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高山富山ぶらり旅(その1)ーワイドビューひだ

2016年3月20日(日)、名鉄の赤い車体を横目に見ながら、ひかり463号は10時過ぎに名古屋に滑り込んだ。

在来線への乗り換え改札を抜けると中央線ホームの階段をゆっくりと登って行った。
これから向かうのは富山であり、そのためには特急ワイドビューひだに乗らなければならないが、発車までまだ優に30分はある。JR東海は在来線での車内販売を取り止めたため、ワイドビューひだの乗車時間約4時間は弁当でも持ち込まない限り食料にありつけない。弁当を買ってもいいのだが、生まれ育った名古屋で駅弁というのも今ひとつピンとこない。それよりは名古屋駅ホームのきしめんが食べたい。

名古屋駅ホームのきしめんというと新幹線ホームが有名だ。猛者は名古屋で一旦、新幹線を降りてきしめんを食べ、その後に別の新幹線で目的地へ向かうという。新幹線改札を出なければ列車を乗り換えても新幹線特急料金は変わらないという切符のルールを知っていればこその荒技である。
しかしながら自分は名古屋駅ホームできしめんを食べる時は、必ず7・8番線の中央線ホームに行くことにしている。
もう何年か前に、新幹線ホームとこの中央線ホームのきしめんを食べ比べたことがあるのだが、新幹線ホームのきしめんは出来上がりがやや熱い気がするのだ。思うに新幹線ホームの大量のお客さんを捌くために、湯の温度を高くして麺を茹でる時間を短縮しているのではなかろうか。

別の日に在来線の他のホームも食べ比べてみたが、どうも7・8番ホームが一番旨いような気がする。それ以来、名古屋駅ホームできしめんを食べる時は7・8番線に来るのが習慣になっている。

店に入る前に食券を買おうとして、ふと「焼酎 梅・レモン」という文字が目に入った。朝から酒を呑むほどの酒好きではないけれど、ここでレモンサワーが飲めるのなら試しに飲んでみたい。この後4時間は乗り通しだし、昨晩は3時間くらいしか寝てないので、いっそ呑んで寝てしまえるならその方がよい。
きしめん大盛りと焼酎の食券を店のおばちゃんに出して意気揚々と「レモンサワー」と言うと、「焼酎だけど、いい?」と返事が返ってきた。そうか、焼酎というのはサワーで割ってないもののことを言うのだ、とその時初めて気がついた。よく考えたら、隣のボタンにサワーと書いてあったような気もする。

やってしまったかと思いつつも「まあ何とか飲めるだろ」と自分に言い聞かせて「いいですよ」と余裕を取り繕う。出てきたのはもちろん、焼酎の水割りにカットレモンが入っただけの酒だった。飲み慣れてないため、今ひとつ口に合わないが仕方ない。きしめん大盛を食べながらレモン焼酎を少しずつ飲み、最後は飲み干して店を出る。きしめんの熱さと合わさって体の中に暖房が入ったようになり、汗が吹き出てきた。

ハンカチで汗を拭きつつ隣のホームに移動すると、もうワイドビューひだ7号がホームに止まっていた。
指定された車両に乗り込むと進行方向とは逆向きのシートに身を預けた。

ワイドビューひだは名古屋から岐阜まで東海道本線を走り、岐阜から高山本線に入って富山を目指すのだが、配線の都合で岐阜で進行方向が変わる。岐阜で座席の向きを変えてもいいのだが、名古屋から岐阜までせいぜい20分くらいだし、岐阜までは新快速も普通列車もバンバン走っておりワイドビューひだに岐阜までの利用客がいるとも思えない。それで最初から高山本線に入った後の進行方向に合わせて逆向きにしてあるのだ。

定刻10時48分、特急ワイドビューひだはゆっくりと名古屋駅ホームを後にした。名鉄を横に見たかと思えばすぐにオーバークロスでその上を越え、キリンのビール工場の脇をすり抜ける。かつては貨物の大操車場があった稲沢をフルスピードで通過し木曽川を渡ると、そこは、もう岐阜県だ。このあと暫くはずっと岐阜県内をひた走ることになる。

岐阜で進行方向を変えて前向きに走り出す。今度は反対側に名鉄各務原線を見ながら暫く併走し、名鉄が右に去って行くと美濃太田に着く。
岐阜県美濃加茂市の中心駅だが、駅ができた頃は加茂郡太田町だったため駅名は美濃加茂ではなく美濃太田になっている。
美濃加茂はとある農業系アニメの舞台にもなり「聖地」として訪れる人も多少は増えたようだが、どちらかといえば高山本線と太多線、それに長良川鉄道のジャンクションとしての役割の方が大きいだろう。ここから中央本線の多治見までを結んでいる太多線沿線は、岐阜市や名古屋市のベッドタウンとして発展し、太多線は非電化単線ながら乗客は少なくない。

