【有志翻訳】中華BL小説『C語言修仙』 第十四章
これは『晋江文学城』で販売されているBL小説『C语言修仙』(作者:一十四洲) の無料公開部分の有志翻訳です。中国語学習者による素人の翻訳なので間違っているところもあるかと思います。間違えていても許してください…もし何か見つけたら教えてください。
第十四章 ファイアウォール(4)
姜連が次に目を覚ましたときには、もう夕方になっていた。
霍中医はひげをそっと撫でた。
「いましがたお主は大声で叫んで、ひきつけを起こしたから、針と灸を据えてやったぞ。お主に薬を出してやろう。この薬の名は『無極癲癇丸』といって、我が家に伝わる秘伝の薬じゃ。我が家は代々、医師の家系で、皇帝の侍医をつとめたこともあると言い伝えておる。お主は安心するがいい。もしまたてんかんの発作が出たら、その時に西洋医術にかかるのでも遅くないじゃろう」
霍中医は話題を変えて続けた。
「じゃが、お主の病の原因は究明せねばなるまい。ここに来る前に、どこか奇妙な場所に行かなかったか?もしくは、挙動不審な人物に出会いはしなかったか?」
姜連は首を振った。
「そんなことはなかった」
霍中医は真剣な顔をした。
「これは非常に重大な問題なのじゃ。本当に、何か異常なものには遭遇しておらぬのか?」
「いいや。唯一異常なものといえばあなた達——」
姜連は礼儀を守るために、言いかけた言葉をギリギリで止めた。
霍中医はため息をついた。
「ならば出来ることはこれだけじゃ。ひとまずよく休みなさい、そうすればすぐ元気になるじゃろう」
姜連は部屋の中を見回した。
部屋の中は全てが普通だった。
姜連は林浔たちを見回した。
誰もが全て普通だった。
王安全が姜連の前に出て、親しげな様子で言った。
「姜哥、もう仕事は終わる時間だよ。おだいじにね。もし病院に行く必要があるなら、俺たちが費用を払うから」
林浔が続けた。
「うちの会社は泊まる場所も用意してるんだ。隣の部屋は住んでる人がいないから、もし交通が不便なら引っ越していいよ」
姜連はもともと目が泳いでいたが、林浔が「引っ越していいよ」と言うのを聞いて、途端に意識がはっきりしたようだった。
「いいえ。ご厚意には感謝しますが」
そして姜連はパソコンを片づけ始めた。
「お先に失礼します。それではまた」
そう言うなり、姜連は素早く部屋を出て行った。まるで遊園地に来た人がお化け屋敷から慌てて逃げ出すような勢いだった。
赵架构は王安全のひじをポンとたたいた。
「なあ、姜連は明日も出勤すると思うか?」
王安全は何も言わず、黙っているよう目で警告した。
「?」
王安全は赵架构の耳もとに近づいて、横目で霍老头を見ながら低い声で言った。
「俺たちは知りすぎてしまった」
赵架构も、突然ぶるぶると震えはじめた。霍老头は手を背中で組み、厳しい目で二人を見た。
「お主らは一日中家でパソコンの修理をしたり遊んだりしているのじゃから、おそらく外の世界との交流などないじゃろう」
「その通りです、霍爷爷」
王安全は誠意をこめて言った。
「実は、私と小赵は突発性の難聴と、突発性の視覚障害と、永遠に口がきけないという不治の病を患ってるんです。私たちは何も見てないし、何も聞いてません。どんなことも話したりなんかしません」
「ふん、ならば今のところはお主らを信じてやろう。じゃが小林は明日、わしと共に蜀に行かねばならぬ。お主らは二人で生活しろ」
霍老头は大股で戸口へと歩き去り、ドア枠の上に黄色い呪符を一枚貼った。
「結界を張った、これでお主らの平安は守られる」
「ありがとうございます、師父」
霍老头が立ち去るやいなや、林浔は王安全と赵架构に囲まれた。
「算法、ちゃんと説明してくれよ。おれは今夢でも見てるのかな?」
王安全が言った。
「俺もこれが夢なら良いって思うんだけど、違うよ」
林浔は包み隠さず、この数日経験したことの一部始終を話した。そして、王安全と赵架构の唯物主義の世界観が崩壊する音を聞いた。
赵架构はぼんやりと窓の外を見つめた。
王安全は椅子の上にへたりこんだ。だが五分後、突然瀕死の状態からがばりと回復した。
「ってことは、算法、もしおれも修仙するか、あんたが俺のコンパイラにHello World を書くかしたら、禿げる苦しみから永遠に逃れられるってことだよね?」
「理論上はそうだな」
王安全は、言葉も出ないと言いたげな様子で褒め称えた。
「それってとっても良いことだね」
王安全の堅牢な唯物論の世界観は、禿げないという誘惑のもとで、ついに徹底的に破壊された。
「林哥、俺にも書いてよ」
「でも今は自分のコンパイラにしかプログラムを書く方法がわからないんだ。安全を変える方法がないから、やり方を探すよ」
ここまで話したところで、林浔は王安全に居丈高に言った。
「いまお前に出来ることは、実行可能なプログラムを俺のために書くことだよ。ファイヤーウォールが必要なんだ。書いて送ってくれ」
王安全と赵架构は現実を受け入れ、お互いに支え合いながら、ふらふらした足取りで部屋を出ていった。二人が出て行くとすぐに、林浔は目を閉じてシステム空間の中に意識を沈めた。
システムが出した報酬をまだ受け取っていなかった。
混沌の宝箱が一つと、初級法器が一つだ。
混沌の宝箱は、ランダムにアイテムを出すものだったが、この初級法器というのは…何なんだろう?
