【有志翻訳】中華BL小説『C語言修仙』 第十六章

これは『晋江文学城』で販売されているBL小説『C语言修仙』(作者:一十四洲) の無料公開部分の有志翻訳です。中国語学習者による素人の翻訳なので間違っているところもあるかと思います。間違えていても許してください…もし何か見つけたら教えてください。

第十六章 オーバーフロー(2)

その一言を聞いて、そこにいた剣修たちはどっと笑い声を上げた。まるで何か途方もない冗談を聞いたような反応だった。
 
「どうした?この期に及んで警察でも呼ぼうってのか?」
 祁雲チーユンは言った。
 
警察か、それもいいだろう。
だが山の麓からここまで来るのに少なくとも2,3時間かかる。警察が来るのを待っていたら、この場はとっくに解散してしまう。
それに…彼らは修仙しているのだから、身体能力はもう普通の人と違っていて、警察でもどうしようもできないかもしれない。
 
林浔リンシュンは何も言わずに左手でキーボードを支え、右手でキーボードを叩いて、必要になった時のために用意していたプログラムを呼び出した。

 祁雲チーユン林浔リンシュンが何をしているのか全くわからず、大声で言った。
 
「師弟、別に刀剣類を使わなくなっていいんだぜ——琴を弾いて音律で攻撃するんなら、それでもいい——でもお前はキーボードを叩いて、それで俺を笑い殺す気か?」
 
祁雲チーユンの後ろで剣修の一人が言った。
 
「師兄、俺たちを惑わそうとしてるのかもしれません。笑えば功力が弱まるのでヤツでも勝ててしまうのかも」
 
「……」
 
剣修たちの声はみな若く、学校にも行かず働いてもいない若者みたいな話し方をしていた。
 盛んに威勢のいいことを言って、自分からは手を出さず、かわりに馬鹿にしてくる様子は、よほど勝算があると思っているようだ。
 
だが彼らが林浔リンシュンの力量を馬鹿にするのはチャンスだった——戦いの最中にキーボードをパチパチ叩かずとも、先に必要なプログラムを全て呼び出しておくことができる。
 
元宵ユェンシャオ林浔リンシュンの背後から小声でささやいた。
 
「林師兄、ほかの人たちは煉気期だけど、祁雲チーユンは築基期なんだ。祁雲チーユンは築基期に入ってもう1年経ってる。一番得意なのは剣術で、すごく速いんだ。ほかの奴らと一緒になって剣陣を結ぶこともある」
 
「分かった」
 
その時、祁雲チーユンは馬鹿にするのをやめて剣を突き出した。
 
「どんな法器を使おうが、俺の剣で本物ってやつを見せてやる!」
 
祁雲チーユンの剣が輝いた。
夜の闇の中で剣光がまるで虹のように伸び、正面からまっすぐ林浔リンシュンを貫いた!
 
だが襲ってきたのは剣だけではなかった。
 周囲の空気が一瞬にしてかたまり、気圧が急に低くなるのを感じた。まるで何かが林浔リンシュンを圧迫しているみたいだった。
 
林浔リンシュンは軽身術を実行して、左側へと滑り出た。
次の瞬間、氷のように冷たく鋭い気配が別の方向から巻き起こった!
 
祁雲チーユンは素早い剣術が得意だと言っていたが、予想通り祁雲チーユンの剣はとても速かった!
 
もしも軽身術を使って避ける速度を上げていなければ、もしもファイヤーウォールで剣気が阻まれていなければ、林浔リンシュンは間違いなく剣気で真っ向から攻撃されていた!
林浔リンシュンは素早く数メートル後ろに飛んで逃げた。
 
祁雲チーユンは冷たくフンと言った。
「お前の防御結界は意外と悪くないな!」
 
次の瞬間、祁雲チーユンはだしぬけに剣を向けてつき刺そうとした!
 
長剣が空気中に残像を描いた。林浔リンシュンは頭をそらして避け、飛び上がって距離をとり、着地した後で体をひねって次の一撃を避けた。
 
林浔リンシュンは瞬きもせずに祁雲チーユンをじっと見つめ、軽身術を見事なタイミングで発動させ続けた。1時間後、2人は避けたり追いかけたりしながら、何度も技を繰り出していた。
 
「お前ら青城山は今回も亀みたいに意気地なしだな!」
 
元宵ユェンシャオは木の影に身を隠しながら言った。
「お前は築基期なのに、煉気期の弟子をいじめてるんだ!恥知らず!」
 
「俺はこいつが築基期だと認めよう。だが俺の剣が認めるかな!」
 
次の瞬間、林浔リンシュンは周囲の圧力が一瞬にして高まり、移動速度が阻まれるのを感じた。
 
しかし……
 
先ほど林浔リンシュン祁雲チーユンの術を避けていた。だがそれ以上に重要なのは、林浔リンシュン祁雲チーユンの体の上にあるコードを読んでいたということだ!
 
