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第24話 しょうちゃんのお兄ちゃん?ママの子ども?

「たーくん来てたの?」

玄関で元気なママの声。


しまった!

ボクは、食べていたチーズをゴクッと飲み込んで、玄関に走った。


ママの留守中に侵入して来たコイツに意識を集中し過ぎていた。


ママがすぐそこに来てたのに気づかなかったなんて。


靴を脱いでいるママをの前で、ボクはクルクル回って精一杯吠えた。


ママは、持っていた荷物を入り口に置くと、代わりにボクを抱き上げた。

「眠ーい」

ソファーに体を投げ出しているそいつは、ママの質問とは全然関係のない返事をした。

ママは、質問の答えになってないことばを気にすることもなく、質問を続ける。

「いつ、来たの?」

「玄関のカギはどうしたの?」

「エントランスへはどうやって入ったの?」


ボクはママが、やつぎばやに質問するのに驚いた。

耳をピンと立てて二人の話を聞き漏らすまいと緊張した。


ママはボクを床に下ろして、キッチンへ。

そいつの答えを待つかのように、手を洗いながらも顔だけはそいつに向ける。


「疲れた・・」

ソファーのそいつは、またまた答えになってない言葉をめんどくさそうに言って両手を上にあげて大きく伸びをした。


手を洗い終わったママは、コップで水を一口飲むと玄関の荷物を取りにキッチンから離れて行った。


ボクは警戒しながらそーっとそいつに近づいてみる。

するとそいつは、急にソファのクッションを頭に当てて、その大きな体の向きを変え、ソファーに横たわった。

その気配にボクはサッと後ずさりをした。


荷物を片付けて、着替えをしたママがキッチンに戻って来た。


落ち着かずウロウロしているボクに気づいて、ボクの前に座りボクの両方の前足を持ち上げた。


ママが大事な話をするときの儀式だ。


ボクと目線を合わせると、そいつのことをボクに説明した。


「たーくんだよ。しょうちゃんのお兄ちゃん。大学生。」


ボクは、たとえママであっても、大きな顔が目の前に来るのがイヤだ。


だから、そっぽを向いて、ママの視線を避けた。


でもママの話はちゃんと聞いていたよ。


アイツは、しょうちゃんのお兄ちゃんで、大学生。


ママの子どもだね。


体が大きいだけで、ボクを襲うことはないな。

ここから遠いところで一人で暮らしているから、ママもたーくんに会うのは久しぶりなんだね。

ママはボクがそっぽを向いたことは気にしない。

ママは儀式を続けた。

「ポッキーびっくりしたでしょ。」

ボクがたーくんが来たのをすごく驚いたことをママは良くわかっていた。


ママは煮干しを持ってくるとボクの鼻先に差し出した。


アイツと戦ったことへのごほうびだ!


ていうか、これを食べておとなしててねというのが本音かも。



ボクは理由はどうあれ、しめしめとそれをくわえた。


そして誰にも取られないようにママのそばから離れ、いつものおやつスペースまで運んだ。


一旦、ラグの上に煮干しを落としてから食べやすいようにくわえ直した。



ママはボクが食べ始めるのを確認してから、くるりと後ろを向いて冷蔵庫の中を確認し始めた。


いろんな食材を冷蔵庫から取り出している。


今日はご飯をたくさん作るのかな。


たーくんも一緒に食べるんだろうな。


そしたらボクも何かもらえるかな。


そんなことを考えながら、くわえ直した煮干しをガリガリかじって、一口で飲み込んだ。


ママは、取り出した食材を指でひとつひとつ確認しながら、さっきの自分の質問に自分の答えを乗せる。

「たーくん。今、来たばかりなの?」

「部屋のカギ、持ってたのね。」

「エントランスは、ここに住んでる誰かと一緒に入ってきたかな?」



たーくんは、ママの、質問とも独り言ともとれる言葉に、全く返事をする気もない。


寝そべったまま、スマホをいじることを止めない。


「たーくん。いつまで居られるの?」

ママは、野菜をトントンと切りながらさらに質問した。


たーくんはママの新たな質問にめんどくさそうに「あー」と低い声を出しただけ。


体の向きを変えると、またスマホをいじり出した。


ママは、そんなたーくんに慣れているのか、返事を求めるでもなく、流しの下から鍋を取り出した。


ボクは、ラグの上にそのままゆっくりと体を伏せてこぼれた煮干しのかけらを拾って食べた。

ママのところに行けばもう一つもらえるな、と思った。

でもそれはやめにした。


人間って、大きくなってもママのところに会いに来るんだな。

ボクはずっと前のことを思い出していた。

ボクを生んだママから離されて、知らないところに連れて行かれた日のこと。

ママのおっぱいが急になくなったんだ。

顔も覚えていない、ボクを生んだママ。

今はどこにいるのかわからないママ。

ボクは、キッチンでテキパキと夕食の支度をするママを眺めた。


そして静かに目を閉じて、ボクを生んだママと今のママのことを代わりばんこに考えていた。



今日も最後まで読んで頂きありがとうございます。

突然現れた、大きくて強そうなやつは、ママの子どもだったんですね。

それではまた次のお話でお会いいたしましょう。

コメントやスキもよろしくお願いいたします。



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