2023年司法試験再現答案ー労働法
司法試験のしょっぱなで緊張でドキドキしながら問題を解きましたぽん。司法試験前のSセメは荒木先生の授業にもぐり、森田(修)先生のゼミで判例を丁寧に読み込んで来た私に死角はない!と思ってたけど、普通に死角あったぽんねぇ…
【第1問】
設問1
1.Xの請求が認められるためには、Y社が復職命令をしないことが違法である結果、自動退職の効果が生じないことが必要である。
(1)休職制度の趣旨は、債務の本旨に従った履行の提供ができない労働者は、労働契約を解除されるのもやむを得ないところ、労働者の回復に期待し、解雇を猶予するものである。そして、休職期間満了の効果は労働契約の自動終了であるが、労働者への打撃は解雇同様であるため、これに配慮する必要がある。そこで、労働者が債務の本旨に従った労務の提供ができる場合には、復職命令を出さないことは違法であると解する。そして、債務の本旨に従った労務の提供といえるためには、原則として従前の職務遂行能力の有無を基準とすべきである。しかし、メンバーシップ型雇用ではたまたま命じられた職務が遂行できないことを労務提供不能と評価するのは妥当でない。そこで、従前の職務を遂行できないときは、労働契約上の限定がなく、現実的な配置可能性のある職務について遂行でき、その労務の提供を申し出ている場合は、なお債務の本旨に従った履行の提供があったと解するべきである(片山組事件参照)。
(2)これを本件について検討する。
ア まず、従前Xはプロジェクトマネージャーとして職務を行なっていた。そして、産業医BはXについてプロジェクトマネージャーとして就労は困難であると意見を出しており、X自身も注意力が散漫になることがある旨を述べ、またXの主治医Aも複雑な職務の遂行はいまだ困難である旨を診断している。そうすると、プロジェクトマネージャーはシステム開発のチームをまとめる複雑な職務であるから、Xは従前の職務遂行が不可能であると評価できる。
イ 次に、Xは担当職種の限定がない労働契約を締結していたところ、プロジェクトマネージャーではなく一般のエンジニアに配置される可能性はあった。そして、一般のエンジニアであればプロジェクトマネージャーよりはシンプルな職務であるし、主治医Aも複雑な職務でなければ復職が不可能ではないと診断していることから、Xはかかる職務の遂行は可能であったと認められる。
もっとも、Xは、原職での復帰を強く希望し、それ以外での形の復職を拒否しているため、労務提供の申出があったと言えないように思える。しかし、課長補佐から降格され、給与が減額されるにもかかわらず、これを労働者から申し出ることは困難である。また、労働者が失職するという不利益の重大性に照らせば、会社は回復の程度にしたがって原職に復帰させることを約するなど労働者へ一定の配慮をすべきである。そうすると、会社は原職での復職が困難であるとしか伝えず、何らそのような配慮をしていない以上、Xの申し出がなかったということはできない。
ウ また、会社は、休職期間満了日から近接した時点で、労働者が回復する見込みがあるなら、かかる回復可能性も考慮すべきである。なぜなら、いつ回復するかは偶然の事情によるところも大きいから、確実に回復の見込みがある場合には、それも考慮すべきだからである。
本件では、Xは、回復傾向にあり、現在はプロジェクトマネージャーとしての職務遂行はできないものの、主治医の診断では3ヶ月程度の療養によって回復する可能性がある。また、X自身も回復してきており、エンジニアとして力を尽くしたい旨を述べている。そうすると、近いうちにXが回復する可能性が十分あるから、会社はこれに配慮すべきであるが、何らY社はかかる配慮をしていない。
エ 以上より、債務の本旨に従った履行の提供がないとはいえないから、Y社が復職命令をしないことは違法である。
2.以上より、Xの請求は認められる。
設問2
1.労働契約上の地位確認請求について
(1)前述の基準に従い判断する。
ア まず、原職については、前述のとおり、就労が不可能であり、労働契約上の職種の限定はない。
イ そして、より軽易な事務業務への配置転換の可能性もある。
もっとも、Xは、定型的で繁忙度の低い軽易な事務業務であり、週3日の隔日勤務で勤務時間を4時間としても、2週間程で体調不良となり、欠勤を重ねるようになっている。そうすると、軽易な事務業務であっても職務遂行が不可能であると認められる。
また、休職期間を延長し軽易な業務により職務遂行能力をはかる観察期間を設けることにより、Xの改善可能性に対する配慮もなされている。
ウ 従って、Xが債務の本旨に従った労務の提供が不可能であると認められる。
(2)以上より、復職命令をしないことも違法ではなく、Xの請求は認められない。
2.未払い賃金請求について
(1)ノーワーク・ノーペイの原則から、債務の本旨に従った労務の提供がないときは、使用者は労働者に対する賃金の支払いを拒絶できる(536条1項)。
本件では、観察期間は正式な復職の可否を判断するため職務遂行能力を見極める期間であり、Xの提供した労務も、週3日の隔日勤務で勤務時間も4時間しかなく、また定型的で繁忙度の低い軽易な事務業務である。そうするると、債務の本旨に従った履行の提供があったとは評価できない。
よって、賃金請求はできない。
(2)もっとも、Y社はXの労務提供を受けていたことから、その労務の受領についてはY社の利益になる以上、不当利得返還請求ができるというべきである(民法703条)。
本件では、観察期間においてはXは事務業務に従事しているところ、原職のプロジェクトマネージャーは課長補佐という役職と結びついた職務であるから、そのような役職と結びつかない事務職でのXの就労については従前の賃金である月額50万円を基準に利得を算定することはできない。