何度か祁雲チーユンの功夫を見たので、祁雲チーユンの体の上でスクロールするコードはもう大体読めた——この男の攻撃手段は単純でお粗末だが有効なもので、プログラムがやっているのは合法と非合法の間のグレーゾーンな動きだ。
 
——現実世界では、祁雲チーユンの剣気ががむしゃらに林浔リンシュンを攻撃している。だが林浔リンシュンの目には、祁雲チーユンががむしゃらにこちらへデータパケットを送っているように見えた!
 
10年前の旧式の携帯電話なら、メモリが限られているので、悪意のあるソフトウェアによって毎秒数百回のペースでショートメッセージやメールを送りつけられると、メモリがあっという間に満タンにり、システムの実行が阻まれてクラッシュしてしまう。
 
——今の状況は同じ原理で説明できる。
 
もし林浔リンシュンの受け取るデータがシステムの処理能力を超えれば、システム全体の実行が阻害されてクラッシュしてしまうだろう!
 
だがこの手口はとても古くさいもので、林浔リンシュンに言わせれば目新しいものは何もない。
 
——サイバー攻撃の分野では、林浔リンシュンにとって目新しいものは何もないということは、王安全にとっては骨董品レベルに時代遅れということだ。
 
メール爆弾ごときが王安全お手製のファイヤーウォールに敵うわけないだろう?
 
その瞬間、祁雲チーユンの剣が肉眼ではとらえられない速さで迫り、林浔リンシュンの視界に剣が広がった。剣気が林浔リンシュンの退路をふさいだ。そして——強力無比な剣気がまっすぐ林浔リンシュンの顔めがけて向かってきた!
 
林浔リンシュンは動かなかった。
 
剣の切っ先が音を立てて空気を切り、次の瞬間には林浔リンシュンに突き立てられるという時にも、祁雲チーユンには少しも退こうとする意思を感じられなかった。林浔リンシュンは顔を上げて祁雲チーユンの目を見た。その中には残忍な意思があった!
 
——本当にこいつは文明人じゃない。
 
だが、こいつが社会人になったところで何ができるというのだろう?
 
林浔リンシュンはかわしたり避けたりせず、まばたきひとつしなかった。次の瞬間、剣がまるで打ち破ることのできない硬い壁にぶつかったように突然動きを止め、祁雲チーユンが数歩うしろによろめいた。
 祁雲チーユンの目に驚きが走った。
 
その瞬間、林浔リンシュンは目を細め、キーボードを手に、最初のF11を押した。
 
今回は、隣人に使ったワームウイルスではなく、トロイの木馬だった。林浔リンシュンには推測があった。
 
トロイの木馬というのは、実は二つのプログラムで作られている。一つはコントローラユニット、一つはサーバユニットだ。コントローラユニットは林浔リンシュンのもとにとどまり、サーバユニットは相手側のシステムに侵入する。
 
トロイの木馬を埋め込んだら、トロイの木馬に仕込んだプログラムの所有者は、自分の元にあるコントローラユニットを通して相手側のコンピュータを操作できる。
 
——林浔リンシュンはこう推測していた。
 
今はまだ他の人の中にあるプログラムを書き換える方法がない。それなら、トロイの木馬を埋め込めば書き換えれるんじゃないか?
 
3秒後、トロイの木馬の設置が完了した!
 
プログラム実行画面が更新された!
 うまくいった!
 
