小説の感想 「桑潟幸一のスタイリッシュな生活」シリーズ 


「桑潟幸一のスタイリッシュな生活」シリーズは2012年に放送されたTVドラマ『妄想捜査 『妄想捜査〜桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』(佐藤隆太&桜庭ななみ主演)で知った。
最近、アマプラで見れることがわかり、久しぶりに視聴して、原作を読みたくなり、原作の3冊を読み終えた。
笑えて軽い感じの短編集という印象。
千葉とかFランク大学や文学者をディスりまくりの小説だけど、読んでいて笑いが止まらない。
主人公の桑潟幸一は出世を諦めたダメダメ人間として描かれているけれど、生命力があり、魅力的な人物である。
この小説は推理小説だけど、主人公の桑潟幸一の推理力では毎回真実にたどり着けない。
そのため毎回文芸部のメンバーの力を借りて事件を解決する。
桑潟幸一はのび太キャラなのだろう。
しかし桑潟幸一は推理を解決できないけれど、毎回いきいきしていて人生が楽しそうだ。
桑潟幸一は40歳を過ぎて独身の大学教師であり、年収は少なく貧困生活している。
しかし貧困生活を楽しむサバイバルな描写は読んでいて楽しい。
大学の近くにアパートに住み、自転車で通勤。
節約のため大学の備品を使い(大便も大学のトイレ)、安売りセールを探し、近所の子供たちのザリガニ釣りの穴場を教わり、雑草やキノコを採取して生活している。

スピンオフ作品である『桑潟幸一准教授』シリーズは大阪の大学から千葉県のど田舎のFランクの私立大学に転職して、新天地での生活で苦労ばかりする。
前作の『モーダル事象』では桑潟幸一が深刻で悲惨な連続殺人事件に巻き込まれて、狂ってしまい公園でホームレスになってしまったが、今作ではそんな過去は全く感じさせないし、触れられていない。

千葉県をディスりまくり、Fランクの私立大学をディスりまくりの小説で、筒井康隆の『文学部唯野教授』を連想したけれど、『文学部唯野教授』とは違い大学の講義の描写はほとんどなく!!、高尚な文学理論の説明もほとんど出てこない。
桑潟幸一准教授は唯野教授と違い出世を諦めた人間であり、出世を諦めてから文学理論に興味がなくなり専門書を読まず論文も書かないし、どの文学の学会にも属ぜず、趣味ですら文学研究をしない。
「日本文化」の講義を受け持っているけれど、生徒に『寅さん』の映画を見せて感想文を書かせるだけ。
しかし大学での仕事は多く、ほとんどは文学とは無縁の雑用だけど、特に学生募集のリクルート活動に忙しい。
また真夏に大学のマスコット・キャラクターの着ぐるみに入って宣伝をしたりする。

桑潟幸一の研究室は文芸部の部室と兼用となっていて、文芸部のメンバーは同人誌の作成のために、桑潟幸一の研究室は文芸部メンバーのたまり場になっている。
桑潟幸一の勤務先は大阪時代でも千葉時代でも短大あるいは元短大なので女子生徒がほとんだ、しかし桑潟幸一は恋愛とは無縁の独身で年齢は40歳を超えている。
理由は桑潟幸一が女性嫌いというわけではなく、風俗は好きでオナニーも習慣化しているが、女性との交際に強い恐怖を感じているのが原因(何かトラウマになる事件があったのかもしれないが、そのことは書かれていない)。

『モーダル事象 桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活』』(2005年発売)は桑潟幸一が最初に登場する小説であり、『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』はスピンオフ作品、助教授から准教授に変わっているのは時代の流れを表している。
『モーダル事象』はスピンオフ作品『准教授』シリーズとは違って、深刻な雰囲気が濃厚な推理小説である。
『准教授』シリーズの事件は殺人は全くなく、ケンカも派手なアクションも全くない(しかし鍵開けの達人が活躍するので『ルパン三世』的な雰囲気はある)。
それに対して『モーダル事象』はいきなり殺人事件の報道から始まり、犯人探しをすると、戦時中の秘密作戦やオカルトな宗教組織などが出てくるので、かなり派手な作品と言える。
だから『モーダル事象』と『准教授』シリーズは推理小説としては対照的。
しかし推理小説として読んでも、そんなにおもしろい作品ではない。
奥泉光の小説では、音楽が重要なテーマになっている場合がかなりある。
『モーダル事象』は「音楽と古銭と戦時中」が隠れテーマなので、どれにも興味がない人は退屈な推理小説なる気がする。

その2に続く(つもり)


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