林浔はとても好奇心を刺激された。
ミッションのインターフェースに近づくと、林浔は突然固まった。
「ふぁっ……」
その言葉が口をついてでたきり、何もちゃんとしたことを言えなくなった。林浔は自分の目が信じられなかった。
これは一体なにごとなんだ?
空中に漂っているのは、まるでcherryのキーボードみたいだった!
林浔の部屋にあるものとそっくりだ!
林浔は頭が痛くなるのを感じながら、キーボードに手を伸ばした。
指がキーボードに触れた途端、それは一瞬にして実像を失い、無数の0と1で構成されたデータとなった。光り輝くデータは林浔の体の中へと流れ込んだ。
システムの音が響いた。
「法器の改造が完成しました」
林浔は眉間を揉んで、混沌の宝箱をつかんだ。
今までゲームをした経験から考えるに、こんな風にランダムに報酬を出すアイテムを開けるときには、気をつける必要がある。
人より運が悪ければ、玄学に頼らなければならない。
<※玄学:現象を動かすものの奥にひそむ本質を解明する学問。老子、荘子、易経をあわせた学問>
林浔は目を閉じて、宝箱なんか気にしていないという風を装い、宝箱が林浔に注意を向けていない一瞬の隙をついて、勢いよくふたを開けた!
林浔は目を開けた。
「Fuck…」
——林浔はついに我慢しきれなかった。
銀色をした混沌の宝箱の中には、ポータブルハードディスクが静かに置かれていた。
デザインを見ると、林浔がいつも使っているものによく似ていた。
林浔はポータブルハードディスクを手にとった。予想通り、それは先ほどのcherryのキーボードと同様、光の流れとなって林浔の中へと消えた。
システムの機械音が、あいかわらずの平坦な口調で告げた。
「法器の改造が完了しました」
林浔はこの世界が非現実的で、常軌を逸したもののように思えた。
だが次の瞬間、システムの声がまたしても響いた。
「おめでとうございます。レア法器『開闢以前の宝玉』を解放しました。出現確率は1000分の1です」
開闢以前の宝玉?
1000分の1?
それなら、このポータブルハードディスクは確率1000分の1のレアドロップアイテムなのだろうか?
林浔はシステム空間内を見回したが、新しく特殊なことは何も起きていなかったので、現実世界に戻ってきた。
姜連を昏倒させて林浔の命を救ったCherryのキーボードは元の場所にあった。だが、キーキャップは完全に元通りになっており、その上…どこか言葉にできない雰囲気が漂っていた。
林浔は、キーボードがかすかに光っているように感じられた。
林浔はキーボードを手にとった。金属の冷たい手触りも重さも変わっていないが、接続ケーブルだけがなくなっていた。
これはどういうことなのだろうか?
試しに林浔は、指を馴染み深い手触りのキーボードキャップの上に置いた。すると突然、目の前の世界がさざ波のように揺れた。
実体のない水面がゆらゆらと波打ったあとで、林浔の目の前の世界に幻覚があらわれた。
青色のインターフェースが、半透明な形です目の前に広がり、現実世界の風景と重なった。
林浔は試しにキーボードを何度か押した。
すると文字がプログラム入力インターフェースの上に現れた。
そういうことか。
このキーボードの効果というのは…林浔の体内にあるコンパイラに命令を書き入れることなのだろうか?
それならばこれからは、林浔はシステム空間に入らずとも、現実世界にいながら自分のプログラムを編集できるということだ!
そしてこれは、ただの初級法器にすぎなかった。
ならばあのドロップ確率1000分の1で、システムがわざわざレア法器だと知らせたアイテムは、どんな効果があるのだろう?
