落ちてない転んだだけ

盛大にすっころんだ。
“すっころんだ”と書くん値するほど見事に。
夜、コンビニを出て、車通りの無い目の前の道を渡ろうと進んだ途端、
歩道と車道を区切るコンクリートのアレに足が引っかかり転んだのだ。
僅か20㎝くらい。いや15㎝くらいだろうか?
暗かったとはいえ、見えなかったとはいえ、全く足が上がらなかった。
片手にカバン、もう片手に傘を持ち、
手を出す事もままならず、前受け身のように前方に真っすぐ倒れた。
あまりにも真っすぐだった。身体が。気を付けの姿勢でもとってたんじゃなかろうかと思うくらいに。

すっころんで直ぐに起き上がりたくはなかったけれど、
すっくと立ちあがり呟いた。
「ああ、つらい」と。
本当はしばらく横になって悔しさと折り合いをつけたかったのだけれど、
起き上がらなければと思ったのだ。
道を横切ろうとする前に、車が来ないかを確認するため、一度左右を見ている。
その時にふと目に入った一人の女性。
その女性がこちらに向かって歩いてくるので倒れたままでは恥ずかしいと思ったのだろう。
立たねばと思った。
倒れたままだろうが、すぐに起き上がろうが、どちらにせよ恥ずかしいのだから、
まっすぐ地面に突っ伏していればよかったものを。
運動能力の他に思考力も無いのか自分よ。

立ち上がると痛みがあった。
膝だ。
服が破れたかと思って確認するも、全く損傷は無さそうだった。
けれど暗い道でのこと。本当は破れているかもしれないから後で念入りに確認しようと思った。
膝が痛い。
ふと、右手を見ると流血していた。
薬指だけが血塗られている。
痛みは良く判らなかったけれど、血が滴っていた。
思ったのは、服を汚してはいけない、ということだ。
右手を心臓の辺りに、手のひらが上の方を向くように構え家に向かって歩き出した。
「令和」の手話に似ている形だ。
もっとわかりやすく言うと、粗品の突っ込みの時の手の形。
そのまま家に帰り、手を洗い、ばんそうこうを貼る。
そこからやっと点検が始まる。
傘―折れてない。かばんー汚れてない。上着―変化なし。ズボンー破れていない。
膝―痛いけれどキズがない。腹部―傷一つなし。顔―顎が痛いが血も出ていない。
どういう訳だか右手薬指以外は無傷に見えるのだ。
右手薬指の流血は詰めの真ん中あたりが割れており、そこからのものと
少し擦り傷になっているような箇所からだった。
絆創膏2枚でなんとかなるくらいだ。
風呂に入って寝た。

しかしショックはショックだったのだろう。
翌朝起きたら窓はカーテンが開けっぱなしだったし、どこも汚していないと思っていたパジャマや布団にも血のシミが。
徐々に肩や肘も痛くなり、左頬も薄っすらと色が違くなっている。
アト精神的二キタ。
今も結構凹んでいるし、食事の時は橋が右手薬指に当たって痛い。
あんなに見事にすっころんだのに、軽症で済んだのに凹んでいる自分を思って更に凹んでいる。
こんなに凹んだのは大晦日に子供とブレイブボードで遊んでてコケて肘の骨を少し折った時以来だ。
よく道端で横になっている猫を見かけると「落ちてた」と言っているけれど、今回は話と共に落ちてはいない。

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