ディスポーザブルガウンの物理的性能評価

はじめに
COVID-19パンデミックは、医療従事者や患者を感染から保護するための個人防護具としてのガウンの必要性を浮き彫りにしました。厚生労働省はガウン枯渇による苦い経験を踏まえて、ガウンなどを備蓄する政策を感染症法に盛り込み、多くの医療機関では約2年分のガウンなどを備蓄しなければならなくなり、厚生労働省も数年分のガウンを備蓄しています。備蓄に関しては耐久性の強いガウンを選択しないと、使い物になりません。
ガウンの耐久性を評価する世界的な標準は現在のところなく、各国独自の耐久性評価をしています。今回ご紹介する論文は、米国CDCのNIOSHが管轄する米国試験材料協会(American Society for Testing and Materials: ASTM International)が発布したF3352という新しいガウン耐久性規格のもととなった基礎的研究です。
 
方法
20の市販品と2つの試験用使い捨てガウンの物理的な性能を評価しました。標準的な試験方法を使用して、厚さ、重量、引っ張り強度、引き裂き強度、および縫い目の強度などの特性を調査しました。
 
結果
一般に、繊維や製造方法の違いにより、引っ張り強度、引き裂き強度、および縫い目の強度に大きなばらつきがありました。各ガウンの性能をAAMI PB70(ガウンの衝撃耐水性試験)と比較したところ、PB70と引き裂き強度、縫い目の強度の間に明確な傾向はありませんでした。しかし、ガウンのPB70と引っ張り強度の間には直線関係がありました。布地の構造がガウンの物理的な性能に大きく影響することがわかりました。


図1 各ガウンの引っ張り強度の箱ひげ図: MD(縦方向)、CMD(横方向)


図2 各ガウンの引き裂き強度の箱ひげ図


図3 各ガウンの縫い目の強度の箱ひげ図

考察
この研究に基づいて、新しい規格であるASTM F3352が発表され、FDAによって承認されました。ガウンは一定の物理性能特性を持つことが重要です。しかし、市場に出回っているすべてのガウンに同様の強度を維持することは、容易または必要ではない場合があります。しかし、ユーザーの必要に基づいて、市場で販売されているすべてのガウンに一定以上の基本的な物理性能を持たせることが重要です。製造業者、卸売業者、感染管理者、調達担当者、およびガウンの選択プロセスに関与する人は、新しい規格(ASTM F3352)に精通する必要があります。また、病院は、ASTM F3352に準拠しているガウンの購入を検討する必要があります。ASTM F3352は、最小の物理性能基準、ラベル、設計、安全要件などの他の重要な要件を指定しています。

感想
厚生労働省が備蓄しているガウンは、メーカーに一定以上の耐久性を求めていますが、統一的な基準は設けていません。日本は曖昧さが許容される文化があるため、基準がなくても大きな問題にはなりませんが、訴訟社会のアメリカでは今回ご紹介したような政府お墨付きの規格が必要となるのでしょう。日本の方が基準や規格などにうるさいのに、自分たちで規則を決めることは苦手のようで、厚生労働省は2024年より政府が備蓄するPPEに関する基準づくりに、ようやく着手し始めました。
このような現状から、日本のメーカーは今後、ASTM F3352に準拠したガウン作りが求められるはずです。厚生労働省が備蓄の基準にASTM F3352を採用した場合に備えて、各メーカーはASTM F3352準拠ガウンの製造に取り組むことで他社との優位性が保たれることになるかもしれません。

Evaluation of the Physical Performance of Disposable Isolation Gowns

(Am J Infect Control. 2023 Nov;51(11):1201-1207. doi: 10.1016/j.ajic.2023.04.169.)

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