2019年中国全国大会U15でリバプール式のプレッシングを使ってみた②

今回は前回からの続きで、大連サッカー協会U15の監督時、全国大会でリバプール式のプレッシングを使用した時のことを考察する。

①当時の状況
②プレッシング方法
③トレーニング方法
④結果・改善点
⑤まとめ

今回は前回からの続きの③トレーニング方法から考察する。

③トレーニング方法
 私は、トレーニングをする時は、個人戦術のトレーニングから入るべきではないという考えている。特に戦術トレーニングであれば余計。なぜならチームや選手にその戦術の全体像を掴ませることが何よりも大事であるからだ。逆に細かいところから入るとその戦術のどの部分のトレーニングをしているのかイメージを掴むことは難しい。トレーニングの為のトレーニングになってしまう可能性もある。
なのでまず、試合中に使いたい戦術を切り取ったチームのトレーニングをする。それからならば、チーム・選手は全体のことが分かり、小さいユニットでトレーニングしてもその戦術のどの部分のトレーニングか意識しながらできる。
順番としては…
1)ミーティング(全体像把握、目的確認など)
2)チーム戦術トレーニング
3)個人もしくはグループ戦術トレーニング
4)チーム戦術トレーニング

3)のところは状況によって使い分ける。いつも同じ流れ、いつも同じトレーニングだと、予想外の事態に対応するのが遅くなるし、選手にとって刺激が少なくモチベーションも落ちコーチの話に耳を傾けなくなる。
少し精度が上がって来たら次のトレーニングに移行する。例えば前回の同じ戦術トレーニングの時にエラーが起きているところ(個人、グループ)に焦点を当てたトレーニングなど。
トレーニングは不思議なもので一つのトレーニングを完璧まで精度を上げるより、一つのテーマに対して複数のトレーニングで経験を積んだ方がゲームの時に浸透していることが多い。

2)と3)から一つずつトレーニングを紹介する。

2)チーム戦術トレーニング例
6vs7+GK+2ゴール

●ルール
・常に赤チームゴールキックからスタートする(スローイン、コーナーなど無し)
・赤チームは、2つあるコーンできたゴールどちらかをドリブル通過したら得点
・黄色チームは、ボールを奪いゴールを目指す。

●コーチングポイント
・カバーシャドーの角度(背後のパスコースを切る)

・リズムの変化(静かに相手を誘導し、罠に掛かりプレッシングの犠牲者にボールが入ったら一気に奪う)

・カバーリング(イレギュラーが起きた場合、誰がどこにカバーに行くか)
特にこのプレッシングの犠牲者から相手サイドバックにボールが入ってしまうイレギュラーは試合中よく起こる。なのでこのカバーリングを浸透させないと一気に縦に運ばれてしまう。

●バリエーション
・赤チームはコーンゴールをドリブル通過だけではなくパス通過もありにする(難易度UP)
・コートを狭くする(難易度down)
・赤の選手は必ず2タッチにする(難易度down)
・赤の選手は、走ってはいけない(難易度down)

トレーニング1でこのような戦術トレーニングをする時、私はまず徹底的に教える。チームや選手に考えさせるのではなくまずは徹底的に詰め込む。なので、インテンシティはかなり低くなる。
その代わりどのくらいのスピードで、どの角度でプレッシャーをかけるのか、イレギュラーが起きた場合のカバーリングの方法を一つ一つ選手に教える。

3)個人・グループトレーニング例
2vs2+1ジョーカー

●ルール
・攻撃側(現在は赤色)はコーンでできたゴールをドリブル通過すれば得点
・守備側(現在は黄色)はボールを奪いジョーカー(青色)にパスをすると攻守交代
※攻守交代はするが連続ではなく一度セットしてからプレーさせた方が良い。インテンシティは落ちるが攻守交代が頻繁に起きるとトレーニングテーマから外れてしまう。
・グリッドから外に出た場合は、攻守を入れ替えてジョーカーから再開
・ジョーカーからボールを奪っても良い

●コーチングポイント
特に意識することは下図の四角の部分を切り取っているということ。

・カバーシャドー(背後のパスコースを切る)
特にこれは角度が大事である。外を切りすぎると相手に内側で受けられてしまう。ボールホルダーに近づけば近づくほどカバーシャドーは大きくなる。

・インターセプト
守備で何よりも大事なのはこのインターセプトをすること。時間をかけず相手からボールを奪うことができ、相手を置き去りにできる。
このインターセプトを狙う選手は、静から一気に動へ変わるリズムの変化とその選手の利き足に関わらず相手に近い方の足でボールを奪うと体を入れながらボールを奪える。
もし、インターセプトができない場合は、コントロール側を狙い、次は前を向かせない守備の形を取る。

