2023年司法試験再現答案ー刑法

刑法は東大の樋口先生に教わってたんだけど、樋口先生が布教していた進捗度判断説をついに答案で書く時が来た!と思って、テンションぶち上がったぽん!
なお、共犯では樋口先生を裏切り因果的共犯論を大展開した模様🐾


設問1(1)

1.詐欺未遂犯は詐欺の「実行に着手」(43条)したときに成立する。

(1)まず、実行行為とは犯行計画上の最終行為をいうところ、未遂犯は犯行計画の進捗度が処罰可能な段階に達したかという問題である。そして、処罰可能といえるには、犯行計画の山場に達する必要がある。山場に達したか否かは、最終行為との密接性、結果発生の危険性により判断される。

 そして、詐欺の実行行為は、欺罔行為、すなわち財産的交付の基礎となる重要な事実を偽ることをいう。そうすると、目的物の交付を要求することは不可欠である。もっとも、最終行為として交付要求が必要だとしても、最終行為と密接し、結果発生の危険のある山場にさしかかった場合には、詐欺の実行の着手があることになる(進捗度判断説)。

(2)本件では、甲・乙・丙は、犯行計画に従い、Aに対して、甲らを警察官だと信じこませ、Aが現金200万円を家に持ち帰っており、その状況で乙・丙が警察官を装ってA宅を訪れている。そうすると、現金の交付を要求する最終行為と密接しており、かつAは甲らを警官だと信じていたから、犯行計画上、ほとんど自動的かつ確実にAが乙・丙に現金を交付する危険があったといえ、少なくてもA宅を乙・丙が訪れた時点で犯行計画の山場を超えていた。

2.よって、詐欺の実行の着手が認められ、詐欺未遂罪が成立する。


設問1(2)

 前記の説明に従うと、山場に差し掛かった時点で、未遂犯の成立を認めることができる。これを本件について検討する。

 まず、犯行計画は、①甲が被害者を選定し、②1回目の電話で甲を警官だと信じ込ませ、③2回目の電話で口座から現金を引き出すように指示し、④被害者に現金を引き出して自宅に持ち帰らせ、⑤電話で警察官が向かうとうそを言い、⑥乙及び丙は、甲の指示に基づき、被害者宅を訪ね、⑦現金を預けるように嘘をいい、現金の交付を受けるというものである(事実①~⑥に対応)。

 そして、詐欺の実行行為は計画上の最終行為である⑦であるが、電話口で警官向かうと嘘をいった上で(⑤)、警官のふりをした共犯者が被害者宅を訪れる行為(⑥)は反抗計画上不可欠の前提行為であり、現に乙・丙が被害者宅に向けて出発した時点(⑥の開始時点)で、時間的場所的接着性も認められる。そうすると、⑥開始時点で最終行為との密接性が認められる。

 また、②③により、甲らが警察官であることを被害者は信じるものであり、さらに⑤で警官が自宅に向かう被害者が信じれば、被害者は警察官だと信じている乙・丙から要求されれば、第三者に指摘されるなどの特段の事情がない限り、ほとんど確実に乙らに現金を交付してしまうものである。そうすると、⑤の時点で、現金の占有移転の危険性が高まっている。

 よって、⑥行為の開始時点で、密接性、危険性が認められ、山場に差し掛かったと評価できる。

 以上より、⑥行為の開始時点で、実行の着手を認めることができる。


設問2

1.乙・丙の罪責

(1)まず、設問1と同様に、乙丙は詐欺の犯行計画に従ってB宅に向かっているから、この時点で詐欺未遂罪(246条1項)が成立する。そして、これは後述のとおり、甲と共同正犯になる。

(2)乙・丙は、警官のふりをして、Bにドアを開けさせ、B宅に侵入しているから、管理権者たるBの合理的意思に反する立ち入りであり、住居侵入罪が成立する(130条)。そして、これも甲と共同正犯になる。

(3)乙・丙は、Bを縛り上げて、現金300万円を取得し、Bが頭部打撲の傷害を負った行為に、強盗致傷罪(240条)が成立しないか。

ア.まず、強盗罪の「暴行」(236条1項参照)は、被害者の反抗を抑圧する程度の不法な有形力行使をいうところ、乙らはBを縛り上げることでBが抵抗できなくなっているから、「暴行」があったといえる。

 また、かかる暴行を用いて、300万円の現金という「他人の財物」の占有を取得しているから、「強取」したといえる。

 よって、乙・丙は、「強盗」にあたる。

イ.そして、Bは頭部打撲により生理的機能を害されているから「負傷」している。

 もっとも、かかる負傷は、BがCに座ったままでいるように言われたにもかかわらず、足が痺れたまま立ち上がり、転倒したという、Bの過失が介在している。

(ア)この点につき、240条は強盗が人を負傷させる結果が刑事学上顕著なことに鑑み設けられた特別の類型であるから、負傷結果の原因行為は、強盗の機会に生じたものであれば足りると解する。

 そして、Bが転倒したのは、Bが乙・丙に縛られていたことが原因であり、かかる暴行は強盗の機会そのものの行為である。

(イ)しかし、かかる原因行為との因果関係があるか。

 この点、因果関係は、帰責範囲の適正を確保するものである。そこで、介在事情の異常性、因果的寄与度を考慮し、行為の危険が結果へと現実化した場合に、因果関係を肯定できると解する。

