お下がりの自転車

お下がりの大きな自転車は
不躾な轍を踏んでいた
5時のサイレンが鳴る頃には
納屋の隅の方から
古い天気予報が発掘された
曇りと雨の日には
ばってんが付けられていたけど、
晴れの日は見たことがない
お下がりの大きなスポークは
錆びた風をくるくる回していて
お母さんは買い物へ
買い物には自転車が必要で
お下がりは大きくて
弟は家で小さな影になっていて
姉さんは部活動でゲル状になっていて
お母さんは買い物中で
ぼくは錆びた轍の上を
おしっこを我慢しながら走っていた
崎村さんちの田んぼの横のあぜ道で
M・ベジャールの振り付けで倒れた
カカシが笑っている
その横でジョルジュ・ドンが
くるくる回る
超音速でくるくる回る
カカシもジョルジュ・ドンもボレロも
人間臭いから苦手だった
おしっこを我慢しながら
お下がりはとても人間臭いから
苦手だった

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