福岡のやばい父ちゃん 第5話 プレゼント
父は本当に人を喜ばすのが好きだった。
知らない子供にもおこずかいを渡すほど人に何かをあげるのも好きだった
まあ、今思えば、ただの危ないおじさんであるが…
「私、カブト虫好き」
親戚の集まりの時に
やばい父ちゃんの妹の娘、つまり姪にあたるさよこが言った。
父ちゃんは妹を可愛がり、さらにはその娘、息子たちも可愛がった。
毎年、お年玉を奮発したり、おもちゃをあげたり、お父ちゃんは人を喜ばせることが大好きなのだ。
この「カブト虫好き」発言がさよこに災いをもたらすとは、この時点では誰も思わない。
その日は夏の暑い日だった
さよこが住んでいる横浜から、父ちゃんの住んでいる福岡の山の中に遊びに来た
その日の父ちゃんはとても疲れていた
遊びに来た妹夫婦も心配した
が、心配をよそに父ちゃんは笑顔になった
そしてうずうずしながら
「さよこにプレゼントがあるよ」
と言った
いままで、ぬいぐるみやおもちゃ、たくさんのものをもらったさよこは目を輝かせた。
今度はなんだろう
今度は何をくれるんだろう!
何、何?と父ちゃんに抱きついた
「二階においで」
そう父ちゃんが言うとさよこは言われたまま
父ちゃんに連れられ、父ちゃんの家の二階にあがった
「扉を開けてごらん」
言われたまま、さよこは扉を開けた
扉を開けると
そこには、100匹を超える数のセミがいた
カゴには入っておらず
カーテンにびっしり
電球のまわりをぶんぶん飛び回り
数匹がさよこめがけて飛んでくる
さよこは絶叫し泣き出した
ミーン、ミーン、ツクツクホーシ、ジワージワー
そんなものすごい鳴き声より
さよこの泣き声はすごかった
事の顛末はこうだ
さよこが「カブト虫が好き」と言った為に、虫全般が好きと勘違いし
それでさよこを喜ばせようと
会社に行く前にせっせと毎日、セミを捕まえてはカゴに入れ
貯めるに貯めたセミを
本日
二階にある自分の部屋に部屋に放したのだ
さよこはカブト虫が大好きだったが
セミは苦手だった
いや、むしろ嫌いだった
おそろしい光景に号泣し、その場を立ち去ろうとした
父ちゃんは不思議な顔をして、さよこを捕まえて
「ほら!さよこちゃんの好きな虫さんだよ」
これだけ苦労したのだから、喜んでもらわないとと思い
セミを捕まえてさよこに触らせた
さよこはますます泣き叫んだ
何事かと、父ちゃんの妹がかけつけた
数々の奇行を目の当たりにしてきた妹も流石にこの光景にはおどろいた
父ちゃんはめちゃくちゃ怒られ
さよこには超弩級のトラウマが残り
虫全般、カブト虫すら嫌いになった
父ちゃんはそこから、プレゼントは現金と決めたようだ
娘に甘いもの買います!