林浔はパソコンデスクに向かい、机の収納スペースから、先ほど手に入れたポータブルハードディスクを取り出した。
ハードディスクは黒色だったが、もとの何の変哲もない様子とはずいぶん違った——きらきらと輝き、色彩が入り混じって美しい黒に変わっていた。
じゃあ、これはどうやって使うんだろう?
林浔は少し考えたが、何も手がかりはなかったので、本来の使い方に立ちかえることにした。
ポータブルハードディスクというのは、記憶媒体の一種だ。USBよりも容量が大きく、読み込み速度もずっと速いが、本質的には同じで、どちらもパソコンに差し込んで使う。
林浔はパソコンを開き、ポータブルハードディスクを差し込んで、フォルダを開いた。
よく見慣れた画面が現れた。特殊なところは何もない、前と同じ全く普通の様子だった。
林浔はファイルリストを順番に見ていった。突然、林浔の視線が止まった。
増えている項目がある。
リストの一番下に、「L」という名前のフォルダが静かに表示されていた。
林浔は小さな頃からパソコンをさわってきたので、ファイルをごちゃごちゃに置きっぱなしにするとどうなるかよく知っている。だから、どのファイルをどのフォルダに入れるか、フォルダをどう分類してどう命名するかを全て決めていた。「L」なんていう何だかよくわからない、半年もすれば何でそんな名前にしたのか忘れてしまうようなフォルダを作ることは絶対にありえない。
林浔はカーソルをの「L」というフォルダの上に慎重にあわせて、3秒ほど止まっていたが、ついにそれをクリックした。
C言語のファイルが3つ入っていた。
ひとつはHelloWorld、のこりふたつはループのコードだった。
林浔は呼吸が速まるのを感じた。
これは林浔の体内のシステムにあったコードだ…
ならば、この「L」というフォルダは、自分の体内のフォルダに繋がっているということだ。
林浔はC言語のプログラムファイルを保存している別のフォルダを開き、ファイルのひとつを「L」の中にコピーした。
思ったとおり、コピーしたプログラムファイルは林浔の体内の世界にも現れた。
林浔は気分がとても高揚した。
これなら、外の世界のプログラムを直接コピーして体内の世界に貼り付け、思うままに実行できる。自分の手でコードを打ちこみなおす必要はない。そういうことだろう?
林浔はすぐに自分のC言語のプログラムファイルを全てコピーして貼りつけた——貼りつけたのは、子供の頃から今まで書いたC言語のプログラムファイルだった。使えるかどうかは分からないが、無いよりはあったほうがいい。
いつでも実行できる豊富なプログラムライブラリがあると、安心感がある。
3分後、コピー作業が終わり、林浔はポータブルハードディスクを取り出して部屋を出て、王安全の部屋のドアをたたいた。
——それから、林浔は夜通しでプログラムのデバッグとチェック、リネームを行い午前2時に眠りについた。
だが意外なことに、翌朝目覚めたときにはすっきりした気分で、夜ふかしの後遺症は全くなかった。
修仙しているとこんなに違うのだ。
林浔は着替えて歯を磨き、シャワーを浴びて、電子レンジで3人分の朝食を温めてからゴミ出しに行った。
銀河が巻きおこしたグローバルなLoT化の波は自動運転システムだけにとどまらず、スマートホーム技術も次第に成熟し、人々の暮らしの中に入っていった。
だが古い集合住宅では、インターネットの配線などの様々な問題があって、スマートホーム化の改造をする余地がなかった——元々住んでいた人は続々と出て行ってしまい、小さな集合住宅に住む人は、仮住まいの人か懐古趣味の老人ばかりになってしまった。
林浔がゴミ出しをしていると、向かいに住む青年がちょうど出てきた。この人はフィットネス愛好家のようで、筋骨隆々とした見た目をしていた。
林浔はあいさつがわりに会釈した——林浔はいつも家から出ず、他の家に遊びに行く習慣もなかったので、この集合住宅に住むほかの人とはみな、会えば会釈する程度の浅いつきあいだった。
林浔は会釈した後、その人にはもう注意を払わず、一階のゴミ収集場へとおりてゴミを捨てた。
東の空を見上げると、うっすらとした霞の向こうに太陽が見えた。
日は昇り、また沈む。毎日の生活もそんなふうに同じことの繰り返しだったが、三日前にあのプログラム入力インターフェースが見えるようになってから、林浔の世界は人知の及ばない変化にさらされているように思えた。
背後から足音が聞こえた。
その直後、林浔は背後から急に風を切る音が聞こえた!
林浔は動かなかった。動くのが間に合わなかった。視界の端で、隣人のたくましい腕と固く握りしめた拳が林浔の頭を砕こうとまっすぐ飛んでくるのが見えた!
