2023年司法試験再現答案ー刑訴法

司法試験の論文、ついに全部受けきった!と思って、意気揚々とお家に帰る電車の中でツイッターを開き、実況見分調書を作っていたのが警察官ではなく検察官だったと気がつく悲劇がありました…



設問1

1.捜査①の適法性

(1)まず捜査①は「領置」(刑訴221条)として適法か。

 この点、領置に令状が不要なのは、占有取得過程に強制の要素がないためである。そこで、「遺留した物」には任意に占有を放棄した物を含むが、誰の占有にも属さない必要があると解する。そして、第三者の占有に属する場合には、その者の同意がある場合にも「遺留した物」にあたると解する。

 本件では、甲はごみ袋を所有・占有していたところ、アパートのごみ捨て場にごみ袋を投棄しており、占有を放棄している。もっとも、同アパートでは、大家がゴミを分別してから、公道上のごみ集積所に持っていくことが予定されていたから、当該ゴミ袋の占有はアパートの大家にある。そして、Pは、大家から当該ゴミ袋の任意の提出を受けている。

 したがって、甲のごみ袋も「遺留した物」にあたり、領置として適法である。

(2)もっとも、197条1項本文にあらわれる捜査比例の原則が及び、かかる原則に反する場合にはなお違法になり得る。具体的には、必要性、緊急性を考慮した上で、具体的状況下で相当でなければならないと解する。

ア.本件事件は、強盗殺人未遂事件であり、被害者であるVも殴られて出血し、病院に搬送されているなど、重大な事件である。

 また、Vは事件直後に犯人の着衣や背格好などの容貌やゴルフクラブを持っていることを語っており、事件発生の7分後の2時7分、事件場所であるV方付近のコンビニでこれと酷似する容貌の男が長い棒状の物を持っている様子が防犯カメラに記録されている。そして、さらに約1キロ離れたガソリンスタンドでも同様の様子の男が事件発生から22分後の2時22分防犯カメラに写っており、この男がアパートの中に入っていく様子が記録されている。そうすると、甲が本件事件の犯人である可能性が高まっており、甲の嫌疑が認められる。

 一方で、まだ犯人を甲であると特定するには情報が足りず、何らかの決定的証拠を確保する必要性は高まっていた。

 したがって、捜査①を行う必要性は高い。

イ.ごみ袋の内部を調べることで、相当程度具体的に私生活の様子が判明してしまうから、ごみ袋の内部を調べられない利益はプライバシーとして重要性が高い。しかし、本件のアパートでは居住者が捨てたごみ袋は大家が再度分別することが予定されており、甲もこれを了知していたから、かかる限度ではプライバシーの放棄が認められる。そして、一回限りの行為であり、継続的な行為ではないから、プライバシーへの侵害の程度は高くない。また、大家への了解は取るなど適切な手続きを踏んでいる。

 そうすると、甲の被る不利益は大きいとは言えない。

ウ.よって、捜査①の必要性に比して、甲の不利益は小さいから、捜査比例原則反しない。

(3)以上より、捜査①は適法である。


2.捜査②の適法性

(1)まず、「領置」として適法か(221条)、前述の基準に従い判断する。

 甲は、使用した豚汁の容器を捨てて占有を放棄しているところ、捨てた先は公道上であり、誰の占有にも属していない。

 したがって、かかる容器は「遺留した物」にあたり、領置としては適法である。

(2)次に、捜査比例原則違反を検討する。

ア.まず、事件の重大性、嫌疑の程度は前述の通りである。

 次に、捜査①で収集された黒のスニーカーはV方廊下に付着していた足跡と矛盾しない物であることが判明したものの、大量に販売されていたものであるため、犯人の特定に至るものではなく、さらに犯人を特定できる証拠が必要な状況であった。そして、犯人の逃走経路に捨てられていた黒マスクには、Vの血液が付着していたから、犯人の遺留品である可能性が極めて高いところ、Vが犯人に反撃した際に犯人は出血しており、黒マスクにもVのものでない血液が黒マスクの内側に付着していたから、黒マスクの内側の血液は犯人のものであると認められる。そうすると、かかる血液のDNA型が判明しているから、甲のDNA型が判明すれば、甲と犯人の同一性を基礎付ける決定的な証拠になり得る。したがって、甲の唾液が付着した使用済みの容器を回収することにより、DNA型を判明させる必要性は高かったといえる。

イ.一方で、甲の被る不利益は唾液の付着した使用済みの容器を回収されることである。唾液により判明するDNA型は、個人の識別のみならず、健康情報などの多様な情報を解析できるから、プライバシーとしての要保護性が高い情報である。