 本件では、Bの足が痺れていたことが転倒の直接の原因であるから、乙丙がBを縛った行為の因果的寄与度は高い。また、強盗にあった直後であるから、気が動転しているのが通常であり、足が痺れていても慌てて立ち上がってしまうことは異常ではない。

 したがって、行為の危険が結果へと現実化しており、因果関係を肯定できる。

(ウ)よって、致傷結果まで帰責できる。

ウ.以上より、強盗致傷罪が成立する。

(4)以上より、①詐欺未遂罪の共同正犯、②住居侵入罪の共同正犯、③強盗致傷罪の共同正犯が成立し、③と②が牽連犯となり、これに①が吸収される。

2.甲の罪責

(1)甲は、詐欺の計画を立案・主導し、乙・丙を詐欺のためにB宅に向かわせているから、詐欺未遂罪の共同正犯が成立する。

(2)同様に、住居侵入罪の共同正犯も成立する。

(3)では、強盗未遂罪の共同正犯は、成立するか。

ア.共犯の本質は、結果に対して物理的・心理的な因果性を及ぼす点にあるところ、共同正犯として一部実行全部責任の原則が妥当するのは相互利用補充関係に基づく共犯としての一体性があるためである。そこで、①共謀、②正犯意思、③共謀に基づく実行行為を要件に、共同正犯が成立すると解する。

 本件では、甲が詐欺の犯行計画を練って、それに基づいて乙・丙をB宅に向かわせているから、甲乙丙の間には詐欺の限度で意思の連絡があり、共謀が認められる。

 また、甲は電話をかけてBを錯誤におちいらせ、一旦乙・丙がB宅を訪れれば、Bはこれを警官と信じているからドアを開けやすくなるという意味で、重要な寄与がある。また、被害品の300万円のうち100万円を受け取っている。そうすると、甲には自己の犯罪として実行する意思があり、正犯意思も否定されない。

 さらに、犯行計画を主導し、Bの錯誤状態を作出したのは甲であるから、物理的な因果性もあり、また詐欺の犯行計画を修正する形で乙丙は強盗を決意しているから、心理的因果性もある。よって、乙・丙らの犯行は、甲との共謀と因果性を有し、共謀に基づく実行行為と評価できる。

 よって、甲も共同正犯が成立しそうである。

イ.しかし、甲は詐欺の認識しかなく、乙・丙が強盗に及んだことを認識していない。

 この点、故意責任の本質は、反規範的人格態度に対する道義的非難であり、構成要件として与えられた行為規範からの逸脱の認識が故意を基礎付ける。そこで、認識した事実と客観的に存在する事実が構成要件内で符合する限りにおいて、故意が認められると解する。また、かかる重なり合いは、法益保護の見地から、実質的に判断すべきである。そこで、被侵害利益、行為態様に照らして、構成要件の重なり合いを実質的に判断する。

 本件では、甲の認識は詐欺にとどまっている。一方で、客観的に発生したのは乙・丙による強盗の事実である。両者は、財産犯であり、被害品の占有移転に向けられた犯罪である点で保護法益は共通する。しかし、詐欺は欺罔という手段を本質的要素として、相手方の錯誤を利用する犯罪であるところ、強盗は暴行・脅迫の手段性を本質的要素とし、暴力的に相手方の反抗を抑圧する点で、行為態様が大きく異なる。

 したがって、両者の間には構成要件的な重なり合いを認めることはできず、甲は事実の錯誤があるものとして、構成要件的故意が阻却される。

ウ.以上より、甲には強盗致傷罪の共同正犯は成立しない。

(4)以上より、甲には①詐欺未遂罪の共同正犯と②住居侵入罪の共同正犯が成立し、これらは併合罪となる。


設問3

1.公務執行妨害罪(95条1項)の「公務」であっても業務妨害罪の「業務」(232条、234条)にあたるかが問題になる。

 この点、公務は公務執行妨害罪で保護されるため、二重保護は不要であるとして、業務妨害罪は成立しないという見解がある。その背後には、権力的公務であれば、自ら妨害に対処可能であるという考えがある。しかし、「威力」は人の意思を制圧するにたる勢力を意味するところ、かかる理は妥当するが、「偽計」は欺罔・誘惑または無知・錯誤の利用を内容とするから、自ら対処できるとはいえない。そこで、権力的公務は威力業務妨害罪は成立しないと解するべきである。

2.これを本件について検討する。

(1)事実6では、丁は、Dの乙に対する逮捕状執行行為に対して、怒号をしながら両手を広げて立ち塞がっている。そして、逮捕状執行行為は警察官として強制的な妨害の排除が予定された権力的公務である。また、これは公務執行妨害罪の「暴行」には当たらないものの、逮捕に対する障害を積極的に誇示しているから、「威力」にはあたる。

 したがって、事実6では、丁に何ら犯罪が成立しない。

(2)事実7では、乙に対する逮捕状執行行為が問題となっており、丁はこれを妨害するため、Y警察署に電話をかけて通り魔事件をでっちあげる欺罔を行なっている。かかる欺罔行為は「偽計」と評価できるから、権力的公務であっても偽計業務妨害罪が成立する。

3.よって、事実6では業務妨害罪が成立せず、事実7では業務妨害罪が成立する。


以上

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