拳が目の前に迫った!
だが、間一髪のところで隣人の動きが突然止まった。
林浔の体から50センチのところで、隣人の拳はまるで分厚い膜にさえぎられたかのように止まり、それ以上前に進まなかった!
林浔は振り向いた。
隣人の両目は真っ黒で光がなかった。最初の一撃が外れると、隣人は背後から西瓜切り包丁を取りだした!
隣人の額には青筋が浮き、渾身の力で林浔に包丁を突き立てようとした——だが、林浔の前で止まり、それ以上一歩も進めないようだった。
「おはようございます。あなたはファイヤーウォールって知ってますか?」
林浔は隣人の目を見て言った。
隣人は死んだような目で林浔を見つめ、何も言わなかった。
林浔はこの魔種がなぜ自分を狙っているのか分からなかった。だが王安全の作ったファイヤーウォールのことは十分信頼していた。
「ファイヤーウォールっていうのは、コンピュータの内部ネットワークの中に作られるもので、外部ネットワークとの間に作られたバリアなんです——内部ネットワークというのは私、外部ネットワークというのはあなたのことですよ」
林浔はゆっくりと言った。
「ファイヤーウォールの効果は…全ての不正ユーザーの侵入を拒むことです」
隣人は正気を失い、あらゆる角度から林浔に包丁を突き立てようとした。林浔は隣人の肩をポンと叩き、可愛がるような声音で言った。
「まあいいでしょう、あなたに教養がないのは分かってるので」
それだけ言って、林浔は隣人の傍を通りぬけ、集合住宅の方へと戻った。
朝の日差しの下で、自分の姿が影となって地面に落ちた。背後から、発狂したように動く隣人の影が重なった。
林浔は瞬きをひとつして首をまわし、隣人と目を合わせた。
次の瞬間、家を出た時からずっと左腕で抱えていたキーボードを手にした。
姜連に攻撃されて以来、林浔は新しい世界がどれほど危険かわかり、ゴミを出しに行く時にもキーボードを家の中に置きっぱなしにはしなかった。
林浔はキーボード操作なら何だって熟練だった。片手で素早くキーを押し、プログラムファイルを選択した。王安全が心を込めて作ったワームウイルスだ。
Turbo Cでは、Ctrl +F9がプログラムを実行するショートカットキーだ。だが林浔は片手でしか操作できないので、複数のキーを押すのは難しい。だが林浔はこうなることを予測して、キーボードにマクロ命令を設定していた。F11キーを押せば、Ctrl +F9を押すのと同じ効果があり、プログラムが実行される。
林浔は指をF11の上に置いた。キーを押す瞬間、隣人の目を見た。林浔は無表情に、だが心を込めて言った。
「先に手を出したのはあなたですからね」
・単語リスト
・惊厥(jīng jué):ひきつけ
・御医(yù yī):皇帝の侍医
・报销(bào xiāo):立て替え金を精算する
・顿时(dùn shí):急に、にわかに
・谅(liàng):思うに〜のようだ
・老实(lǎo shi):まじめに、きちんと
・一五一十(yī wǔ yī shí):細大漏らさず
・垂死(chuí sǐ):瀕死
・居高临下(jū gāo lín xià):高いところから見下ろす、有利な立場にいる
・搀扶(chān fú):支えあう
・脱口而出(tuō kǒu ér chū):思わず口をついて出る
・呆板(dāi bǎn):杓子定規である、生き生きしてない
・匪夷所思(fěi yí suǒ sī):常軌を逸する
・鸿蒙(Hóng méng):天地開闢以前の
・涟漪(lián yī):さざなみ
・大相径庭(dà xiāng jìng tíng):違いが甚だしい
・不知所云(bù zhī suǒ yún):何を言っているのかわからない、要領を得ない
・忘掉(Wàng diào):忘れる(忘记(Wàng jì)との違いは特になさそう)
・鼠标(Shǔ biāo):カーソル
・从小到大(cóng xiǎo dào dà):子供の頃から大人になるまで
・微波炉(wēi bō lú):電子レンジ
・掀起(xiān qǐ):巻き起こす
・不仅(bù jǐn):だけにとどまらない
・智能家居(Zhì néng jiā jū):スマートホーム
・串门(Chuàn mén):よその家に遊びに行く
・点头之交(Diǎn tóu zhī jiāo):会えば会釈する程度の浅いつきあい
・千钧一发(Qiān jūn yī fà):非常に危うい状態である
・足够(Zú gòu):十分に
・慢条斯理(Màn tiáo sī lǐ):ゆっくりと
・料想(Liào xiǎng):予測する
・宏指令(Hóng zhǐ lìng):マクロ命令
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