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夏を送る。

今年も静かな夏だった。
思いもよらぬ雨続きで順延を繰り返した夏の全国高校野球選手権大会。8月まるまるかけてグラウンドを縦横無尽に躍動する高校球児。
背中を押す声援の響かないがらんどうの甲子園球場。それでも選手たちは画面の向こうでまばゆいばかりに輝いていた。

静かな夏は音もなく去り、いつのまにか9月がやってきていた。夏に別れを告げる線香花火の落ちる音さえも聞いていないというのに。
最後の花火に今年もなったなと、敬愛する夭折の天才は誰にともなく呟いていた。最後どころか最初すらなかった夏だった。

今年、本当に夏は来たのだろうか。そんなことさえ思う。僕の知っている夏はもうずいぶん遠い。
来年こそは、そんなことを考える気力も今はない。

スコアボードの0行進はいったいどこまで続くのだろう。夏の延長戦は今年もない。
夏空に突き刺さるようなプレイボールの響きを、ずっといつまでも待っている。

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