・カバーリング(イレギュラーが起きたときの対応)
カバーシャドーをしながらジョーカー(青色)にプレッシャーをかけて赤い①パスを出させたが、ボールを奪えず赤②にパスを繋がれてしまった。赤②へカバーリングに行くのはもちろんだが、そのカバーリングのカバーリングにいかなければ1vs2の数的優位を作られてしまう。試合中であれば一気に逆サイドに展開されてしまう可能性が高い。
この選手はジョーカーにもカバーシャドーをしながらプレッシャーをかけているので連続2回スプリントをしなければならない。しかし、先述した通り、数的不利を避ける為このカバーリングは必ず浸透させなければならない。
攻撃的な選手がこの守備の役割をしなければならない。攻撃的な選手は相手ゴールへは喜んで走る選手は多いが、自陣ゴールの方向へ走ることが苦手な選手もいる。

●バリエーション
・攻撃側の選手(図では赤色)はコーンゴールへのパスでも得点(難易度UP)
・コートを広くする(難易度UP)
・攻撃側の選手(図では赤色)は必ず2タッチでプレーする(難易度down)

④結果・改善点

まず試合の結果はこの大会では、準優勝であった。
グループリーグは全勝、決勝トーナメントも勝ち進み、準決勝では中国スーパーリーグのアカデミーチームにも1-0勝って決勝に進んだ。
決勝では、試合終了間際なんとか追いついて1−1のままPK戦に挑んだが、負けてしまった。

続いてこのリバプール式のプレッシング方法について。

●良かった点
・チームへの浸透度
冬の長期の合宿を利用してプレッシングをトレーニングしていた為、チームにはかなり浸透していた。選手としても、チームとしてもタスクを理解できていた為、タスクを実行できていない場合も、ある程度のことは選手同士声をかけてお互いのポジショニングを確認していた。ほとんどの相手が4−3−3のフォーメーション(1チームに関しては、攻撃時3−4−3に変化した)だったので枠組み的にはマッチしていたので プレッシングの方法を大きく変えることなく実践できていた。
・成功度
実際の数字ではなく体感の数字なので申し訳ないが3、4回のゴールキックに対して 1回は予定通りにプレッシングの犠牲者のところでボールを奪えていたように感じる。特にグループリーグは大量得点で勝った試合が多く、少なくとも一回はプレッシングからシュート、得点になっていた。

●改善点
・選手への負荷
この大会では1日空きで6試合続いていく為、ウイングの選手に相当な負荷がかかっていた。試合が進むにつれて、カバーリングが遅れるシーンが増えたり、相手のCBに簡単に抜かれて戻れないシーンが増えたりしていた。選手を変えて対応をしたが、以前の試合より1試合におけるスプリントの回数は各段に増えた為、フレッシュな状態を保つのは難しかった。
・相手のロングボール対しての対応
試合が進むにつれて(特に後半)相手はゴールキックを繋がなくなった。前線の大きい選手目掛けてロングボールを蹴ってきていた。それも冬の合宿中多く起きた現象であった。冬の期間中ロングボールに対するヘディングもトレーニングしていたのでそれで対応した
しかし、相手は拾ったセカンドボールも判断なく(判断があったのかもしれないが…)背後に蹴ってきていてそれに対応することが大変であった。今思うと、もう少しラインを下げ相手にボールを繋がせてからプレッシングを開始すれば良かったかもしれない。

⑤まとめ
最初、チームのミーティング中に動画でこのプレッシングを説明してからトレーニングを行った。1回目のトレーニング終了後(この日はプレッシングが成功せずに何回も抜けられてしまっていた)もしくは、トレーニング中からだったかもしれないが、選手達はこのプレッシングにとても反対していた。何人もの選手が、私と通訳の部屋を訪れて、反対意見を述べていった。中には他のプレッシングの方法を話して帰っていく選手もいた。
その後、短、長合わせて15本近くの動画、選手個々との確認や話し合い、多くのトレーニングを超えてなんとか形になっていった。最後まで納得せずに自分のタスクをこなしていた選手もいたかもしれないが、どの試合も全力を出してくれていた選手に感謝したい。

戦術は、5万とあるが、完璧な戦術など存在しない。どの戦術にも弱点がある。その弱点を指導者、チーム、選手共に理解し、それへの対応策、それをできるだけ相手から隠せるかどうかがその戦術を機能させられるかどうかを握っている。そのためにもトレーニングをする時は、小さいユニットからのトレーニングではなく、まずは選手、チームに全体像を掴ませることが何よりも大事である。

現在は、起業をし、幼稚園生から中学生まで担当している。
U−10 のチームでも同じような戦術を使用しているが以前の経験を生かし少しずつ変化させてより良いものにしている。
今後も様々なことを学び、選手達に還元できるようにしていきたい。

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