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高山富山ぶらり旅(その2)ー富山ライトレール

富山駅ホームは現在も工事中で、金沢方面との乗り継ぎは中間改札を挟んで同一ホーム乗り換えができるため、非常に便利が良い。ワイドビューひだが到着した時も、すぐに、あいの風富山鉄道の乗り換え列車が待ち構えていた。ワイドビューひだが到着するホームは高架で、新幹線ホームもすぐ隣だし南口にも出やすい。

ところが黒部方面への乗り継ぎや北口へ出るのは少々難儀だ。

北口に出るには高架ホームを階段で降りて、今は使われていない金沢方面行きのホームを突っ切り、さらに跨線橋を階段で昇り降りしなくてはならない。はるばる歩いてやっと黒部方面ホームにたどり着く。北口改札もそのホームにある。

幸い北口にコインロッカーがあったので大荷物をコインロッカーに叩き込み、富山ライトレールを入線から見ることができた。
富山ライトレールの富山駅北は、広々とした富山駅北口の真ん中に2本の屋根付きホームを従えていた。よく見ると路面には芝生も敷かれている。屋根の色使いといい、周りが広々としていることといい、ちょっとヨーロッパの香りのする佇まいをしていた。

やがてゆっくりと、白を基調に窓周りを黒く塗った、丸みを帯びた車体が滑り込んできた。まるでドイツかベルギーにでもきたような錯覚に陥る。しかし慣れた脚付きで富山っ子たちは列車に乗り込んでいく。おじさんも遅れまいと乗り込み、車内に点在しているクロスシートのどこに陣取るのがベストなのかを瞬時に判断する。
やはり前の方だろう。残念ながらおばあちゃんに進行方向向きの席を取られてしまい、逆向きに座る羽目になったが、おばあちゃんが降りたら、即移動すれば良い。それまでは首を右に左にひねりながら、富山の街に目をやる。

富山ライトレールは元々はJR西日本の地方交通線、富山港線であった。北陸地方のJR路線は交流電化されているが、富山港線だけは歴史的な経緯から直流電化となり、一時は交直両用の急行型電車が富山港線にあてがわれていた時代もあった。
2003年にJR西日本が富山港線と吉備線のLRT化を発表。列車の増発、駅の増設などで利便性を高め、よりいっそう地元のお客さんに乗ってもらおうという改革だ。吉備線は未だにJR西日本の路線のままだが、富山港線の方は話がとんとん拍子に進んで、地元が主体となる第三セクターが受け入れることになった。北陸新幹線の乗り入れに合わせて駅前ロータリーに乗り入れるように改造し、富山駅付近の高架工事が完成すれば、富山地方鉄道の市内軌道線とも直通運転を行う予定である。

そんな経緯もあって富山駅北を出ると電車は道路の真ん中を走ったかと思えば、交差点で急に回れ右して車のように道を曲がる。かと思えば急に道路も何もないところに入り込んで、さも当たり前のような顔をして建物の隙間を走り出す。おそらくここからがJR富山港線だった区間なのだろう。

実は記録を見返すと平成2年8月14日に富山港線を全線乗ったことになっているのだが、全く記憶にない。車両は455系となっているから、国鉄時代からある急行型車両だったようだ。覚えてないなら、何の意味があって乗っているのかと言われると困るのだが、そこに線路があるからとでも答えておけばいいだろうか。
いちおう死ぬまでには日本国内の鉄道くらいは全線乗っておきたいと思ってはいる。本当は世界中の鉄道に乗りたいのだが、それには一生では無理で三生かことによると二十生くらいかかるかもしれない。

ところで富山ライトレールには女性の車掌さんが乗っている。最近は鉄道業界にも女性の進出が著しく、それ自体は珍しくないのだが、この女性車掌さんは車内の一番前に立ってこちらを向き、マイクを持って車内放送をするという斬新なスタイルを見せてくれている。まるでバスガイドがアイドルのようでとても親近感がわく。
前の方の席に乗っている顔なじみらしいおばあちゃんが話しかけたり、外国人の家族が全員でいくら払えばいいか聞いたりしている。車掌が後ろに乗っているとわざわざ列車の最後部まで行って遠慮がちに声をかけることになるが、こうしていつも目の前にいてくれると声もかけやすい。地元のお客さんに向けた、実にソフトなサービスだ。

