神の声 ~白石の場合~

「何がハロウィンだよ」

同級生がハロウィンパーティーと称して学校に集まり、オールナイトイベントを行っていた。参加はしたものの早々にドロップアウトし、白石、中山を含むクラスの日陰四人組は理科準備室で麻雀を始めていた。時は既に深夜三時。

「智也、亜希子とイチャイチャしてんのかな」
「用具入れでヤっちゃってるんじゃね?」
「あー!ムカつく。あいつフォワードだからモテるんだよな。キーパーなんかモテないぜ」
「うるさい。サッカー部のゴタゴタはいいから、早く切れよ」

白石は慌てて右端の牌を握った。

 切らないで

白石の耳に声が聞こえた。ついに幻聴が聞こえてきたかと笑いながら牌を切った。

「ロン」

中山は白石の牌であがった。白石は中山に16000点払いながら、既にあと1000点しかない得点箱を見つめた。すぐに次の場が始まり、早々に発芝がテンパイした。まだ早すぎて当たり牌がどれかなんてわかるはずがない。白石はくじ引き感覚で要らない牌を握った。

 お願い、切らないで

再び声が聞こえた。白石は握った手牌をそっと戻し、他の牌を捨てた。

そしてその場は流局になり、発芝の手牌を見て白石は驚きを隠せなかった。発芝の上がり牌は、切らないでと言われた時の牌だったからだ。

「これは、神の声?」

どうやら他の三人にはこの声が聞こえていないと白石は確信した。

 チー
「チー!」

 ポン
「ポン!」

 ポン
「ポン!」

白石は次々と聞こえる声に従って手を進めた。気がつけば目の前に役満のテンパイが出来上がっていた。これ上がる事が出来れば一気に大逆転だ。白石は祈るように山から牌を持ってきた。しかし引いた牌は願いも虚しく不要牌だった。白石が牌を切ろうとした時に再び声が聞こえた。

 切らないで…

白石は悩んだ。この声に従ってここまで来たのだ。従うべきなのか。しかし白石がここまでの負けを取り返すには、この牌を切って一発逆転の役満を上がるしかない。白石の頬にジワリと汗が浮き出た。そして白石は更に牌を強く握り、場に捨てた。

「頼む、通して!」
「ロン」

中山の嬉しそうな声が部屋に響いた。中山の勝ちだ。そのまま白石は大敗した。

そして朝が訪れた。四人は各々が大きくあくびをしながら、教室から廊下に出た。廊下からは普段の朝とは違う異臭がし、四人は微妙な違和感を感じていた。更に鉄臭い匂いが白石の鼻を突き刺した。

白石が壁の方を見ると、至る所に赤いペンキが塗りたくられていた。

「誰だよ、ペンキばらまいたの。ゲームじゃねえんだから」

ピチャッ

そして赤いペンキの溜まりに足を踏み入れてしまった。そして、その脇に転がっているものを見て、全身の血が沸騰するような感覚に震えた。

智也の首だ。

首から下が無く、生首の状態でボールのように転がっている。

「ひぃっ」

白石達が恐怖で後ずさると、また声が聞こえてきた。

 切らないで…

 血…

そしてポンという音が鳴り、亜希子の生首がまるでPKで蹴られたボールのように勢いよく四人の元へ飛んできた。白石はキーパーの条件反射でキャッチしてしまった。

 


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