復習Tシャツ【毎週ショートショートnote】

「予備校の授業高いんだから、ちゃんと復習しなさいよ！」

母さんに言われて、白地に黒く文字が浮かび上がったTシャツを一枚着た。東大受験まであと１か月、僕はすでに復習Tシャツを７０枚以上重ね着をしていた。普通の浪人だったら家を出ないから太るといわれているが、僕はTシャツの重ね着で太って見えていた。しかし実際には体はどんどん細くなっていた。

そして受験当日。Tシャツを百枚以上重ね着した僕はだるまのような姿だった。そして家を出るときにすでに玄関のドアから出れないサイズになっていた。庭の方から家を飛び出して、駅まで向かった。

自動改札を通れない。
階段でボールのように転がる。
通学中の子供に蹴られる。

数々の試練を経て、僕はどうにか東大の赤門までたどり着いた。この日のために重ね着した努力を決して無駄にできない。そこで係員に呼び止められた。

「文字の入った洋服はＮＧです」

一枚一枚脱いでいく僕の横で、真っ黒なだるまの姿をした受験生が通り過ぎていった。

あの時、白を選ばなければ・・・