電車が走るにつれて徐々に周りの建物がまばらになっていき、25分ほどで終着の岩瀬浜に着いた。


本当ならゆっくりと駅や電車を写真に収めたり辺りを散策したいところなのだが、次の乗り継ぎが射水市コミュニティバスで発車が6分後となっている。
幸い駅前のロータリーに出ると右に青いバスが止まっているのがすぐに目に入った。近づいてみると「新湊東口」の文字が見えるので、これに間違いなさそうである。このバスは富山ライトレールの終点岩瀬浜と、これから乗る万葉線の終点越ノ潟を結ぶ貴重なバス路線なのだ。土日祝のみの運転でしかも1日4本しか走っていないのだ。乗り遅れたら大変である。

普段わたしは週末よりも空いている平日の移動を好むので、こういった週末のみのバスは利用できないことが多い。仮にこのバスがないと、今来た電車で富山に戻り、あいの風とやま鉄道で高岡まで行って、高岡から越ノ潟まで往復することになる。終点の越ノ潟に着く頃にはもう日も落ちてしまっていることだろう。せっかく乗りに来たのだから外の景色が見られるうちに万葉線に乗っておきたい。

となるとこのコミュニティバスに乗れない場合は、名古屋を出るワイドビューひだをもっと早めねばならない。1時間前のワイドビューひだ5号は途中の飛騨古川止まりだから、さらに1時間前のワイドビューひだ3号になる。
静岡9時すぎのひかりに乗ればいいところが、7時台になってしまうのである。朝が苦手のわたしが7時台の新幹線に乗るのはとても厳しい。頑張って9時台なのでこのコミュニティバスの存在は大変ありがたいのだ。
この射水市コミュニティバスが、今回の乗り継ぎプランのすべての鍵と握っていると言っても過言ではない。

そんなわたしにとって重大なコミュニティバスだが、他にお客さんはいないようで、時間が来るとさっさと出発してしまった。
しばらく走ると運転手さんに「海王丸?」と聞かれる。「フェリーに乗りたいんですが」と答えると「ああ新港東口ね」と返ってくる。
「海王丸」というのはこのバスの終点近くにある海王丸パークのことである。名前からして海王丸という船が泊まっているアミューズメント施設なのだろうが、今回は立ち寄る時間はない。
それより「フェリーに乗りたい」と言ったのは、このバスを途中の停留所で降りると県営の渡し船の船着場があるためである。
先ほどはこのバスが万葉線の終点、越ノ潟まで行くと書いた。それは嘘ではないのだが、実は越ノ潟へ行くにはもう1つの方法がある。このバスを途中で降りて県営の渡し船に乗ると、その対岸が万葉線の越ノ潟駅なのだ。通称「越ノ潟フェリー」正しくは富山県営渡船というようだ。乗船時間は5分、距離にして770m。

バスが越ノ潟まで行くくらいだから、もちろん橋はある。それも2012年に開通した新湊大橋という全長3600mの立派な橋で、車道と歩道の2層構造になっており夜間はライトアップされるそうだ。

なのでそのままバスで越ノ潟まで乗って行ってしまってもいいのだが、自宅で岩瀬浜から越ノ潟までのルートを調べているうちに、この越ノ潟フェリーを見つけてしまった。そもそも鉄道路線ではないので専門外だし、わざわざ乗る理由は全くないのだが、橋があるのになぜか運行されている渡し船と聞くと「じゃあ乗っておこうか」となってしまう。
つくづく物好きな性分である。

調べてみると幸いラッシュ時15分おき、その他30分おきとなっている。正確な発着時間はわからないが40分も見ておけば大丈夫だろう。

他に誰も乗客のいないバスから何とはなしに窓外を眺めていると、窓ガラスの向こうにポツポツと水滴がつき始めた。
前を見るとワイパーが動いている。小雨が降ってきたようだ。折りたたみ傘は持ってきたが、富山駅のコインロッカーの中である。

バスはだんだんと路地のような道に入っていき、その奥に少しだけ開けた空間が見えると、そこが越ノ潟フェリーの乗船場である。バス停名は新港東口だがそれとは対照的に古びたうら寂しい空気が漂っている。港と言っても海が入り江になって対岸と向き合っているので、フェンスの向こう側の海面に目をやらないと船着場には見えないくらいだ。想像していたのよりは立派な建物が建っており、看板には堀岡発着場とある。

バスを降りて雨の中を駆け足で待合室に駆け込む。他には人の影はない。ベンチに腰掛け何とは無しに時刻表に目をやると、ひっと一息ついた。

                            〜 その3に続く 〜


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