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声劇台本 【食人植物美食研究会】 作:たのしぃ

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【あらすじ】

間接的カニバリズムの高みを目指す系コメディ

【所要時間】

約15分

【登場人物】

性別不問  2名

⬛︎小丸(こまる):食人植物研究室のゼミ生。中華料理が好き。

⬛︎高鷹(たかだか):植物学史上類を見ないマッドサイエンティスト。ベジタリアンではない。

【本編】

小丸:教授……。

高鷹:ん?

小丸:いい加減になさってください?

高鷹:入ってくるなり、何?

小丸:先週も、ここはもう限界だとお伝えしました!

0:彼らがいるのは植物研究室の中。そこには、多種多様な植物が生い茂っていた。

小丸:どうしてまだモッサリしてるんですか!?

高鷹:当たり前だろう、ここが植物研究室だからだよ。

小丸:重要な情報が足りてません。ここはどんな植物を研究している研究室ですか?

高鷹:食人植物。

小丸:ここの植物は何を食べるって?

高鷹:……人間。

小丸:つまり、我々にはこの大学の人間の安全を守る……

高鷹:責任がある!ね?君も好きだね、それ。君が研究室に所属してから一体どれだけ聞かされたことか。

小丸:分かってらっしゃるなら、管理責任を果たしてください!

高鷹:やっているじゃないか。適切な量の人工人肉を与えて、人を襲わないよう管理している。

小丸:大学のホーボーからクレームが止めどないんです!

高鷹:そうは言ったって……。この大学の学生、職員、そのほか保護者後援会に至るまで、これまで一人だって減らしてないぞ。

小丸:減っていたらここは即閉鎖です!!!

小丸:(ため息)先月は、学部生の木之元(きのもと)くんが、この研究室からコンクリを割って抜け出してきた食人植物の芽に、後ろからアキレス腱を食われています!

高鷹:選り好みか。アキレス腱を好んで食う種(しゅ)だから。

小丸:好物だろうが何だろうが、本物の人を食わせちゃダメなんです!

小丸:先ほど、教授はこの大学の人を減らしたことがない。と仰いましたが、厳密に言えば減ってます!減ってるんですよ、木之元くんのアキレス腱が!体積が!

高鷹:ぐっ。

小丸:……限界なんです。研究室のゼミ生たちだって、危険と隣り合わせの研究生活にしびれを切らして次々と去って行き、残ったのはついぞ私一人だけ…。

0:小丸のその言葉に食いつくように声を上げる高鷹。

高鷹:そう、君一人だけなんだ!

小丸:なんです急に大声出して?

高鷹:君のその執着心はいったい何なんだ!?

小丸:何って……。

高鷹:そもそも、この研究室は私一人でも手が足りているし、本来ゼミ生だって取らなくても困らない。

高鷹:それどころか!必要以上に繁殖した個体については、燃やして処理してしまって構わない。と私はいつも伝えているだろう!君に!

0:詰め寄る高鷹。

高鷹:……なぜ燃やさないんだ?

小丸:炒め……ただ燃やしてしまっては、貴重な個体がもったいないでしょう?(小声で)もっとおいしく食べられそうなのに。

高鷹:なっ!まだ言うのか!ここは限界なんだろう?クレームが止めどないんだろう?

0:悲痛な面持ちの高鷹。

高鷹:君なんだよ……そうしているのは。

小丸:だって……。

高鷹:君は本気で言ってるのかい?これらを、食うと。

小丸:はい。

0:沈黙。

高鷹:なんでさ?!人喰い植物を減らせと言われて、何故「じゃあこっちが食べて減らします!」となるんだ!

小丸:常に金策と空腹に困る苦学生なので……。

高鷹:そうはならないだろう!?木之元のアキレス腱が食われるという痛ましい事件があってから早一か月。上層部から、植物たちを適正な量に減らしてほしいとお達しがあってこの一か月!君は……毎日、中華鍋を背負って研究室に来るようになった。

0:小丸の背後によく磨かれた中華鍋が光る。

高鷹:私が、植物たちを燃やそうとするたびに、そのデカい包丁片手に追いかけ回してくるだろう。中華か?君は中華が食いたいのか?!

小丸:え?!すごい!よく分かりますね!

高鷹:うるさい!その目をやめなさい!レストランにでも来ているような目を!

高鷹:まるで特売セール中の八百屋を見るかのように、この研究室を見るなぁ!

小丸:お言葉ですが教授!

小丸:特売どころの話ではありませんよ!ここで食人植物が食材となることが証明できれば、それはもうタダです!!!

高鷹:(奇声)……もう限界だ!好きにしてくれ!

小丸:わぁい!

