黒板消しの憂鬱

 美術室はいつものようにひっそりとしていた。美術部の時間と授業の時間以外は人が集まらないこの部屋は不思議があっても生徒達は気づかない。例えこの彫刻が蝋人形に変わった所で誰にも気づかれないだろう。それくらい学校の中で不人気な教室なのだ。

 美術室の黒板消しは憧れていた。毎日毎日授業後に文字を消す事が出来る普通の教室の黒板消し達に。もう彼らは三世代くらい世代交代すら果たしているが、美術室の黒板消しはその骨董品感を醸し出しながら生き長らえていた。おそらく以前に使われたのは半年前だったような気がしていた。
 
 しかし本日は美術室の黒板にいつもと違う光景が広がっていた。どうやら生徒の名前のようなもの黒板一杯にびっちりと書かれていた。
 
 何か音がした。そして何者かが美術室の黒板消しを掴み、黒板の名前を一つ消した。黒板消しは最高の気分だった。もっともっと文字を消したい、そんな気持ちでいっぱいになっていた。

 またもう一つ音がした。床に生徒の生首が転がった。その顔は授業の時に見かけた気もするが、苦悶に歪んだ表情になるとわからなくなるし、もはやそんな事はどうでも良かった。黒板消しは何者かの手を借りてまた一つ名前を消した。

誰だか知らないけど、ありがとう。

もっと、もっと消したい。理由は何でもいい。

この黒板の文字を全部消してくれ。

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