マガジンのカバー画像

365日のわたしたち。

100
365日。 自分にとってなんでもない1日も、 誰かにとっては、特別な1日だったりする。 反対に、 自分にとって特別な1日は、 誰かにとってどうでもいい1日だったりする。 い…
運営しているクリエイター

#毎日投稿

【365日のわたしたち。】 2022年5月28日( 土)

100日続けてきた創作小説。 ショートショート。 ショートとも言えないほど短く、 ストーリーとも呼べないほど、なんてことのない話。 そんな話を一旦区切ろうと決めた今日は、とても気持ちの良い、良い天気な日だった。 夕方、風に吹かれるカーテンを眺めながら、100話目はどのような話にしようかと考えていた。 なんてことない話ばかりなのだから、なんてことない話を書けばいい。 そう思うのに、なぜか力が入ってしまう。 そうして思いついた。 このままを書こう。 このままを

【365日のわたしたち。】 2022年5月27日( 金)

数日前から、破壊音のような工事の音が毎日、私の家まで届いてくる。 上からは子供たちの足音が響き、 夜には落ち着いたかと思ったら、隣の家の宴会騒ぎの声がこっちの部屋まで届いてくる。 なんともまぁ、静かとは縁遠い世界だ。 しかし、それで安心している自分がいる。 自分とは違う世界がキチンと回っていことを実感できるからだ。 あれは大学時代のアパートでのことだ。 学生時代特有の安アパートは、上や隣の音がよく響いた。 俺の上に住んでいるおばあちゃんの足音でさえも、よく聞こえ

【365日のわたしたち。】 2022年5月26日( 木)

社会人になって、昼間の景色を見ることがほとんどなくなったと感じる。 もちろん、お昼休みに外に出たり、 休日の昼間に外に出れば楽しめるのだけど、 そうじゃないのだ。 あの、なんとも言えない「昼間」という空気。 あれは、なんでか平日の昼間、仕事がない時にしか感じられない気がするのだ。 きっと、俺の心のフィルターがそうさせているのだろう。 今日は、思いつきで有給を取ってみた。 朝は9時少し前に起き、少しソファで携帯をいじる。 そろそろ朝ごはんを食べようか、と思い立

【365日のわたしたち。】 2022年5月25日( 水)

涙の数だけ、強くなれるよ 隣の40代くらいの男性が口ずさんだそのメロディーは、今一番私がほしいと思っていたフレーズを頭に届けてくれた。 今から新幹線に乗って、地元の田舎から大阪へ戻る。 数日前に父から電話があり、母が倒れたことを知った。 急いで地元に帰ったけれど、もうすでに遅かった。 母とは、記憶に残すべき最後の会話というものを交わすことができなかった。 1日思い切り泣いた後は、葬式だお墓だと泣く間もないほど忙しく、バタバタしていた。 時々、目に滲んだ涙がこぼれ

【365日のわたしたち。】 2022年5月24日(火)

彼女の誕生日は、今でも覚えている。 俺が面白半分で、彼女のケーキだけ買っていかなかったから。 あの日、俺たちは仲良しグループ7人で、誕生日パーティーをすることになった。 なぜかうちのグループには、5月生まれが3人もいて、どうせなら全員一斉に祝おうとなったはずだ。 そこで俺は、ケーキ担当になった。 大学生のノリだ。 一人一つずつ、ホールケーキを買おうということになった。 男が一人。女が二人。 女友達のうちの一人が、彼女だった。 いつも言い合って、お互いにツッコミ

【365日のわたしたち。】 2022年5月23日(月)

大事なものが増えすぎて、抱えきれなくなった時はどうすればいい? 仕事も、子供も、旦那も、そして私自身も。 全て大切なのに、全て中途半端にしか大事にできていない気がする。 そのうち、それら全てが私の中途半端さに見切りをつけて、離れていってしまう気がして怖い。 そう打ち明けた。 5年先輩の彼女は、しばらく黙っていた。 とても面倒な質問をしてしまっただろうか。 この沈黙の時間が、私の心を余計に不安にする。 「全部に全部、100%の自分を捧げるのは無理でしょう? そ

【365日のわたしたち。】 2022年5月22日(日)

夕方のベランダは、心地よくて物悲しい。 もうすぐ夜が来るというその終わりの感じが、その印象を与えているのかもしれない。 向かいのベランダでも、おばさんが洗濯物を取り込んでいて、 もう今日も終わりにしようか、と幕を下ろされているような気分になる。 ふと空を見上げる。 オレンジと薄青色が綺麗なグラデーションを作り上げている。 かと思うと、空は徐々にピンク色に変わってきたようだ。 美しいなぁ。 人間は自分達で美しいものを作り出そうと躍起になっているけれど、 もうそん

