2021年の「遠い世界に」
7/7に発売された、KERAさんのソロアルバム「まるで世界」は、秀逸で上質なカバーアルバムである。
「みんなのうた」からの曲や南米の民謡、日本のニューミュージックやクラシックなどからセレクトされた名曲を、テクノポップなアレンジにネジで結合されていて、聴いていて楽しくなる。
「Oh,モーレツ!」と小川ローザが登場しそうな「地球を7回半まわれ」はご自身4度目のカバーで、KERAさん、この曲、本当に好きなのね!とニヤニヤしてしまうし、永ちゃん(!)の「時間よ止まれ」ではDr.Johnと琉球音階が出会い、
(ちなみに、私はボ・ディドリーとタモリが出会ったと思ったのだけど、ちょっとズレていましたね・笑)
「LAST TANGO IN JUKU」はいつ聴いても何とも言えぬ哀しみに襲われてしまう。
そんなバラエティーに富んだ選曲の中で、鋭い輝きを放っているのが、「遠い世界に」だ。
原曲は、五つの赤い風船。1968年発表。
あの印象的なオートハープの音色を、歯車の軋む音に置き換えて歌い出される、2021年の「遠い世界に」
坂崎さんのラジオあたりで、何度も何度も聴いているはずなのに、私は歌詞を知らなかった。
正しくいえば、知らなかったのではなく、聴いていなかったのだ。
KERAさんが静かに、そして丁寧に歌う言葉を聴いて、ハッとした。
今の時代と、なんとリンクしていることか。
今まで原曲を歌詞に気を払わずに聴いていたのは、山本潤子さんの透明な声に耳を奪われていたこともあるかもしれないが、頭を殴られたかと思うぐらい衝撃を受けた。
暗い霧が立ち込め、晴れることも、晴らすこともままならない。
誰かと会って、話がしたい。
誰かと会って、抱きしめたい。
2年前とは全く違ってしまった街の景色にため息を吐く、やるせない毎日。
あの時代を生きた若者達と私とが、寸分も違わない悲しみを背負っているのかということに、驚きを隠すことが出来ないが、ただ一点、大きな違いがあるのは、当時の若者達は諦めていなかったということだろう。
歌詞カードに書かれた解説から言葉を借りれば、愚直とも言えるが、明日に希望を求めて立ち上がろうとする若者の言葉に、私はたじろいだ。
2021年の夏、壊れかけた日本という国に生きている事実を、いにしえのフォークソングがリアルに予言するとは。
それくらい鮮烈で普遍的な光が放たれていると感じた。
ゲストに出たラジオ番組でKERAさんは
「有頂天は、『心の旅』で世に出たから、カバーには自負がある」
「原曲が強くてボツにした曲もあるけれど、カバーするからには原曲には負けない」
というような話をされていたけれど、この曲に限らず、名曲に魂を吹き込んで、この国の現在を浮き彫りにした(と、私は思っている)KERAさんのうたごころに心酔する。
さて、「遠い世界に」をwhite sideとするならば、「マリリン・モンロー・ノー・リターン」はさしずめblack sideか。
物事はすべて、陰と陽で出来ているんだよな。
ああ、何を書いても、この曲の素晴らしさ、このアルバムの素晴らしさを語ることが出来ない!
収録曲すべてが、めちゃくちゃいいです!
とにかく、KERAさんの「まるで世界」みんな聴いて!
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