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第30話 ママは高校生? 未来から帰る途中で見てしっまった!

「ポッキー、ちょっと寄り道してから帰ろうか。」

突然声をかけられて、ボクはびっくりして飛び上がった。


ボクはた―くんの後姿を思い出していたんだ。

かりのちゃんのおなかの中で天国へ行ってしまった、た―くんの赤ちゃん。

た―くんが赤ちゃんの遺骨を胸に、花束を抱えたお嫁さんのかりのちゃんと歩いていく悲しい後姿。

あたりは大きな道路沿いでに車が激しく行き交う場所。

ボクのするどい聴覚は機能をなくし、その騒音は聞こえてこなかった。

ただ二人の後ろ姿だけが、初秋の柔らかな日差しに包まれていたのだ。


ボクは妖精のたみちゃんと、ママのところに帰るためにタイムマシンに乗っていた。


「寄り道ってどこへ?遠いところ?」

ボクは妖精のたみちゃんを見た。


「ポッキーのおうち。」

「ママの娘のしょうちゃんが、大学生になっておうちを出てしまうでしょ。その後のおうちよ。」

意味が分からない。

返事ができないでいると、たみちゃんは話を続ける。

「ママは、しょうちゃんがいなくなって一人になっちゃっうでしょ。心配じゃない?」

これから元の世界に戻る途中、そこで降りようというのだ。

ボクにもようやく理解ができた。

ママの娘のしょうちゃんは、もうすぐ大学生だ。

試験に合格したら遠いところに行くって言ってたね。

しょうちゃんがいなくなってママは泣いているのだろうか。



ボクはそんなことは考えたことがなかった。


人間の数を考えた。

今はしょうちゃんとママと二人

そこからしょうちゃんがいなくなる。

・・・。

引き算かぁ。


ボクはジャーキーを二つもらう。

そしてひとつ食べる

あ、そうするとジャキ―はひとつになっちゃう・・。


ボクはやっとママが一人になるという意味が分かったのだ。


「行く!」

そのことに気が付くと、ボクは大きな声でたみちゃんの質問に答えていた。

妖精のたみちゃんは、ボクに小さくうなずいて、ボクの手をしっかりと握り直した。

まっすぐ正面を見てステッキを大きく一振りする。


ぐおっぉぉおおぉおおお~。

爆音とともに体が外側へ大きく傾いた。

それはホンの少しの時間だったと思う。


ボクと妖精のたみちゃんは、ボクのおうちのしょうちゃんの部屋に降り立った。

これから帰ろうとするところから数ヶ月ほど未来だ。


ボクらが下りたった気配にクロゼットを開けてごそごそしているママが振り向いた。

ヤバっと思ったが、ママにはボクらの姿は見えてない。


ママには風が部屋に入って来たのかと思ったのだろう。

北側にひとつだけある窓のところに行って、風の通り道を確認した。

ママは窓がピッタリ閉められていることを確認する。

出窓に置いてあるしょうちゃんのぬいぐるみたちに気付いてそれを眺めた。

何個もあるぬいぐるみの中から、ひとつ、くまのぬいぐるみを手に取り、ため息をついた。

それからくまの背中をひとなでして、また元の位置に戻した。


そのくまのぬいぐるみは、しょうちゃんが小さいころ、ママが作ってあげたものだ。

しょうちゃんに置いて行かれちゃったんだね。


ママは、くるりと向きを変えてさっきのクロゼットに戻る。


ボクのすぐ目の前を通り過ぎるママの顔をボクはしっかりと見た。

しょうちゃんがいなくなって、泣いていないか、よく見なければ。


大丈夫だ。

ママは泣いてはいなかった。

しょうちゃんが使っていたクロゼットの中を整理していたのだ。

しょうちゃんの部屋にはベッドと机とイスがそのまま残されていた。


「ただいま!」

と、元気な声で今にでも、玄関のドアを開けるような気もする。

きっと、ぬいだ靴は揃えないよな、絶対。

ボクは、いつも靴を脱ぎっぱなしのまま部屋に入ってくるしょうちゃんを思い出していた。


ママは、クロゼットの中の引き出しの中の服を一旦、全部出すつもりらしい。

Tシャツ、スカート、パンツ。コート類。ひざ掛け用の毛布まで。

たちまちママの周りはしょうちゃんの服でいっぱいになった。


ママは今まで、洗濯やご飯のこと、しょうちゃんのためにやってたんだよね。

しょうちゃんがいなくなっても部屋をかたづけしてるんだね。

母親って大変なんだな、とボクはしみじみ思っていた。

するとママは、突然立ち上がって、着ていたカーディガンを脱ぎだした。

何事だろうと目を見開いていると、ママはしょうちゃんのセーラー服を手にとった。


そして、カーディガンの下に来ていたポロシャツまで脱ぎ始めたんだ。

ボクは目を疑った。


思わず、妖精のたみちゃんを見上げた。

たみちゃんも、お口をあんぐり開けてボクに答えた。

ボクの予想は的中した。

ママは、しょうちゃんのセーラー服に着替えたんだ。

娘のセーラー服だよ。

ママ、いくつだと思ってんの?

ボクの驚きに気がつくはずもなく、ママはプリーツのスカートまで履き出した。

スカートのホックを止めたママは、鏡の前でポーズを取り出す。

あたかもカメラを向けられたモデルさんのごとくご機嫌だ。


しょうちゃんが見たら、絶対嫌がるよね。

しょうちゃんがママをたしなめる声が聞こえてくるようだ。


ボクはママが悲しくて泣いているのかと心配してここに来た。


部屋中が散らかったまま、遊びだすママ。

目の前の出来事に意表を突かれながらも、とりあえず安心した。

そしてあきれた。


あきれながらも、ボクは妖精のたみちゃんにそっと伝えた。

ボク、いつまでもママと一緒にいるね。

たみちゃんは、ボクのことばに大きくうなずいてにっこりほほえんでだ。


そしてボクとつないだお手々にギュッと力を込めて返事を返してくれた。





今日も最後まで読んで頂きありがとうございます。
また次回こちらでお待ちしております。
お立ち寄り頂けると嬉しいです。
それではまた次のお話しでお会いいたしましょう。













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