ジョイフルキング(28)
遠くの方で雨雲が黒く雷がなっている。
昔昔あるところに、駅からちょっと離れた田んぼのど真ん中で高校生の男女が歌の練習をしておりました。
高校の時、「運動部」という部活を作った友達がいた。当時は面白い!と思った。
小説を書こうと思った。作品名は「最終巻」当時は面白い!と思った。
当時はね当時はだよ。
今は2つとも面白くない。だってなんかそう
考えた理由がわかるもん。じゃあ今は何が面白いかって?
私とアキの生まれ育った故郷は音楽の町、ではなく田んぼとぶどうやりんご農園が多い町で、なかなかの雪国だ。特産品を言ってしまうと場所がばれてしまうのでこの辺で。
遠くの方の雨雲がこっちに近づいてきてる。風が強くなってきてる。
「アキーこの寒さヤバいよ!あの雨雲多分雪だよ。手が冷たすぎてギターに力はいんねーよ。練習はここまでにしよーよ。いくら音気にしなくてすむにしろ今日の外は厳しいよ!」
アキ「サビ行く前に、呼吸が続かないのよ!もう少し!」
「風強くなってきたよ。まずいって!ここ田んぼしかないからモロじゃん。」
アキ「サビ行く前のBメロから音ちょうだい!」
「マジかよ!ちょっ…まっ…なんか吹雪いてきてない?」
横殴りの雪が降ってきた。
「アキ!まずい!」
急いでギターをケースに入れた。
「べちゃべちゃ雪だ!ずぶ濡れになるぞ!」
地面に落ちた雪はすぐ水になり、体に当たった雪も濡れて、雨に濡れた感じになる。風はさらに強風になり、視界が雪で見えなくなる。
「アキー!」
田んぼに向かって歌うアキの後ろ姿が吹雪で消えかけてきた。それでもアキは田んぼに歌っていた。吹雪でも。
私は、アキの姿が見えなくなる瞬間にギターケースとアキの手をとり、駅の方に走った。アキはついてきてくれた。
駅についた。俺もアキもずぶ濡れだった。二人とも息が上がっていた。
「ヤバかったな吹雪」
アキ「走ってるとき気がついたのよ!あんたがBメロの時、私の1個上のパートをミックスボイスすればいいのよ!」
「はあ?」
アキ「そうすればサビに行く前に私の声が弱くなっても、サビにこうなんかこう、ガーンってサビにガーンっていける!」
「はあ?って服大丈夫?」
アキ「いい?Bメロよ!Bメロ!」
中2の夏。ではなく、
中2のアキ。ではなく、
高2の冬。
実はね、走った時にアキの手をとってる時、ドキドキしたよ。あの時一応俺は男の子で、アキは女の子だったから。
吹雪の視界の悪さと雪の寒さと女の子と手を繋いで走るドキドキ。
くそジジイになった俺は、あの頃を思い出して思い出し笑いしてた。
クソババア「何笑ってんの気持ち悪い。ねえ!くそジジイ!このBメロなんとかなんない?いい?Bメロよ!Bメロ!」
クソババア「ねえ?このクソババアって私のこと?ふざけんなこのくそジジイ!!!」
時が経つってこんなに面白いんだ。こんな風になるなんて考えもしなかったよ。
今はこれが面白い。
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