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第23話 誰か来た~ 誰だよ お前?

ピンポーン、ピンポーン。

チャイム音は警戒の合図。

誰かが、必ずやって来る。

ボクは、日向ぼっこのマットの上で、まどろみから覚めた。

そうして警戒モードスイッチを入れた。



そして思い直す。

でも、ママがいないときは、チャイムが鳴ってもだれも来ることはない。

安心していて大丈夫だろう。

ボクは、警戒モードをリラックスモードに切り替えた。



でも、今回はちょっと違った。

玄関の方で、何か音がしている。

ママが外から帰って来る時の音だけど、その時にチャイムが鳴ることはない。

ボクは玄関に走り寄って、再び警戒態勢に身を包む。



ママのニオイじゃないことはすぐにわかった。

今、ママはいない。

これから何が起きるんだ?!



ガチャリという音が止むのと同時に、ドアが開き、大きいものがニューッと入ってくる。


一瞬ボクは、息が詰まった。

それでも、大きな危険を感じてあらん限りの声で吠えたてた。

ワンワンワンワン。

ワンワンワンワン。

体の重心を後ろに移動させ、攻撃態勢でそれを威嚇するが、何しろ相手はデカ過ぎだ。

背負った大きな荷物が大きくて、しかも重いらしく、入って来るのに手こずっている。



ボクの体は、硬直する。


ダメだ。

こいつにはかないそうもないことをハッキリと感じた。

ママー。

ボクは声にならない声を振り絞り、今度は低い声で威嚇してみる。


だけどそいつは、ボクの渾身の威嚇にもかかわらず、何も感じないらしい。

どうなるんだ、ボク。

ボクの頭は恐怖で真っ白になる。


と、同時にそいつの大きな両手が目の前に迫って来たかと思うと、次の瞬間、ボクはそいつに持ち上げられた。

ワーッ!!


するとそいつはボクを掴んだ両手を持ち替えて、ボクの両脇を抱えると、ボクを自分の目の前にぶら下げた。

ボクは手足をバタバタさせて、必死で脱走を図った。

力において敵うはずもなく、ボクの命はそいつの手の中にゆだねられたんだ。


ボクはお腹を攻撃されると思いそこの筋肉を固くして目をつぶり攻撃に備えた。


わーっ!


次の瞬間、予想外のことが起こった。

そいつは、一言。

「ポッキー」

ボクの名前を呼んで、そのままボク床に下ろした。

ボクは下ろされた場所からあとずさりをして、防衛態勢をとり、再びあらん限りの声で吠えまくった。


何なら噛みついてやる!


そいつは、ボクの恐れながらの威嚇には構わず、重そうな大きな荷物をドサッとおろし靴を脱ぎにかかっている。


ヤバい!家の中に入ってくるつもりだな。

どうしよう・・・

ママがいないのに。



ボクは何とかここで追い返さなければと必死に吠え続けた。

ママの留守を守らなければならない。

ボクの使命はそれだけだ。

怖くなんかないぞ!

ここはこいつを追い返さなければならないんだ。

ただただ、それだけを思った。



そいつは、脱ぎずらい靴を脱ぐと、丁寧に靴をそろえている。

何だこいつ、靴をそろえるのかい?

ママもしょうちゃんも脱いだ靴をそろえることなんかしない。

脱いだまんまだ。

これと同じことをするのは、あの、ボクにも丁寧にあいさつをする、ママの仲良しさんだけだ。


ボクはそれを見て、吠えるために開けた口を閉じずにはいられず、ゴクンとツバを飲み込んだ。


そしてハッと我に返って、ずかずかと廊下を抜けてリビングに入って行くそいつの後を追いかけた。


おい、待てよ!

その思いを吠える声に込めてボクは叫んだ。


そいつは、重くて大きな荷物をドサッとリビングの床におろした。

次にあたりを見回して、リビング奥の畳の部屋の片隅にその大荷物をゆっくりと移動させた。


そして、吠えながらついて回るボクを、黙って片手で持ち上げた。

ボクを小脇に抱え、キッチンに向かい、蛇口からコップに水を汲んで一気に飲み干した。

そうして、きょろきょろと何かを探し始めた。

戸棚に置いてあるボクのおやつの箱を見つけてチーズスティックを1本取り出した。


ボクはそいつのその行動に唖然として、吠えるのを忘れた。

ボクの好きなものを知ってる。

ボクの名前も知ってる。

何だこのデカいヤツ?



ボクは視界の高さから、コイツはママやしょうちゃんより大きな人間だということを感じた。


そうしてその大きなヤツは、ボクを抱えたまま、ソファにドサッと身を投げて、両足をオットマンの上にドン投げ出した。

体も態度もデカい・・・。



ボクは目の前にチーズステックがぶら下がってることに気が付いた。

ボクは反射的にそれをくわえてしまった。

不覚だった。

しかしせっかくのおやつを離すのは残念だ。


だけど、さすがに食べることはためらいがある。

ボクはチーズをくわえたまま、離すこともできずに固まった。

するとソイツがボクの体を優しく撫でてくる。

ボクは、ますますとまどう。

警戒を解いて良いものかどうか。


わー。どうしよう。

チーズをくれるってことは、攻撃はしてこないのかな。

くわえたまま、ボクはそいつを改めて眺めてみた。


そいつは、ボクが困っているのを見て取ると、ボクの目を両手でふさいで、ボクの涙と目のかすをとってくれた。



ボクは、そいつの動きを慎重に観察しながらも、コイツの情報を探そうとした。


だけど、肝心の嗅覚はチーズのいい香りが邪魔をして、そいつの情報が取りにくい。

ボクは思い切ってチーズをくわえなおし、食べにかかった。


そいつはチーズを食べ始めたボクを見てフンと鼻で笑った。


なんなんだコイツ?

ボクはちょっと自尊心を傷つけられたような気もしたけど、気にしないことにしてチーズを大急ぎで口いっぱいに詰め込んだ。

急いで食べてコイツの攻撃にしなえなければ・・・。




今日も最後まで読んで頂きありがとうございます。

この突然の侵入者は一体誰でしょう?

続きを楽しみにして下さると嬉しいです。






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