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夢 【バレエ文学】

僕の夢はバレエダンサーになる事だ。

僕は3歳からバレエを始めた。親が決めた事だから、何故なのかは覚えていない。中学になった辺りで周りとは違っていると感じ始めた。友達は毎日ストレッチをしないし、カロリー制限の食事じゃないのだから。

でも僕はバレエが好きだった。だから毎日の練習にも耐えてきた。高校には行かず、バレエ留学するはずだった。

しかし、世界は一変し留学どころか渡航すら叶わない世界になった。更に追い討ちをかけるように、飲食店を営む父が廃業して億を超える借金を抱えた。

母と僕は父の元を戸籍上離れる事になり、二十歳になった僕はまだバレエ団には入っていなかった。いや、入れないというのが正しいかもしれなかった。僕は夢を諦めた。

そして僕は、ある門を叩いた。

相撲部屋だ。

体の柔らかさ、しなやかな筋肉、そして毎日の努力を欠かさない忍耐力。

相手と立ち会いで組んだ瞬間、僕は相手の重心がすぐわかる。重心さえわかれば倒すのは簡単だ。ダンサーのリフトの練習がこんな所に活かせるなんて思っていなかった。

四股名は『舞乃湖』。

華麗な体さばきと観客に魅せる技で、瞬く間に番付を上がっていった。そして遂に横綱との優勝を争うまでになった。

優勝決定前日のインタビューで、僕はこうコメントした。

「バレエは、最強の格闘技だ。」

見事僕は優勝し、外国の力士が主流になりつつあった角界には何らかの事情でバレエに挫折した経験者が溢れる事になった。

【鈍貴宝照】【慈瀬瑠】【胡桃割】【忽辺理阿】
今や、番付にはバレエ経験者がゴロゴロいる。

国技館の天井にピンとまっすぐあがる四股は、まるでソロのダンスを見るような華麗さがあった。

ターンを取り入れた技や化粧まわしも華やかな柄が増え、角界が新たな次元へ進み始めた。

夢は叶わなくても、努力は報われる。そんな事を考えながら久しぶりにバレエを鑑賞しに両親と劇場へ足を運んだ。

劇場では今後の公演のポスターが張られていた。僕はあるポスターに目を奪われた。

【元力士によるバレエ団:第一回公演】

最初に倒した横綱が、華麗なマネージュをしている写真だった。

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