一方で、労働契約上担当職種の限定がなかった以上、Xは事務職に配置転換される可能性もあったのだから、課長補佐への昇進がないものとしてのXの賃金を基準に利得を算定すべきである。
そこで、月額30万円を基準とし、Xは週3日4時間勤務で2週間程度の労務を提供していることから、Y社は9万円の限度で利得を得たといえる。
従って、Y社は9万円の返還義務を負う。
(3)以上より、Xの請求は9万円の限度で認められる。
【第2問】
設問1
1.A社がC組合との団体交渉を拒否することが、不当労働行為(労組7上2号)にあたるのであれば、C組合は救済を受けることができる。
(1)まず、A社は「使用者」に当たるか。C組合の組合員である添乗員はA社とは雇用契約がないため問題になる。
この点、不当労働行為制度の趣旨は労使対等の団体的交渉によって労使自治を促進する点にある。そこで、雇用関係及びこれに近接する関係に基づく、団体的労使関係における一方当事者であれば足りると解する。
本件では、C組合員である添乗員はB社と雇用契約を結び、AB間の労働者派遣契約に基づいてA社はA社の指揮命令に基づき添乗員らの労務の提供を受けている(派遣法2条1号参照)。そして、A社は添乗員について業務計画書に基づいて添乗業務に従事させつつ、日報や電話連絡により添乗員の業務に従事する時間の管理を行なっていた。そうすると、確かに雇用契約はないものの、労働内容を一方的に決定し、時間管理もあったのであるから、A社は添乗員との関係で雇用契約に近接する関係があるといえる。
よって、A社は「使用者」に当たる。
(2)次に、C組合の要求する交渉事項が義務的団交事項に当たらなければ、A社はなお交渉に応じる必要はない。
この点、不当労働行為制度の上記趣旨に照らし、義務的団交事項とは、組合員の労働条件や団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者において処分可能な事項を言う。
本件では、労働時間の時間管理の改善に関する事項であり、賃金計算の基礎となる事項であるから、組合員の労働条件に関する事項である。また、A社は、添乗員の勤務実態は上述の通り、業務契約書、日報、電話連絡などで把握する立場であるから、A社においてかかる事項は対応可能である。
よって義務的団交事項にあたる。
2.以上より、A社の団交拒否は不当労働行為に当たり、C組合の申し立ては認められる。
設問2
1.令和3年協約の効力がDに及ばなければ、B社の支払猶予は許されないことになるから、猶予前の支払い時期を基準として、未払賃金支払請求およびそれに対する遅延損害金の支払い請求が認められることになる。なぜなら、労働協約の規範的効力により、個別の労働契約が規律されるからである(労組16条)。
(1)この点、個別の条項では不利益に見えても全体としては労働者の利益に適うこともあるし、団体交渉の柔軟性を確保することも重要である。そこで、労働協約による労働条件の不利益変更も原則として有効であると解する。
もっとも、労働者の権利の維持・強化を図るという労働組合の本来の目的から一定の限界もある。そこで、労働協約が特定又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたといえる場合には、規範的効力は認められないと解する。具体的には、①労働者の不利益の程度、②労働協約締結の経緯、③労働協約に定められた基準の全体としての合理性等を考慮すべきである。
(2)本件では、令和3年協約は組合員の賃金債権の支払いを猶予を内容とするところ、1年にわたり1割の賃金が支払われないから、労働者にとっては重大な不利益になり得る。もっとも債権自体を放棄するわけではないから、著しい不利益とまでは言えない。
一方で、C組合とB社は2か月にわたり交渉を続けてきており、B社も誠実に対応していた。そして、B社の事業全体が低迷している中で、未払いの時間外労働賃金を支払うことが経営状況として厳しい中で、やむをえず将来の賃金の一部について支払い猶予を求めたものである。そうすると、誠実な交渉による妥結の結果と評価できる。
また、Dのように未払い賃金が少ない者にとっては、未払い賃金の一括支払いとトレードオフで将来の賃金の支払いを猶予されることは、むしろ労働者の生活への影響が大きいため、不利益である。この点で、未払い残業代が多額になる多数の組合員とは利益相反的関係がある。しかし、賃金の支払い猶予に過ぎないため不利益が必ずしも著しくないことと、多額の残業代を一括で支払わせることは多数の組合員にとっては重要な利益がであることから、全体としては合理的である。
(3)したがって、令和3年協約の規範的効力は否定されない。
2.令和5年協約の効力が否定されれば、Dは支払猶予分の賃金をなお請求できることになる。これも前述の基準により判断する。
(1)まず、1年間に及ぶ1割の賃金債権を放棄することは、その額も多額であり、債権が確定的に失われることから、組合員の不利益は重大である。
一方で、令和4年下半期にはさらにB社の経営状況が悪化しており、B社は真摯な要請として賃金支払い請求権の放棄を提案している。そして、C組合もB社の経営が悪化していることを認識し、将来にわたる賃金減額や組合員の解雇を防ぐために、C組合とB社との間で誠実に交渉を続けた結果として、令和5年協約を妥結している。
そして、将来にわたる雇用確保はDにとっても利益であり、C組合の多数者との利益とも一致し、C組合の中では利益相反的な関係がない。また、経営状況の悪化によって解雇や賃金減額を防ぐためには、賃金債権を放棄することも全体として合理性がある。
(2)したがって、令和5年協約の効力も否定されない。
3.以上より、Dの請求はいずれも認められない。
以上
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