夏を感じた夜の話

まだ四月なのに夏の匂いがする。汗ばんだTシャツが纏わりついて1日を終えた体は余計に重い。日が沈んでも火照ったままのアスファルトはずるずると動き出しそうな予感がする。夜なのにあちこちにエネルギーが残っている。

夏になるといつも同じ光景を思い浮かべる。祖母と幼い自分が手を繋いで歩いた小さな商店街。薬局のふたつ隣の喫茶店の斜向かいに本屋がある。通りから見えるところに児童向けの本が並べられていて、僕はその中から戦隊ヒーローの絵本を買ってもらい店を出る。商店街の通りは赤や橙色のインターロッキングで舗装されていて、夕日に照らされると黄金色に輝いてみえる。僕にはそのきらきらとした帰り道がとても特別な場所に思えた。

歳をとるにつれて夏が早く来る気がする。まだ四月なのに今日の最高気温は29度らしい。子供の頃は真夏でも30度を超えていなかったんじゃなかったっけ。商店街は元から賑やかではなかったけれど今では開いている店の方が少ない。あの本屋は随分前に潰れてしまった。祖母は僕が10歳の時に天寿を全うした。今でもたまに商店街を歩いてみることがある。夕日を浴びた通りはやっぱり今でも輝いてみえた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?