 そして、一般に使用済みの容器は、多数のごみと共に廃棄されるものであるから、捜査機関に使用済み容器を回収されない期待が存在する。しかし、甲はごみ処理が予定されるゴミ箱ではなく、公道上に投棄している。そうすると、誰にも回収されないことへの期待は減少している。また、数人と連れ立ってゴミとして公道上に捨てていることから、多数のゴミの中に埋もれて個人を特定されないことに対する期待も減少している。そうだとすると、甲の容器の裏側にマークをつけて甲に豚汁の容器を使用させ、使用済みの容器を回収したとしても、プライバシーへの侵害の程度は高いとまでは言えない。

ウ.よって、上記必要性に比して、甲の被る不利益は大きくなく、比例原則に反しない。

(3)以上より、捜査②は適法である。


設問2

1.判断枠組み

 伝聞証拠にあたるなら、伝聞例外に当たらない限り、証拠能力は否定される(320条1項)。

 供述証拠には、知覚・記憶・叙述の各過程に誤りが介在する危険があるため、反対尋問等による真実性の吟味が不可欠である。そこで、伝聞証拠とは①公判廷外供述を原供述とする証拠であって、②内容の真実性の立証に用いられるものをいうと解される。

 そして、実況見分調書は、捜査官が作成するものであるところ、捜査官の知覚・記憶・叙述の伝聞過程が問題になるから、伝聞証拠にあたる。しかし、321条3項の趣旨は、専門的な事項についての判断の報告には恣意が介在する危険が小さく、また、複雑な事項は書面による報告の方が適している点にあるところ、その趣旨は、実況見分調書にも妥当する。そこで、実況見分調書には321条3項が適用されると解する。そして、実況見分調書が第三者の供述をも内容とするときは、その伝聞過程が別に問題になる。

2.実況見分調書①

(1)調書①には、甲の説明部分と解錠手順の写真がある。そこでこれらが伝聞証拠に当たらないか。

ア.まず、写真部分は機械的に録取されている。そして、写真は甲がその場で解錠手順を表現したものであるから、甲の身体を通じた供述としての側面がある。

 そして、要証事実は、甲がV方の鍵を解錠可能であった事実である。そうすると、連続写真により、V方の鍵の解錠手順が甲によって行われた事実が認定でき、かかる事実から甲が調書作成時において解錠能力があったことが推認でき、そこから事件当時も甲がかかる能力を有していた事実が推認できる。そうすると、甲の供述内容は問題にならない。

 よって、写真部分は非伝聞証拠である。

イ.次に、甲の説明部分はどのように手を動かしたかということが内容になっている。

 この点、心理状態供述は、供述者の知覚・記憶の過程を経ないこと、それが最良証拠であることから、非伝聞証拠と解される。そして、甲の説明部分は、どのように手を動かしているかを説明しているに過ぎないから、心理状態供述と同視できる。

 よって、説明部分も非伝聞である。

(2)以上より、調書①は、326条の被告人側の同意がない以上、作成者であるQが作成の真正を供述することで、証拠能力が認められる。

3.実況見分調書②

(1)調書②にはVの犯行再現写真とその説明部分が記載されている。

ア.まず、Vの指示に基づく犯行再現写真は、Vの知覚・記憶した事実を、身体を通じて表現するものだから、供述証拠にあたる。

 そして、立証趣旨は被害再現状況であるが、再現状況が明らかになっても、それ自体では犯人性や犯行の行為態様への立証には役立たない。そこで、要証事実は犯行状況であると解される。そして、かかる要証事実のもとでは、Vによる犯行再現の内容が真実でなければ、立証できない。

 よって、伝聞証拠に該当する。

イ.Vの説明部分は、Vが犯人に殴られた様子を供述する内容である。そして、「このようにして」殴られたと供述して、具体的内容は写真によることを示しているから、犯行再現写真と一体のものとして、伝聞証拠になっている。

(2)そこで、伝聞例外に該当しないか検討する(321条1項3号)。

ア.まず、供述者Vは交通事故で「死亡」しているから、不能である。

 そして、甲が犯人性を争っており、被害者以外に犯行を目撃した者もいないから、犯行状況の解明にはVの供述が不可欠である。

イ.そこで、「特に信用すべき情況」でなされたといえるか。

 この点、特信情況は、外部的付随的事情を基礎に判断される。

 本件では、犯行から2週間後のVの記憶が鮮明な時期になされたものであり、また甲とVは何ら利害関係がないから、Vがあえて甲をおとしめる理由もなく、犯行状況を忠実に再現するものと認められる。

 したがって、特信情況が認められる。

ウ.よって、伝聞例外に該当する。

(3)以上より、調書②も証拠能力が認められる。


以上

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