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ガンタンクの動力について論考する

こんにちわ。
第3回と補足ではガンタンクの出力について取り上げましたが、今回はもう一歩踏み込んで、ガンタンクの動力設定について論考したいと思います。

■前回の記事

 前回は単に数値比較しただけの記事でしたが、今回は動力の構造に着目するため工学的知識を駆使することとなり、少々小難しい内容になることは予めご注意ください。


 さて、まず設定上はどのようになっているのか見ていきます。
以下サイト様が世界一ガンタンクの動力が分かり易くまとまっているので紹介しておきます。
雑記12-12 :G_Robotism (xdomain.jp)

①  初期設定のメインエンジン タキム式NC-4
② 『ガンダムセンチュリー』に記載された原子炉とガスタービンのハイブリッド

③ 『ENTERTAINMENT BIBLE .1 機動戦士ガンダム MS大図鑑【PART.1 1年戦争編】』に掲載されたガスタービン・エンジンと燃料電池

基本的にこれらの設定は尊重すると、手っ取り早く全肯定するなら原子炉の一種である熱核反応炉とガスタービンと燃料電池、全部乗せと考えれば辻褄が合うといえば合います。なお、現在はガンプラの解説書に熱核反応炉と明記されているため、①がほぼオフィシャルなのかと思います。

①、②、③は現実世界において設定が公開された順番なのですが、まず①について。NCは普通に考えると nuclear の略であり、熱核反応炉式のエンジンということかと思います。熱核反応炉というのは改めて解説すると、元も子もないですが核融合炉のことです。もう少し正確にいえば「核融合の一種」で摂氏数億度という超高温により起こる核融合のことを指します。ガンダム関係の書籍でもっともらしい説明がされていますが間違った説明が多いです。‥というか「熱核」という言葉が非常に厄介で、熱核反応炉の「熱核」と、熱核ジェット/ロケットエンジンの「熱核」では意味が異なります。前者は説明した通りですが、後者は広義の核反応(核分裂も含む)で発生した「熱」を意味しています。なら「熱核」じゃなくて「核熱」だろうと思いますが、元々英語で nuclear thermal rocket と呼ばれたものを誰かが熱核ロケットと訳してしまい誤解を招く事態となっているだけで、今では「核熱ロケット」と呼ぶ方が一般的です(この記事はガンダムについてなので以降も熱核で通します)。

 さて、話題を戻すと核融合炉がエネルギー源になることは分かりましたが、ではどのように(物理学的な意味での)仕事に置き換わるのでしょうか。これについては初期設定ではまともな説明が無いと記憶しておりますが、wikiをはじめ、直接発電をしているという解説が増えてきました。この「直接発電」という言葉も厄介でして、宇宙世紀の熱核反応炉はD-3He反応(Dは重水素、3Heはヘリウム3)とされておりますが、この反応では中性子では無く荷電粒子が生成されるので、これを変動電磁場との相互作用で減速して、、はい、私もちゃんとは分かっていません苦笑

■一応、ネット検索で出て来る論文(難解)
_pdf (jst.go.jp)
_pdf (jst.go.jp)
もう一つが直接発電の一種として扱われることもありますが、MHD発電でこれはいわゆる直接発電ほど難しい理屈では無く、発生したプラズマをファラデーの電磁誘導の法則に基づき、磁界を横切るときに誘導される起電力とそれによって流れる電流を電力として取り出すというものです。

■MHDの分かり易い解説

 上記二つの方法は一旦電力にするという点では同じですが
核融合エネルギー→電気エネルギー(直接発電)、核融合エネルギリー→熱エネルギー→電気エネルギーという違いがあります。ただこれらの説には言語設定の解釈としては「エンジン」と呼ぶには不適合です(エンジン=発動機を介していないため)。因みにガンダム、ガンキャノンの初期設定では腰部に「メイン・エンジン タキム NC-7 強化核融合炉」が装備されています。人型MSの手足を動かすのにエンジンというのはおかしいのでは?‥という感想を持つ方もいそうですが、後に説明するシリーズ方式のガスタービンを用いているとすれば、これはエンジンと呼んで一応差支えありません。

