ジョイフルキング(34)

暗い海の深淵の中に、私とジョイフルキング。アンコウの光がみえる。アンコウの光いらない。この世は私とジョイフルキングだけである。なんて素晴らしい世界なんだろう。なんて素敵な世界なんだろう。この素晴らしい世界素敵な世界が永遠に続く世界に私はいます。


私がこのジョイフルキングとかいうみたこともないバンドの曲を一番聞いてる人間である。私は人間として生を授かりました。人間でよかったです。妄想というものができる生き物でしたから。
もの心ついた時から孤児院にいたので親とか知り合いとかいないのでよくわからないのですが、他人があまり好きじゃありませんでした。人間に生まれたけど他の人間は好きじゃありませんでした。学校にも行かなかったので知り合いもいません。学校に行かなくてよかったです。だって学校にいったら人と会う。なので一人で、ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーと、妄想してました。孤児院の時、いいだろーとオモチャの車を自慢してきた人がいました。私は、その車を見て、その車に乗ったら車から羽根がはえて大空を飛び回ったり、車の前からドリルが出てきて、地中を掘り、古代遺跡をみつけ探検する…妄想をしてました。
13の時、孤児院の人間関係が嫌で脱走しました。歳を偽って転々とアルバイトしましたが、人間関係が嫌で長続きしませんでした。それでも工場の生産ラインで誰とも話さず、ただ商品が流れてくるのをみてるバイトは最高でした。今日はどんな妄想しようかなとかあんな妄想しようかなとか毎日が楽しくてしょうがありませんでした。
ある日、工場が閉鎖されました。ですがなぜかこの国は仕事のない私にお金をくれる国でした。なんて素敵な国なのでしょう。そのお金で雨風をしのげる部屋と排泄物を出せる場所と蛇口をひねれば水がでる場所にいさせてくれる国でした。十分です。炊き出しはいつもいきました。食べ物をくれるなんて素晴らしいんだ。ダンボールに住んでる人達がたまに食べ物をくれます。知らない人に食べ物をくれるなんてやさしいしなんて金持ちなんだ。サラリーマンの人達は知らないサラリーマンに食べ物はあげない。

さすがにその辺の道端の草は、食べられる草と食べられない草があるので、危ないし草だけで生きていけない。激安スーパーで食べ物は買います。激安のものだけ。十分です。そしてなんと、雨風をしのげる場所には火を出す装置までついてました。これで食べ物を焼けます。え?鍋?フライパン?落ちてますよ。その辺に。私、ちゃんと服きてますよ。え?服?落ちてますよ。その辺に。え?落ちてない?探す能力がないのでしょうかね。私もそんな能力ないですけど。

さて、部屋で10万円の紅茶を100万円のティーカップで飲みましょう。現実はかけたコップに水道水。今日は、7つ星のシェフが作ったスープです。現実は炊き出しでもらった味噌汁。なんでもいいんです妄想なんで。妄想しかしてません。食べて、寝て、妄想だけの日々です。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、五感すべて妄想でカバーできます。なんて素晴らしい世界なんでしょうか。なんて素敵な世界なんでしょうか。この世界で私より幸せな人間いないでしょう。

ただひとつ。さすがの私の妄想力でも、小鳥のさえずりや川のせせらぎで、あのジョイフルキングとかいう音楽には辿り着かない。スーパーで聞いたジョイフルキングとかいう歌手の歌。いい。私の妄想力不足ですね。早速CDラジカセを拾ってきて、ダンボールに住んでる人達からジョイフルキングとかいうCDを買いました。いい。このジョイフルキングは愛というものを伝えているようですが、愛は食べ物じゃないので私にはよくわかりません。きっとジョイフルキングの音楽がいいってことが愛のような気がしてます。学校いけば先生が教えてくれたのかな?

食べて、寝て、ジョイフルキングの音楽聞いて、妄想する。何十年もこれだけです。ジョイフルキングみたこともありませんが妄想でジョイフルキングのすべてのコンサートの最前列にいます。なんて素晴らしい世界なんでしょうか。なんて素敵な世界なんでしょうか。この世界で私より幸せな人間いないでしょう。
この世界でただ一人、このジョイフルキングを見届けよう。


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