美濃太田を過ぎると山岳路線の様相を呈してきて飛騨川に沿い、車窓からの眺めも格段によくなるのだが、さっきのレモン焼酎が効いてきたのか気がついたら船を漕いでいた。目をさますとワイドビューひだは間も無く高山に着く頃だった。
分水嶺は高山の手前の久々野と飛騨一ノ宮の間だから、この先は川の流れる方向に走ることになる。

高山は中部地方では有数の観光地だ。飛騨の小京都と呼ばれ中京圏はもちろん関西からも観光客が絶え間無くやってくる。特急ワイドビューひだは高山へのアクセスのために走っていると言っても過言ではない。また1日1本は、はるばる大阪からやってくるワイドビューひだが設定されている。大阪直通の特急ワイドビューしなのが廃止されたにも関わらず、ひだの方に大阪直通が残っていることからも如何に観光地としての吸引力が強いか分かるというものである。

高山から先はそれほどお客さんも多くなく、高山泊りのワイドビューひだも何本かある。春休みに入ったばかりの連休で、観光客のグループで賑わっていた車内もやっと落ち着くかと期待していたら、降りたのと同じくらいの乗客が乗ってきた。中には外国人観光客も混ざっている。さすが春休み、恐れ入った。

これまでと変わらない数の乗客を抱えたまま、ワイドビューひだは終着駅富山を目指してひた走る。

高山を出ると10分程で飛騨古川に着く。飛騨古川はわたしにとって謎の駅だ。
駅名はよく知っている。幼稚園の頃から何百回も乗った名鉄にかつて特急北アルプスという列車があり、その行き先が飛騨古川だったからだ。北アルプスは新名古屋(現在は名鉄名古屋)から新鵜沼の直前まで名鉄線内を走り、新鵜沼の手前で短絡線に入ってそのまま高山本線に乗り入れていた。最近でこそほくほく線を走っていた特急はくたかなど似たような例はあるが、当時としては珍しかった。私鉄の特急車両がそのままJR線内に入ってJRの特急になるのは変わり種だったのだ。
またワイドビューひだにも飛騨古川行きがある。時刻表でも高山本線では数少ない緑の丸になっている。つまりみどりの窓口がある駅なのだ。

このように駅名はよく目にするのだが、そこへ行く目的が思い浮かばない。山地だからそりゃあ温泉くらいはあるだろうけれど、この辺りの温泉としては広くその名を知られている下呂温泉がもっと手前にある。もちろん高山にも温泉はある。何もわざわざ下呂も高山も通過して飛騨古川まで行くこともなかろう。

そう思って飛騨古川に停車中に車窓から外を眺めてキョロキョロしていると、何とか祭りとか何とか温泉郷の他に「カミオカンデ」という文字が目に入ってきた。
よくよく調べてみると飛騨市の代表駅だそうな。そして飛騨市は平成の大合併でできた市で、その母体に古川町や神岡町が含まれている。
スーパーカミオカンデがある町ならそりゃあ特急も止まらざるをない。妙に納得した。

ワイドビューひだは一級河川の宮川を時に左に、時には右に見ながらぐんぐんと進んでゆく。時にはトンネルで抜けてさらにまた宮川に寄り添う。山深い風光明媚な景色を左右に振り分けながら、しばらくすると猪谷に到着する。
この猪谷の手前でやっと岐阜県に別れを告げ、富山県に迎い入れられる。それにしても岐阜県の何と長いことだろうか。いや、静岡県民がそんなことを言ったら青春18きっぷの利用者から石が飛んでくるかもしれない。

それはともかくとして、ワイドビューひだは長い道のりを経て、富山県に入った。岐阜県内では宮川だったこの川も、富山県では神通川と呼び名が変わる。

われわれ世代にしてみれば、神通川と聞いて真っ先に頭に思い浮かぶのはイタイイタイ病だろう。
Wikipediaによると高度成長期に神岡鉱山から流れ出したカドミウムが原因の公害病とある。環境問題という言葉の欠片もなく、日本全体がひたすら前を向かって駆け足していた時代には、こういったその土地土地の公害病があったようだ。社会の授業で重要語句として習った覚えがある。

そんなことを考えているうちに、いつの間にか列車は山間を抜けて開けた郊外を進み、しばらくすると北陸新幹線の下をくぐって富山に着いた。

                                〜 つづく

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