 MHD発電を含む広義の直接発電とは別のエネルギー変換方法としてはタービンによって軸回転での運動エネルギーにする方法です。直接タービン・エンジン駆動にすれば電気エネルギー(ジェネレーター=発電機)を介さずとも車輪を回すことが可能となります。この方式はハイブリッドカーにおいて「パラレル方式」と呼びます。電動モーターとエンジン駆動をより複雑に組み合わせたトヨタだけが採用している「シリーズパラレル方式」というのもあるのですが、何れにせよ直接エンジン駆動と電動モーター駆動を組み合わせている点は共通しています。勿論電動モーターと接続すれば電気エネルギーとして出力することも可能です。これは「シリーズ方式」と呼び、タービンエンジンで発生させた動力を全て電動モーターの駆動と発電に回す方式で、余談ですがハイブリッドカーでは日産が採用しています。

 ここで、タービンというと安易に蒸気タービンと決めつける方がいらっしゃいますが、これには2つの無理解があると思います。一つはタービンには蒸気タービン以外にもガスタービンがあるということです。実際、「高温ガス炉」という原子力炉では蒸気タービンでは無くガスタービンを用いています。一方、蒸気タービンを用いた原子力発電所は「軽水炉」と呼ばれます(「重水炉」というのもありますがここでは省略)。なんなら先述の通りガンタンクもガスタービンで動くという設定もありますし、マゼラ・アタックもそうです。もっと言えば熱核ロケット/ジェット・エンジンという時点で発電に利用しているかはともかくガスタービン・エンジンは使われているのです。

 もう一つの無理解というのが、これはもはやガンダムは関係無くなりますが蒸気タービンというのは古臭いイメージがあるのかもしれませんが、そもそも極めて優れた特性を持っているので他のエネルギー変換システムに置き換える必要が殆ど無いということです。(勿論エネルギー効率を考えればガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた「複合サイクル」にするに越したことはありませんが、経済性を含めると今ある寿命内の軽水炉を作り替えるのは非現実的。)
D-T反応(Dは重水素、Tは三重水素=トリチウム)が前提ではありますが、現在進行形で検討が進められている核融合発電の模式図でも大概が蒸気タービン発電になっています。
 しかしガンタンクのような独立した乗り物にはあまり向かないのは確かです。原子力発電所や火力発電所のように海や川の近くなら冷却材として水を無尽蔵に使えるというのが蒸気タービンの最大のメリットであり(当然、原子炉は事故リスクのため飲料水になる川では無く、海の近くに作られる)、MSが蒸気タービンで動くためには水をタンクに入れて内蔵する必要が生じる上、冷却の問題も残ります。そんなことをする位なら、「地球上であれば」やはり無尽蔵に使える大気を用いたガスタービンと考えるのが普通でしょう。(ガスタービンにも落とし穴があるのですがそれは後述)
■ガンダム設定の偉い人たちが誤解している会話
宇宙世紀世界の設定:アポジモーターや熱核融合炉など (2ページ目) - Togetter [トゥギャッター]
※10年以上前なので時効ということで。。

