共演なんていう普通な言葉で表して良いのか?

  • このMVの撮影中、メインボーカルのメイヴィス・ステイプルはロビー・ロバートソンがハンサムだったので見とれてしまい、マーチン・スコセッシ監督に「ラブシーンじゃないんだぞ」と注意されたとか。いい逸話ですね。

  • ロビー・ロバートソンは、クラプトンから「自分のアルバムでギターソロを弾いて欲しい」と頼まれたけど断った、というエピソードを後に語っていて、「トランペットプレイヤーがマイルス・デイビスのアルバムでトランペットソロを吹くようなものだ」と振り返っているけど、本心は別でしょう。クラプトンは単にロビーの大ファンで、ロビーはそのシチュエーションでは、クラプトンが魅了された過去の自分のプレイが再現出来ないことを十分に承知していたから断ったのだと思います。ロビーのあのプレイはザ・バンドの中だけで放たれた青春期の一瞬の輝きであって、ロビー自身がそれを映画作品(ラスト・ワルツ)にまで残して、誰よりも大事にしている。だから他のメンバーがザ・バンドを再結成して、イイ感じに枯れた素晴らしいパフォーマンスをしても、ロビーは頑なにカムバックをしなかった。そこにはリチャード・マニュエル(The Bandのキーボード、1986年に自殺により他界)もいないし、青春期のあの勢いのある演奏が降りて来るはずもないのだから。ザ・バンドの再結成に、ロビーのカムバックを望んだファンも沢山いただろうけど、自分はそうは思いません。再結成したザ・バンドのギタリストには Jim Weider が参加していますが、Jimの方が合っていると思います。

慎んでロビー・ロバートソンのご冥福をお祈りします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?