ちょうどこの時、祁雲チーユンは今朝の隣人とおなじ苦境に立たされていた——どれほど剣を振り回して斬ろうとしても、林浔リンシュンの髪の毛一本にすら触れない。
祁雲チーユンは激しい声で言った。
 
「結陣!」
 
その声を受けて背後の剣修たちはすぐに散らばり、奇妙な陣形を組んだ。片手で印を結び、片手で剣を持ち、林浔リンシュンの側面や背後に回り込んだ。
 
林浔リンシュンは彼らのプログラムをちらりと見た。
 
——いいだろう。単なるDOS攻撃から、分散型のDDOS攻撃へとレベルが上がったわけだ。
複数のコンピュータが一緒になって攻撃プラットフォームを構成するので、一台のコンピュータから攻撃するよりも攻撃力が爆発的に上がる。
 
林浔リンシュンはふわりと跳び上がり、山中の古木の枝に移って、右手で素早くキーボードを叩いた。
 
「いつまで耐えられるかな?」
 
祁雲チーユンはそう言って、鳳凰が羽を広げるみたいに両手を広げた。そして、奇妙なステップをふんで林浔リンシュンへと飛びかかった!
 
陣形を組んだ剣修たちも剣を構えてつき進み、長剣が四方八方から林浔リンシュンを刺そうと迫った。
 
林浔リンシュンはパチパチとキーボードを叩き続けた。cherryのキーボードが立てる爽やかな音に、リラックスした気分にすらなった。
 
全ての切っ先が間近に迫り、林浔リンシュンはスズメバチの巣のように穴だらけにされそうになった!
 
——林浔リンシュンは人差し指をF11キーの上に戻し、軽やかにポチッと押した。
 
祁雲チーユンの体がぐらりと揺れた。
 
祁雲チーユンのプログラム入力インターフェースに浮かぶエラーメッセージを見て、林浔リンシュン祁雲チーユンに向かって首をかしげた。
 
祁雲チーユンは戦いの最中くどくどとしゃべり続けていたので、林浔リンシュンも思ったことを口に出さずにはいられなかった——林浔リンシュンはやりたいと思った通りにやることにした。
 
「師兄、勝たせていただきました」
 
1秒後、祁雲チーユンはまるで内傷を受けたかのように咳き込んだ。2秒後に、長剣を取り落とし地面にどさりと倒れこんだ。
 そして3秒後、祁雲チーユンは激しく咳き込んだ。
 
「俺は…どうして俺の気は乱れてるんだ…ッ!」
 
この3秒のうちに、祁雲チーユンと共に剣陣を組んでいた剣修たちも、まるで鍋の中の餃子みたいに折り重なって次々と倒れていった。
 
戦いを終えた林浔リンシュンは、キーボードを抱えて軽やかに地面に着地した。
 
林浔リンシュンはしゃがんで祁雲チーユンの剣を拾い上げ、元宵ユェンシャオの方へと歩いた。
 
「どう説明していいかわからないんだけど、コンピュータの勉強をしたことはあるか?」
 
——実際、林浔リンシュンがやったのは簡単なことだった。祁雲チーユンのコアコードにもう一行コードを書き加えただけだ。
 
たった一行だが、しかし、肝心な変数の値を変えたせいで祁雲チーユンのコードのループ全体がめちゃくちゃになってしまった。
 
無限ループ、バッファオーバーフロー——一連のエラーメッセージは災難としか言いようのないものだった。
 
祁雲チーユンはコンピュータの勉強なんかしたことがないなんて言うこともできず、苦しそうにあえいだ。
 
「俺の剣を返せ!」
「銃砲刀剣類だ」
 「……お前!」
 
だが苦しげな呼吸はますますひどくなり、もはやしゃべることすらままならない様子だった。
 
「大師兄、すぐに師父のところへ行って気を整えなきゃいけません!経絡が傷だらけになって走火入魔しちゃいます!」
 
剣修たちはお互いに体を支えあって、ヨロヨロと南のほうへ去っていった。林浔リンシュンは振り返って剣修たちをちらりと見た。
 
祁雲チーユン林浔リンシュンのほうを振り向き、キーボードに目をやった。その視線は恐怖に包まれていたが、それでも屈していなかった。
 
「待ってろよ!」
 
剣修たちがいなくなるのを待って元宵ユェンシャオが木陰から出てきた。すこしぼんやりしているように瞬きを一つして、崇拝を込めて言った。
 
「林師兄、いったいどうやったの?」
「無極宗の秘技だよ」
 「わあ……」
 
林浔リンシュンはキーボードをリュックに戻し、手にした剣を見てひとりごとを言った。
 
「これはどうしよう?」
 「師兄……ど、ど、ど、どうしてあいつの剣を奪ったの?」
 「所持は違法だから没収した」
 「で…で…でも」
 
元宵ユェンシャオは目を大きく見開いた。
 
「あいつは剣修、剣修なんだよ。剣修の剣を奪ったってことは、あいつの親を殺したようなもんだよ。あいつはすぐに殺しに戻ってくるよ!もしかしたら師父を連れてくるかもしれない!」
 
