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第36話 ゆーちょんはマザコン?ママが心配なんだね

今日で今年も終わりみたい。

テレビでは音楽番組が流れている。

しょうちゃんの二人のお兄ちゃんが、昨日からここに来ている。

ゆうちゃんは会社が、たーくんは学校がお休みになって、みんなでお正月を迎えるためだ。


ママの子ども三人はそれぞれに思い思いの場所でくつろいでいる。

ママはひとりお料理を作ったり、掃除をしたりで忙しそう。


今日は早めに夕食にするらしい。

冷蔵庫を開けて食材を確認している。



この時期、日が暮れるのは早い。


部屋の南側に置かれたボクのラグの日もかげってきている。



「ポッキーお散歩行くよ。」

しょうちゃんが忙しいママに代わって、ボクの散歩をかって出てくれた。

ママの手伝いをしない代わりに、ってとこかな。



「オレも行くかな。ついでにサケを買ってくるわ。」

ゆうちゃんがソファーから起き上がってそう言った。


「タケシも行くか?」


ゆーちょんはダイニングテーブルで、雑誌をパラパラめくっているた―くんに聞いた。

だけど、ゆーちょんの誘いをた―くんはさらりと断った。


「いえ、大丈夫です。」

・・たーくんはゆうちょんに敬語を使うんだよね。

ママにもそうだ。

しょうちゃんだけには普通のことばで話すけど。



たーくんの中では家族の偉さの順番が決まっているらしい。

何だか、ボクらイヌみたいだよね。


た―くんの中で家族の偉さの順番はこんな感じ。

1番: ゆうちょん
2番:ママ
3番:自分
4番:しょうちゃん

しょうちゃんは、もうすでに上着を羽織って外に出る準備ができているようだ。


名前を呼ばれたので、ボクは玄関に走った。

しょうちゃんがボクの体にリードをつけようとしている。

ボクは、行く気満々でしょうちゃんがリードをつけ終わるのを待った。

でもつけ方がわからなくいらしく、もたついている。


ボクは待ちきれなくて、自分でリードの輪っかの中に自分の首を突っ込んだ。


”ここなんだよ!”

やっとしょうちゃんがリードの留め具をカチッと止めてくれた。

ゆーちょんが大きなあくびをしながらボクらと合流した。



ボクら三人は、エレベーターを降りて外に出た。

もう辺りは薄暗くなってきている。

気温も下がってボクの濡れた鼻先に冷たい風が当たる。

どんなに寒くても、やはり外に出るのは気持ちがいい。


しょうちゃんのリードはママとは少し違う。


でも、ボクは大満足だ。


あ、向こうからクルミちゃんがパパとやってくる。

クルミちゃんはボクに気が付いてしっぽを振っりながら、駆け寄ってくる。


クルミちゃんのあとを追うように走ってきたパパ・

はボクのそばに来ると息を整えながら少し不思議そうな顔をした。

ボクがしょうちゃんに連れられているからだね。

ボクとママでワンセットだもん。


「今日はお姉ちゃんと一緒なんだね。」

すぐにしょうちゃんがママの子どもだとわかったみたい。


クルミちゃんはしっぽを全力で振ってボクに絡んでくる。

ボクもしっぽを思い切り振ってそれに答えた。

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ひとしきりあいさつを交わして、ボクたちはクルもちゃんにさよならした。


クルミちゃんを見送って、今度はゆーちょんのおサケを買いにお店に向かった。

二人が買い物をして出てくるまでボクはお店の外で待つ。

いつもママとそうしているから大丈夫だよ。

二人はきっと迎えに来てくれる。


しばらくするとしょうちゃんが、買い物袋を下げてお店から出てきた。

ボクはしょうちゃんに気がつくやいなや、いつものようにその場でクルクル回って見せた。

後から来たゆうちゃんが、しょうちゃんの買い物袋を受け取ってゆっくりと歩き出す。


あたりはすっかり暗くなって行き交う車のライトがまぶしい。

さらに気温が下がったようだ。


「お前、大学は大丈夫なのかよ。」

突然、ゆうちゃんはしょうちゃんに聞いた。

合格できそうか、という意味だろう。


「大丈夫だよ、合格圏内だよ。」

しょうちゃんが自信たっぷりに答えるので、ゆうちょんはそれ以上は何も聞かなかった。


しばらく行くと、ここから道が少し狭くなる。

ボクらは一列になってガードレールの内側を歩いた。

しょうちゃんが大学に行ってしまうと、ママはあのおうちに一人取り残されてしまう・・。

ゆうちゃんもそんなママを心配しているのかもしれない。

普段は威張っているけど、ゆーちょんは案外優しいのかも・・。


そうだ!

しょうちゃんが言ってたね。

ゆーちょんは”マザコン”だって。


ひとりになっってしまうママを心配してるんだ!

ボクはそう確信した。


そして、後ろに歩いているゆーちょんををチラ見した。

ゆうちゃんは買い物袋の中を覗いている。


ボクは呼吸を整えて、前に向き直った。

そしてうしろのゆうちゃんに向かって、テレパシーを送った。

体の全神経をおしりに集めて。


”大丈夫だよ。ゆ-ちょん。ママが一人になっても僕がママを守るから”

ボクはそう発信してゆーちょんの答えを待った。

ボクの想いは届いたか?


ボクはまた全神経をおしりに集中させて、ゆ―ちょんからの答えを待った。

ついに待ち望んだゆーちゃんの声が聞こえた。


「あー。チーカマ忘れた!」



”チーカマ忘れたんだ”


ボクはゆーちょんのことばをそのまま口にして、それをのどの奥にグッと押し込んだ。

そして体中の神経をゆるめるために、ひとつ大きくあくびをした。

そうして歩く速度を少し早めた。


しょうちゃんが道路を横切るために左右を確認している足元に、密着するために。

道路を横切るタイミングを待つしょうちゃんの足もとでボクは思った。


”チーカマかぁ~”







今日も最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

ゆーちょんのマザコンの話は「第34話ママの優しいウソ」に出てきます。

よろしかったらそちらもご覧いただけると嬉しいです。


それではまた次のお話でお会いいたしましょう。


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