【365日のわたしたち。】 2022年5月21日(土)

ユーカリの葉はとても硬い。 触ってみればわかるだろうけど、こんな硬いんじゃ、食べたいとも思えないような固さ。 これをコアラは主食として食べているというのだから、本当に不思議だ。 しかも、コアラでさえもユーカリの葉の消化にはかなり苦労するらしく、 一日中じっとしているのは、消化に集中するためだとかなんとか。 なんとも滑稽で、悲しい性なのか。 もし僕ら人間が同じような状態だったら、どうだろう。 なんでこんな苦しい思いをしなきゃいけないんだ、って泣き叫ぶのではないだろう

【365日のわたしたち。】 2022年5月20日(金)

さっきから、何もしていない。 パソコンを開いて、温かい飲み物を横に置き、準備は万端なはずなのに。 頭に何も浮かんでこないのだ。 物書きをしていると、時々このようなことが起こる。 いつもは、パソコンの前に座った瞬間、頭の中で登場人物が勝手に動き出す。 俺はその人物の行動をなぞって文章に落とし込んでいく。 俺の仕事は、そういう仕事。 しかし、今日は全く何も起こらない。 頭の中の登場人物が動かないのではない。 頭の中に登場人物さえも浮かばないのだ。 何も生み出さ

【365日のわたしたち。】 2022年5月19日(木)

ついに憧れのイギリス朝食が食べれるというカフェにやって来た。 エッグベネディクトに、イングリッシュマフィン。 カリカリのベーコン。 横には、ドレッシングを和えられたグリーンサラダ。 美しい。 もう時間は11時を回っていて、言ったらランチの時間かもしれないけれど、 それでもいいのだ。 2時間待ちのこの朝食を食べるために、私は朝7時に家を出たのだ。 そういう努力を無駄だとか言う人もいるだろう。 無駄かどうかを決めるのは、外野ではない。 私だ。 フォークを卵に差

【365日のわたしたち。】 2022年5月18日(水)

もう18時を過ぎても、まだ明るい季節になった。 あなたとの帰り道を思い出す。 まだ大丈夫、まだ大丈夫と思いながら、徐々に暗くなる空に追い詰められていく。 「もうそろそろ帰ろっか」 この言葉をお互いに繰り返して、もう何回目だろうというくらい。 彼が帰ろうとしないのに、少し安心するのだ。 まだ彼も一緒にいたいんだ、と 話したいんだ、と。 「そろそろ帰らなきゃ」 そう言って、彼がエナメルのスポーツバックを担ぎ直したら、もう終わりのサイン。 「そうだね」と言って、

【365日のわたしたち。】 2022年5月17日(火)

ついに主人は、私の誕生日を忘れてしまった。 毎年毎年、驚くほど大きな花束を買って来てくれていた私の誕生日。 「もう、こんな大きいのいいから〜」 なんて言ってはいたけれど、一年に一度だけもらえるその花束を、私はどこかで期待していた。 しかし残念ながら、今年はそれがなかった。 仕方がない。 夫の認知症は、日を追うごとに悪化している。 私の誕生日なんて、忘れることランキング第一位くらいの重要度の低さだろう。 それはわかっているのだけれど、なんとも心に穴が空いたような

【365日のわたしたち。】 2022年5月16日(月)

家の近所に、なんとも優しい顔のお地蔵さんがいる。 道にちょこんと、一人だけ。 どうしてこんなところに?というようなところにいるから、出勤のたびに気になって見てしまう。 薄汚れた赤い前掛け?のようなものを首に巻かれて、お地蔵さんは今日もにこやかだ。 ここにどれくらいいるのだろうか? もう、みんなここにこんなお地蔵さんがいることなんて忘れてしまってるんじゃないだろうか? そう思いながら、毎日横目で眺めていたお地蔵さん しかしある時、お地蔵さんの前掛けが新品のものに取

【365日のわたしたち。】 2022年5月15日(日)

ぬるくなったコーヒーの方が好きだという彼を、私はどうしても受け入れられなかった。 香りが立たなくなったコーヒーのどこがいいのか、全くわからなかった。 「ガブガブ飲めて良くない? 熱いと、ちびちび飲まなきゃだし」 まぁ、言わんとしてることはわかるけど…。 マッチングアプリで出会った彼とは、今では全く連絡を取り合わなくなってしまった。 けれど、ぬるくなったコーヒーが好きという彼のセリフだけは、私の中にずっと残っていた。 彼のそのおおらかさが、妙に恋しくなってくる。