林浔リンシュンは手に持った剣を見つめた。
 
「……」
 
林浔リンシュン元宵ユェンシャオと目をあわせた。元宵ユェンシャオは恐怖の中に興奮をにじませて言った。
 
「あいつらは自分が戦うために武器を持って青城山を挑発しに来たのに、結局剣を取られちゃったんだ!うわさが広まれば笑い物だ、これでやっと鬱憤が晴れる」
 
林浔リンシュンは笑った。
 
「じゃあこれから俺たちは?」
 
二人はもう一度目を見合わせ、なにも言わずとも同時に足を速めて、青城大殿へと向かった。
 
——三十六計逃げるに如かず、師父・師叔を探して守ってもらうのに如くはなしだ。
 
「師兄、何でそんなに冷静なの?」
 「冷静?」
 
元宵ユェンシャオはぶるぶると震えながら言った。
 
「僕は修仙してるけど、もともと全然向いてないんだ…あいつの剣が向かってきたとき、死ぬほど怖かった。ただ目をつぶって逃げて死ぬのを待つだけだった。師兄は修仙を始めたばかりなのに、あんなに何度も斬りつけられそうになったのに、まばたきひとつしなかった」
 
林浔リンシュンは考えた。
5分ほど考え込んで言った。
 
「俺はプログラマだからな」
 
プログラマの生活はとても単調に見えるが、実際のところ刺激にあふれている。
 1つのプログラムは書くのにとても時間がかかる——だが実行するその瞬間まで、その中にどれくらいバグがあるか分からない。
 
毎日コンパイラに向かって何百行、何千行ものコードを書き、実行ボタンを押すと不特定多数のバグが出てくるような生活をしていると、数年後にはその精神は他の人とは違ったものになるというわけだ。
 

・訳者おまけ

・データパケットとは
ネットワーク経由でやりとりされるデータの塊のこと。メールや画像や動画などのデータをやりとりする際には、データは複数のパケットに分割されて転送されている。
 
・メール爆弾とは
大量のメールや巨大なサイズのファイルを添付したメールを送りつけて、メールサーバーをダウンさせるサイバー攻撃。DOS攻撃(1台のコンピュータから標的となるシステムにパケットを殺到させる攻撃)の一種。
 
・DDOS攻撃(分散DOS攻撃)とは
多数のコンピュータから標的となるシステムにパケットを殺到させるサイバー攻撃。標的にされたシステムは過負荷状態になり、通常の挙動ができなくなったり重くなったりダウンしたりする。
 
・バッファオーバーフローとは
バッファに許容量を超えた大きさのデータが書き込まれることで発生するバグ。C言語など、直接メモリ操作を行う言語で書かれたプログラムで発生する。プログラムが確保している、処理を行うためにメモリ上に確保した領域(バッファ)を超えてメモリが上書きされてしまい、意図しないコードが実行されてしまう。

・単語リスト

・社会青年(Shèhuì qīngnián):進学も就業もしてない青年
 ・气焰嚣张(Qìyàn xiāozhāng):盛んに気炎を上げること
 ・噼里啪啦(Pīlipālā):パチパチ
 ・目不转睛(Mùbùzhuǎnjīng):瞬きせず見つめる
 ・〜到极致(Dào jízhì):〜の極致である
 ・缩头乌龟(Suō tóu wūguī):(頭を縮める亀のように)根性なし、意気地なし
 ・欺负(Qīfù):いじめる
 ・招式(Zhāoshì):武術の型
 ・快剑(Kuài jiàn):動きが素早い剣術
 ・数据包(Shùjù bāo):パケット、データパケット
 ・网络攻击(Wǎngluò gōngjí):サイバー攻撃
 ・轰炸(Hōngzhà):爆撃
 ・马蜂窝(Mǎfēngwō):スズメバチの巣
 ・承让(Chéng ràng): なんとか勝たせていただきました
 ※試合に勝った人が負けた人に謙遜して言う言葉。負けた人は「惭愧,惭愧」と言う
 ・缓冲区溢出(Huǎnchōng qū yìchū):バッファオーバーフロー
 ・下饺子(Xià jiǎozi):混雑している様子。芋洗い状態
 ・眨巴(Zhǎbā):まばたきする
 ・作案(Zuò'àn):犯罪をおかす

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