 次に②の原子炉とガスタービンのハイブリッドという設定です。そもそもハイブリッドとは何かというと、2つ以上の動力源を組み合わせた駆動システムのことを指します。『ガンダムセンチュリー』設定は、普通に読めば原子炉という動力源と(通常の)ガスタービンという動力源を組み合わせた駆動システムといえそうです。
 ここで『ガンダムセンチュリー』における原子炉とは文脈を読む限りでは「核分裂炉」を意味しています。ガンダム等の他のMSは核融合炉(fusion reactor)とはっきり書かれています。スペック表に記載があるのが辛い所ですが、自分の記憶が正しければ解説文中ではガンタンク・プロトタイプと書かれていたはずなので(調べて書けよという話ですが、ガンダム書籍は電子書籍で買い直したものを除き、一通りスクラップしてPDF化したのですが直ぐに取り出せない状態。。)、RX-75試作1号機(大昔にコミックボンボンに掲載されて、MGモデル ガンタンクの解説書で再掲されたガンタンクの試作車両。見た目はガンタンクの玩具用画稿。)のことと考えれば(無理はありますが)熱核反応炉の完成前にダミーで搭載されたと仮定すれば何とかなるでしょうか。
問題はガスタービンとのハイブリッドとされている点です。これは原子炉では何らかの方法で電気を起こし、それとは別に通常のガスタービンを搭載していると考えるのが自然でしょう。(『ガンダムセンチュリー』ではMSのエンジンは「化学ロケット」とされているのでガンタンクだけ熱核エンジンを搭載していたという想定とは考えにくいです。)
で、ここで落とし穴があるわけです。ガンタンクは『機動戦士ガンダム』第3話「敵の補給艦を叩け!」にてほぼ大気が無いはずの小惑星上を走っていました。ガスタービンというのは通常は外気を取り入れて圧縮、燃焼して軸動力を発生させ排気するという流れなのですが、小惑星では吸う空気が無いわけです。恐らく『ガンダムセンチュリー』ではガンタンクを陸戦兵器として扱っているのか、小惑星では原子力-電力で駆動、地上ではハイブリッドという意図かとは思いますが、ガンタンクは本来、宇宙戦車(宇宙戦車についてはまたの機会に取り上げます)として開発されていると思われますから、この想定のハイブリッド式はいかにも無駄が多いです。しかしここでも逃げ道というかガスタービンにはそもそも、作動流体の使用様式によって開放サイクル(ガスの流路が外気と繋がっていて吸気と排気を行う)と密閉サイクル(ガスの流路はシステム内で閉じていて排気せずに循環させる)とがあります。高温ガス炉では密閉サイクルを使うのが一般的であり、その作動流体として用いられることが多いのはヘリウムガスです。普通は”超”勿体無いですが、ガンタンクには核動力としてヘリウム3が内蔵されており、密閉式なら使い捨てるわけでは無いので、ヘリウム3を作動流体としても流用していると考えることが可能です(概念としては)。ここで説明が先走っていますが、ガスタービンには加熱方式において「内燃式」と「外燃式」があります。因みに蒸気タービンでは必然的に「外燃式」となります。「内燃式」は(普通は)空気中の酸素と酸化剤(いわゆる燃料)を燃焼させてタービンを回す方式なのに対し、「外燃式」は単に作動流体を熱源を用いて熱膨張させて燃焼を起こさずにタービンを回す方式です。原子炉を持つガンタンクの場合、ガスタービンは「外燃式」にできるわけです。また、この考えは先程のプロトタイプはダミーで「核分裂炉」を搭載したという考えにも繋がります。「外燃式」の場合は熱源の自由度は比較的高く、開発が難航するであろう熱核反応炉以外の部分をテストするのに「核分裂炉」を用いたとするなら、実戦に用いないことによって被撃墜による核分裂炉の破損→メルトダウンのリスクの問題もクリアーされます。なお、特に説明が無くガスタービン・エンジンと呼ぶ場合は「内燃式開放サイクル」と考えてほぼ間違いありません。

 最後に③についてですが、燃料電池とガスタービンというのは恐らくガンタンクに原子炉は搭載されていないという前提で書かれているものと思われます。こちらも詳しい説明が無いので燃料電池とガスタービンを別々に装備していると想定しているか、もしくは「ガスタービン燃料電池複合発電」を想定している可能性もあるにはあります。
■ガスタービン燃料電池複合発電の実例

 ただ、このシステムは固定式に向いている上、発電時に原子力の熱を利用できるものの、結局酸素が必要であり、高出力の原子炉を使うのにわざわざ燃料電池を間に挟む意味が薄いので、単にAPU(補助動力)として独立した系と考えた方が筋が通るように思います。
■トヨタとJAXAによって開発中の月面ローバ(燃料電池搭載の車両)

 さぁ、だいぶ長々となってしまいましたが、既存設定を極力否定する事なく、ガンタンクの動力を論考した場合、最後にネックになるのが前回話したジェネレーター出力の設定です。この設定は現在の殆どのMS解説にも掲載されているので公式度(というか認知度)が極めて高く無視できないのですが、仮にガンタンクが完全電動駆動とするには878kWではあまりに心もとないというのは確実です。そこで基本的にはガスタービン・エンジンで動くとするならジェネレーター出力は低くても殆ど困ることはありません。ガンタンクに限らず、私が直接発電に否定的な理由がジェネレーター出力設定にあります。モビルスーツは戦術汎用宇宙機器なのだから、ロボットである前に小型宇宙船なわけで、熱核反応炉の最大の目的は発電では無く熱核エンジンなのではないかという考え方です。私の知る限りでは直接発電とかMHD発電と明確に書いている資料もあまりないので、そこまで荒唐無稽ではないように思います。

ではまとめですが、私が考えるガンタンクの動力は熱核密閉サイクル・ガスタービン・エンジン・パラレル方式ハイブリッドと補助動力として燃料電池ということで、強引な解釈はしていますが各設定は否定しておりません。直接発電を否定してもジェネレーター出力の低さを明確に説明できるのはガンタンクだけですが、頭の体操ということで。発電方式の設定が固まってきたら考え直します。。



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