見出し画像

第34話 ママの優しいウソ ゆーちゃょんに弟ができた時の話

ママの長男、ゆーちょんを囲んでの夕食が続いてる。

ボクはテーブルのすき焼き鍋から、時折お肉をもらって大満足だ。

今日の特別メニューは、ゆーちょんのリクエストによるもの。

離れて暮らす息子のためにママは特上のお肉を奮発したのだ。


「ユウイチ、ご飯は自分では作らないでしょう。」

ママは、ゆーちょんにご飯のお代わりを渡しながらそう言った。。


「作らないよ、そんなの。当たり前だろ。」

ゆーちょんにとって、食事は外食するものらしい。


「だけどおかんが言ったとおりに、なるべく定食を食べてるよ。」

ゆーちょんは鍋にお肉と白菜を入れながら答える。


なるべく定食を食べる、ということだね。

ゆーちょんがひとり暮らしを始めるとき、ママがゆーちょんに伝えたことだ。


自炊はしないだろうゆーちょん。

ママはラーメンのような一品料理ではなく、定食を選んで食べるように伝えていたのだ。

栄養が偏らないように。

社会人になった今も、ゆーちょんはママのいいつけを守っているらしい。


「そんなこと言ったっけ?」

とママはそう答えてはいたが、そのことは思い当たるのだろう。


まるで小さい子におりこうね、と頭をなでる時のような笑顔をゆーちょんに投げていた。

「何だかんだで、兄ちゃんはマザコンだよね。」

しょうちゃんが、カットしそびれた大きいままのシイタケを口の中に入れながらそう口をはさむ。

「なんでだよ~」

妹に鋭いところを突かれたゆーちょんとは、思わずしょうちゃんをにらみつける。


しょうちゃんは、フンと鼻で笑ってゆうちょんの言葉を吹き飛ばし、代わりにシイタケを飲み込んだ。

ゆーちょんは、弟のた―くんに比べるとたくさんお喋りをする。

だから、たーくんを囲んだ時の食卓よりも今夜の方がにぎやかだ。



ママがゆうちょんが小学生のころこ話を始める。

「ボクとた―くんとどっちが好き?」

これはゆーちょんが学校から帰ってくると、毎日必ずママに聞いたこと。

「覚えてる?」

ママがゆーちょんに話を振る。

ゆーちょんは覚えているのかいないのか、それには答えない。

だまったままお代わりの卵を片手で器用に割っている。


そうしたら、指に卵の白身がついてしまった。

行き場を失った手をママに見せて、ティッシュを要求した。


「それで、お母さんは何と答えたの?」

しょうちゃんが、自分が生まれる前の話に関心を示した。

テーブルの片隅のケースから取り出したティッシュ。
それをサッとゆーちょんに渡すママに聞いた。


「答えに困ったんだけどね。」

ママはそんな前置きをしてから話を続ける。

今は会社勤めのゆーちょんと大学生のた―くんは、7つの歳の差がある。


つまり、ゆーちょんが小学校2年生の時に、弟のた―くんは生まれたんだ。

7年間もひとりっ子だったゆーちょん。

大好きなお母さんは、今はた―くんにおっぱいをあげなければならないよね。

自分よりも赤ちゃんのた―くんの方を優先しなければからないのだ。


ゆーちょんは、弟がかわいい反面、淋しい気持ちもあったんじゃないかな?


学校から帰って来ると、お母さんに毎日聞いたんだって。

「お母さん、ボクとた―くんとどっちが好き?」


「ゆーちょんだよ。」

とママは迷いながらも答えたんだ。


でも、ママの本当の気持ちは違う。

ママにとって、た―くんもゆーちょんもかわいい存在。

愛情に順番をつけることなんかできないんだよね。


「ゆーちょんの方が大好きだよ。」 

ママは、ゆーちょんにウソをついたんだ。

それはゆーちょんが望んでいる答え。

ゆーちょんは毎日それを確かめたそうだ。

「今でもお母さんは、そう言いい続けたことを間違っていたかも、って思ってるよ・・。」

ママは茶碗と箸を持った手を止め、首をかしげて目をつぶる。

当時のことを思い出すかのょうに。


ママは苦し紛れにウソをついできたことに罪悪感を感じていたのだ。

「その答えでいいんだよ、お母さんは兄ちゃんが望んでいる答えを言ったのだから。」


しょうちゃんの思いがけない言葉に、ママの顔がパッと明るくなった。
そして笑顔をしょうちゃんに向ける。

「そう‥?」

ママは嬉しそうに1オクターブ高いトーンで返事した。
それから、順番に二人に視線を移した。


ゆーちょんもしょうちょんも忙しい。

新しく入れたお肉の、火の通り具合を確かめている最中だからた。


何も答えず、お肉と真剣に向き合っている。

ボクは、ママの顔を見た。

ママは明らかにホッとして、二人の、全神経をお肉に注ぐ顔をながめている。


ママは今、この「優しいウソ」に対する15年もの罪悪感に終止符を打つことができたのだ。


そうして、二人の食欲を見て取ると、お肉のお代わりを取りにキッチンへと席を立った。


ボクは、ママの後ろ姿に良かったねの言葉をそっと送ってあげた。




今日も最後までお付き合いいただきありがとうございます。

子育ての答えってすぐには見つからず、後からわかることもありますね。

また、次のお話でお会いいたしましょう。









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?