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言葉は俎上に載せられて

noteに書くとなんでもおしゃれな感じになりますね。みなさんもnoteに書くとなんでもおしゃれな感じになると思っていませんか? 以下で試してみてください!

鼻水
土曜日から鼻水が止まらない。鼻はチリ紙ですりむけて、耳はきーんとして頭はぼーっとしつづける。出してもすすってもいつの間にか鼻孔の入り口(あるいは出口)一歩手前に鼻水がいる。とおくのものの輪郭が二重に見える。昼、ヨドバシカメラを見上げたら、吉永小百合がふたりいた(曰く、「AQUOS」と)。そんなイメージが、視界の右上らへんを占拠する。しらふでキーボードを打っているけれど、もしかすると風邪かもしれませんね、この感じ。多分、風邪。

軍艦講堂8番教室
右斜め前の学生2人。
「いーやー。スタバじゃいーやー。今日はートムヤムクンヌードルの気分だいっ。」「うける(笑)」
「ちょっとーー?? 写真めっちゃ撮るじゃん? 私の。それ写真ハラスメントだよ、ご承知おき?」「うけるわー」
「てかさー、遺影ってさあ、あたしの人生のハイライトじゃあだめなのかな? あたしが70とかで死んだとしてさ、30代とかのバッチリ決めた写真で参列者を出迎えちゃだめなのかな?」
もう片方の返答は聞き取れなかった。ほどなく授業がはじまって、先生が「この授業も最後までなかなかヒトが減りませんでしたネー、来週期末テストなのでそのコ・ク・チします」とスライドをちかちかさせた。

先週の記憶
目の前のパンケーキ屋から出てきて、じゃーねーと朗らかに友達と別れていったアースカラーの大柄な女性が、大学通りの細い雪道を私のさき歩いてく。と、向こうから来た子どもが、隣のおかあさんに話しかけた瞬間に、女性が「うるせーーーーーんだよ!!!!!!」と大声をあげた。雑な除雪で狭い歩道、10歩くらい先での出来事が、強烈に記憶にこびりつく。ごわっとした後ろ姿は昨日も夢に出てきて、まだ男の子を威嚇していた。



8番教室の右端にずらっと張り付いた古(いにしえ)のスチームヒーターが、がこんがこんと狂った金属音を響かせて、講堂に熱気を送り込んでいる。


ブックオフ南2条店
の2階奥、小説百円均一(税別)棚は、一番上に官能小説コーナー、その下に外人作家コーナーが設けてある。ので、『実話通信』という本を漁るおじさまと、『ストーリーガール』の続編を探す自分とで沈黙のナワバリバトルが繰り広げられる。毎週火曜。

きんぴら入りホットサンド
地下にある大好きな喫茶店でお昼を食べていると(だからお金が無い)、甲高い声でしゃべる大学院生の話が聞こえてきた(というか、話の内容から大学院生とわかった)。「見なよこれ、SIXPAD。これなら講義聞いてる間も、変な話、鍛えられるわけ。」「へー、お幾ら万円」「39000円。が、初売りで15000円。明日までだよ、明日まで。」「んーーーーーー。一回渋る! 7900円なら買った。」「お目ーーーー。お目が低いぞーーーー実際。」この後はspotifyでfenneszを再生しちゃったので聞かずに済んだ。それから30分後くらい。
「そのー、ハイデガーの人となりー、ンンホォ、ヒトトナリーをディスクライブしてねー? 自分なりのハイデガー像をまずは提示するわけ。これ今更感あってやらない愚か者ッフフオロカモノ…もいるんだけどね? まずはさあ自分がハイデガーをどういう文脈でつかまえてさ? どういう話の中に投げ込まんとするかをさ? 前提を記述しないかぎりお前の話がリアルにこっちに伝わってこないわけねー、実際。」あんまりに声が大きいので、ちらっと見るとそれは元お向かいさんだった。そそくさと会計を済ませて僕は出た。

真理棒
お向かいというのは、研究室棟の向かいの研究室(に所属する人)、ということだ。僕が最初にいた研究室は美学の研究室で、向かいは哲学科だった。
文学部研究棟は全6階。一階が社会システム系でそのうえが地学。そのうえが言語でそのうえが文学……と、階があがるごとに研究内容も地に足が着かなくなっていく。その最上階は哲学・美学(宗教美術)・宗教学・インド哲学の研究室が居並び、通称イデア階(界)と呼ばれた。
ところで、6階の窓にはどれもステンレス製の棒がつっかえてある。学生の転落防止のためというが、明らかにそれは自殺防止用だった。この棒を称して真理棒。真理へ至れず絶望した学生をとどめるためとも、真理へ至った学生をとどめるためともいう。

虚実は被膜の間(あわい)にあると、近世文学の富松先生は言っていた。

(おわり)

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