北海学園文学会ウェブエッセイ㉓「秋雨」
去年の秋もそうだった。
やっぱりこれぐらいの時期には雨が降りやすい。
去年の丁度今ごろ、キャンプする予定を立てていた。暑さが去り夜の寝苦しさもなく、キャンプするには絶好の季節だとキャンプ超初心者の私は思っていた。
夏休み前、前々からキャンプをしたいと思っていた私は今年こそはキャンプをするぞ。と強く意気込んでいた。というのも、1年生の頃はまだゴタゴタしていて出来るタイミングなんて無かったし、3年生にもなれば就活が始まりほとんど何も出来なくなるだろう。そう考え、タイミングは今だと信じ、9月頃にはキャンプができるよう準備を始めた。
そしてすぐに、キャンプ用品の余りの値段の高さに絶望する。
これが最初の挫折だった。
今思うと最初に誰もが名前を知っているような有名なお店で探し始めたのも悪手だった。
綺麗に並べられ、高機能、コンパクトで超軽量そんな謳い文句がよく似合う最高のキャンプ用品が広がっていた。そこはテーマパークだった。
目を輝かせ展示品に座ってみて、その座り心地の良さに感動し、タンブラーやスキレットを手に取り、重さや素材の手触りに(本物のキャンプ用品だ!これでキャンプができるんだ!)と胸が高まった。そして、隅々まで確かめ、手持ち部分に括られた値札を見た瞬間、悪寒が私を貫いた。
厚みのある紙を更に加工し渋いフォントでブランドが書かれた貫禄すら感じるその紙の裏には悪魔が住んでいた。
値段も値札もペラペラじゃなかった。
キャンプって経済的な余裕のある人の遊びだったのか……「お金がない」が口癖のたかが大学生という身分でするようなものではなかったのか……と一ヵ月以上気分が下がったままだったが、そこでめげるようなモチベーションでこちとらキャンプを始めようとしたわけじゃない。
キャンプ初心者におすすめの安く、できる限り小さくて軽い商品をネットでかき集め、アルバイト代を削りなんとか一式揃えることができた。快挙だった。
しかし、そこに更に追い討ちをかけるように新たな問題が浮かび上がった。移動手段だ。
いくら自然豊かな北海道と言え、都市部からキャンプ場まで行くにはかなり遠い。
一人暮らしの自分が車を持っているわけもなく、レンタカーを借りようにも、当時は自動車学校に通いたてで免許すらなかった。(あとでレンタカーの値段もまあまあすることを知ったし、免許を持った今でさえまともに運転できる気がしない)
そして、キャンプ場なんて人里から離れている訳だからもちろん近くまで公共交通機関が通っている訳でもない。
下手したら駅から降りて30分以上歩かなければいけなかった。
なんだ30分か。と思うかもしれないがキャンプ用品を詰め込んだザックを背負ったまま歩くのはとてつもなくキツイ。
ちなみにここでもお金がないことがひとつ枷になっている。
というのも先程書き殴っていたようにキャンプ用品を安く済ませようとすると小さく畳めないだとか素材の関係で重くて大きくなってしまうのだ。
そして、更に普通のリュックでは最低限の荷物を積めるだけでパンパンになってしまうため、そのための大きいザックが必要になりまたお金がかかる。 いくらできる限り小さくて軽いキャンプ用品を選んだとはいえ、なかなかの重さがあったのでそんなに歩けるかというとそれは現実的ではなかった。
キャンプ用品を遂に揃えたあの日、9月頭にはキャンプができると思っていた。
それがここまで全てが上手く回らなくなり、その絶望感はなかなかなものだった。
誰か車を持っていて運転も出来る人に頼もうと思ったこともあったが、人を乗せる責任と車を出す大変さを背負ってもらえるほどの関係性を築くことができなかった。
私はコミュニケーションに普通に難があった。
結局、キャンプ用品は実家に帰った際に一回使っただけだった。
そして、いずれ使う日が来るかもいや、来ないな、いや、来る……かも……???という程度の微かな望みを持ちながらキャンプ用品と苦い記憶をクローゼットの端の方へ詰め込んだ。
キャンプが出来なかったことも勿論辛かったが、世の中の物の価値を知らない世間知らずな人間だったことを突きつけられたのは更に深く心に突き刺さった。
(今、思い返すと自分が買い揃えたキャンプ用品はかなり本格的に「キャンプ!!」というのをするためのガチ勢向けセットであって、近くのお店で買った安いお肉を焼いて、ただ一泊するだけなら以外と色々要らなかったのではないかと思う。)
家に1つしかないクローゼットを圧迫しているキャンプ用品達は、雨が降る度苦い顔をする私を閉まらない扉の隙間から覗いては嘲笑っている。
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