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第32話 ママのトリミングは危ないかも・・

ママがはさみを持ってやって来る。

ボクを捕まえて毛皮のコートをカットする気、満々だ。


ボクは思わず、ママの動きを確認しながら逃げ回る。

捕まるのを覚悟しながらも。

ママの趣味のトリミングに付き合わなければならないのだ。


ボクのともだちのクルミちゃんやきなこちゃんは、ちゃんとトリマーさんにカットしてもらう。


でもボクはトリミングに行ったことがない。

ママがトリマーさんもどきになるからだ。


ママの小さいころの夢は美容師さんになる事だったらしい。

その夢を今、ボクの体で実現しようとしているんだ。


ママは、自分が美容室でカットをしてもらう要領でボクをカットする。

はじめはブラッシング。

次にはさみで大まかにカット。

そのあとバリカンでさらに短くする。

そして、シャンプー、ドライヤー。


うまくいかないとボクはトラガリになっちゃうんだよね。


ママはボクのカットをして、いつも満足する。

自己満足ってヤツ。

ボクは、仕上がりに決して文句を言わないからね。


ママがカットをするタイミングがボクにはわかる。

ボクを動かないようにするためのキッチンカウンターの下に新聞紙を広げ始めるからだ。


ボクは、ぱたぱたと逃げ回る。

でもママはボクをなんなく捕まえるてキッチンチエアーに置いたんだ。

そうなってくるとボクは、観念しなければならない。

ママの作業が終わるまで動いてはいけないんだ。


ボクをおとなしくさせるためのカウンターチエアー。

そこにボクを乗せるとママは楽しそうにチョキチョキし始めた。

でもやっぱり手際が良いとはいえないね。

バリカンの充電を忘れていたり、バリカンの葉を探したり。

毛玉を先に取ってくれないからバリカンの歯に絡んで痛いんだよね。


でも、足の指と指の間から被毛が飛び出しているのを切ってくれるのは助かる。

ボクらの肉球は汗をかいて、すべり止めの役目を果たしている。

伸びすぎてると床の上でスリップしちゃうんだ。


それとお腹周りのカットもうれしい。

マーキングの時におしっこがかかって、かゆくなっちゃうんだよね。

でもね~。

ボク、肉球を触れるのがイヤだから、早く終わらせて欲しい・・。


ママは自称「トリマーたみちゃん」と言ってるけど、ほかのコはダメだと思うよ。


ボクだからこそ、おとなしくしてるんだよね。


カットが終わると、今度はお風呂場へ。

そこで、切った被毛を流しながらシャンプーをする。


顔に水がかかるのはイヤだけど、ママは結構上手に洗ってくれる。

ボクは、ママになら体に触られるのはイヤじゃないから、まあまあガマンできるかな。


ボクはすぐにでもブルブルして水分を飛ばしたい。


でも、ママの作業のタイミングに合わせないと、大変なことになるんだ。

水滴がかかるとママは大声を出すからね。

ママの合図を待ってボクは思い切りブルブルして水分を飛ばす。

これは結構な効果があるよ。

ボクらは、タオルなんて使わないからね。

その次はドライヤー。

ガーガー音が大きいから、イヤだけどイスの上に乗せられているから終わるのを待つしかないよね。

終わると静かにイスから降ろされる。

これで「たみちゃんトリミング」はおしまい。

ご褒美がもらえるぞ。

ボクは、下ろされた洗面所の外の廊下に急いで走り、伏せをしておやつを要求した。

ママは腰に手をあてて、ふうっとため息をつく。

腰を伸ばしながらキッチンに向かい、サツマイモのステックを取り出し、ボクのの鼻先に持ってきてくれた。

ボクは急いで、いつものラグにそれを持って行ってから気がついた。

ノドが乾いていたことを。

ボクはステックをラグの上に置いてから水飲み場に行って、水をゴクゴクく飲んだ。

やれやれっと。

「たみちゃんトリミング」終わったね~。

ボクはさっきのサツマイモスティックを一気に口に入れた。

少し開けた扉から、肌寒い風が入ってくる。

短くなったボクの黒いダブルコートは軽くなって、風に揺れるのがわかる。


明日、クルミちゃんや、きなこちゃんは何て言うかな?

ボクがカッコよくなったことに気がつくかな?


夜、しょうちゃんがボクを抱っこして、ママにこんなことを言う。

「結構トラガリだね〜。」
それは予想されていたこと。


問題はその次。

「お母さん、ポッキーのおしりから血が出てるよ」

そういわれて、ボクは初めておしりが痛いことに気がつた。


「あ~。シャンプー前に肛門絞りってのをやってみたのよ。やり過ぎたんだわね。」

ママがテレビから目をそらさずに、平然とそう言うのに驚いた。

確かにボクらのおしりには、肛門腺から分泌物を出すための袋が付いている。

スカンクのように身を守るために分泌物を発射するようなことはないんだけど。


ママは分泌物を絞り出すためにボクのおしりを強く絞ったのだ。

ネットには月に1回程度で肛門腺を絞らなければならないと書いてあったらしい。


ママやめてくれー。

ボクはママを見上げた。

ママはボクの視線に気が付いて、薬箱からオイルを持ってきた。

ボクの垂れたしっぽを持ち上げて肛門を探し出し、オイルを塗りつけた。

ボクはぬるぬるのおしりが気になったけど、自分ではどうすることもできない。

しっぽでおしりをふさいでぬるぬるに堪えた。


「ごめんね…。」

ママはボクの頭をなでてながら謝ってくれた。


それでボクはある教訓を得た。

たみちゃんトリミングは危ないぞ!次からは警戒態勢で臨むべし、と。

ボクはおしりのぬるぬるを感じながら、そのことをしっかり心に刻んだ。







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