腹部創閉鎖時の定期的な無菌手袋と器械の交換による手術部位感染の予防:7つの低所得および中所得国における実用的なクラスター無作為化試験
はじめに
手術部位感染(SSI)は、発生すると莫大なコストと患者への負担が発生するため、世界的な予防への取り組みが実施されています。米国疾病管理予防センター(CDC)や世界保健機関(WHO)などがSSI予防のガイドラインを発布していますが、手術を終える際の閉創直前の手袋と閉創器械の交換については、明確なエビデンスが欠如しているといわれています。
今回ご紹介する論文は、閉創時の手袋と器械交換の有効性について検討した多国籍RCTです。
経緯と方法
この研究はベナン、ガーナ、インド、メキシコ、ナイジェリア、ルワンダ、南アフリカの医療施設が参加した多国籍RCTです。参加国で腹部手術を行う病院(クラスター)はすべて対象となりました。クラスターは、現行閉創群(42クラスター)と介入(閉創前の定期的な手袋と器械の交換)群(39クラスター)のいずれかに無作為に割り当てられました。各クラスター内で、緊急または待機的な腹部手術(帝王切開を除く)を受けた成人および小児のうち、清潔手術、汚染手術を受けた患者を特定し、対象としました。データ調査員やアウトカム評価者をブラインド化することはできませんでしたが、患者は治療割り当てをブラインド化しました。主要アウトカムは手術後30日以内の表層SSIであり、CDCの基準に基づいて評価されました。この試験は最小限の主要アウトカムの減少を16%から12%に検出するのに90%の検出力で、少なくとも64クラスターから12,800人の参加者が必要です。この試験は、ClinicalTrials.gov、NCT03700749に登録されました。
結果
2020年6月24日から2022年3月31日の間に、81クラスターが無作為に割り当てられ、合計13,301人の手術患者(現行群7,157人、介入群に6,144人)が含まれました。全体として、13,301人の患者のうち11,825人(88.9%)が成人であり、13,301人のうち6,125人(46.0%)が待機手術を受け、13,301人のうち8,086人(60.8%)が清潔手術を受け、13,301人のうち5,215人(39.2%)が汚染手術を受けました。手袋と器械の交換は、現行群の7,157人のうち58人(0.8%)、介入群の6,144人のうち6,044人(98.3%)で行われました。SSI率は、現在の現行群の6,768人中1,280人(18.9%)に対し、介入群の5,789人中931人(16.0%)でした(調整リスク比:0.87、95%CI 0.79~0.95; p=0.0032)。事前に指定されたサブグループ分析のいずれかで効果の異質性を示す証拠はありませんでした。重篤な有害事象に関する具体的なデータはありませんでした。
考察
この試験は、閉創前の手袋と器械の定期的な交換に大きな利益があることを示しました。世界中の外科手術に広く導入することを提案します。
感想
この研究は表層SSIをターゲットとした閉創前の手袋と器械交換の有効性を検討しています。結果として、介入群では13%の表層SSI予防に繋がっています。この結果は表層SSIを予防できるとされるグルコン酸クロルヘキシジン(アルコールと比べて36%減)や、創縁保護具(40%減)に比べるとやや物足りない結果です。以前の後ろ向き研究では、閉創前の手袋と器械交換はオッズ比で0.54と有効性が期待される結果でしたが、RCTでは期待ハズレでした。
著者らは、8人に1人の表層SSIが予防されるため有効だ、としていますが、これが臓器/体腔SSIの予防となれば確かに有効ですが、表層SSIではあまりインパクトがありません。表層SSIは排膿後の抗菌薬でほぼ完治し、予後良好、コストも臓器/体腔と比べると大きく異なります。
もちろん、それでも表層SSIがなければ、不要な受診が抑制され、抗菌薬が投与されないことになるため、まったく有効ではないとは言いません。しかし、この結果からは、まずはグルコン酸クロルヘキシジンでの創部消毒、創縁保護具使用などの有効性の高い対策を実行した上で、それでも表層SSIが減らない場合に閉創前の手袋と器械を交換すべきです。
まずは、費用対効果の高い対策から導入し、その後の詰めで実施する対策といえるでしょう。
Routine sterile glove and instrument change at the time of abdominal wound closure to prevent surgical site infection (ChEETAh): a pragmatic, cluster-randomised trial in seven low-income and middle-income countries.
(Lancet. 2022 Nov 19;400(10365):1767-1776. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01884-0)
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