命乞いする蜘蛛【毎週ショートショートnote】

人間になりたい。だから今日はある家に忍び込んでリビングの隅に人間を学ぶために人間の感情を捕らえる糸を吐いて巣を作った。

巣がぽわんと揺れた。

私の作った巣は飛んできた感情を高級ホテルのベッドのように柔らかく受け取った。

どうやら、この家に住む家族の人間の感情が巣に引っかかったようだ。

人間というのは何を考えているのだろうか。私はワクワクしながら巣に引っかかっている感情にゆっくりと近づき、少し口にした。

ん？

苦しい。

人間というのはこんなに苦しい生き物なのか。

人間として生きる事は、心の中ではこんなに痛く苦しい感情を抱えねばならないのか。

やめよう、人間になるのは。

蝶を食べているだけでいい。

余計な事を考えずに。

しかし、既に感情が頭の中にどんどん流れてくる。

足が痺れてきた。

助けて。

辛い。

誰か。

痛みが辛すぎて薄れていく意識の中、小さな人間のそばにいる大きな人間の声がかすかに聞こえた。

「もういっかいやるよ、いたいいたいの飛んでけー」