0:小丸の執着心の勝利により、研究室に運び込まれる調理道具やガスコンロ。

小丸:よし!

高鷹:あー。私の研究室が、調理場に……。

小丸:さて、本日最初に調理していくのは、木之元くんのアキレス腱を食った例の種です。

高鷹:木之元のアキレス腱を食ったやつは、さすがに処分されたけどね。

小丸:気持ちだけでも弔い合戦です。美味しくいただきましょう!

高鷹:私は食べないよ?

小丸:え、いいんですか?私一人で食べちゃって!

高鷹:嬉しそうで何より……。

小丸:とりあえず、少量切り分けて茹でてみました。

0:ひと口大のソレを、口に運ぶ小丸。

小丸:(咀嚼)

高鷹:あ、味は……?

小丸:味は……。

小丸:無味ですね。極端に。

高鷹:なんだ、つまらん。

小丸:でも、食感は特徴的ですよ!さすがアキレス腱を好むだけあって繊維質というか……。

高鷹:うげぇ……。

小丸:……そうだなぁ。この食感、どこかで……。

高鷹:あ。やめなさい!それ以上は言うな!

小丸:そうだ!たけのこだ!

高鷹:……。

小丸:教授?

高鷹:……しばらくたけのこは食べない。

小丸:あ〜。とり出汁と水溶き片栗粉ありますか?餡でとじたら美味しそうかも〜。

高鷹:ある訳ないだろ。中華料理にするな。

小丸:買ってきて試してみましょうよ!

0:木之元のアキレス腱の仇は、中華餡となり小丸の腹におさまった。

小丸:あー美味しかった!次はどんな種ですか?

高鷹:こいつらは、茎を地面の下に隠して地面の低い部分に群生している種だな。そうして地面近くに潜むことで、土踏まずを主食としている。こいつらが分布する土地では、裸足で外を歩くのは厳禁だ。

小丸:なんだか、足元が集中的に好まれてませんか?美味しいんですかね?

高鷹:味なんか知らん。

高鷹:まぁ、食人植物も植物だからね。地面に近いところに多くの種が生息している。そこには足があり、そういった獲得しやすい餌を数多の種で取り合ってきた結果、足元の部位を好み現代まで生き残ってきた種は、繁殖しやすく生存力も高いとされている。

高鷹:つまり、我が研究室でも余りがちだ。

小丸:つまり、私の家計の救世主は彼らだと?

高鷹:……豆苗のような解釈をするな。

小丸:わー!教授も豆苗そだてたりするんですか!我が家でもかなり重宝してて……

高鷹:いいから食べなさい!

0:小丸、土踏まず食植物、完食。

小丸:アキレス腱、土踏まず、ふくらはぎ、すね……。足元系の食材はあらかた試しましたけど、やっぱり基本的に無味ですねぇ。出汁になるものと一緒に調理することになりそう。

小丸:足元以外を食べるやつ、余らせてませんか?そろそろ味気なくて。

高鷹:欲が出てきたね、君。

0:艶やかな赤い実を一粒持ち上げる高鷹。

高鷹:うん、それならこれはどうだろう。見た目もこれまでの種とは違うんじゃない?

小丸:本当だ!なんだか丸くて瑞々しそうな感じです。野菜よりも果物に印象が近いですね!

0:手渡された実のような食人植物をじっと見つめる小丸。

小丸:……なんだか、生でイケそうだな。

高鷹:……正気?

小丸:生食が可能ならガス代が浮くので!

高鷹:君、そんなに苦しいのか?!

小丸:いっただっきまーす!!!

高鷹:あっ。

小丸:うっ……。

高鷹:さすがにやばいか…?!吐き出すかい?気分に変化は?

小丸:う、うまーーーーーい!!!

高鷹:えっ。

小丸:うまいです!イケます!むしろ生食推奨です!

0:目を丸くする高鷹。

小丸:さっきまでのやつと全然違いますよ!甘みの中に旨味のような味わいもあって、見た目通り後味は瑞々しくて……。

小丸:足元シリーズじゃないなら、これはどの部位を与えて育った種なんですか?

高鷹:これはね……

小丸:あ!

0:時計の方に目をやり顔色を変える小丸。

高鷹:どうかした?

小丸:教授すいません、この種についてのお話は、また後日お聞かせください!私このあとバイトが入っておりまして……。

高鷹:これから?ずいぶん遅くなるんじゃないのか?

小丸:そうなんです!その分、夜勤シフトは手当てがつくので逃す手はないんです!

0:そう言いながら中華鍋を背負い、身支度を整える小丸。

高鷹:なぜそうも苦しいんだ……。

小丸:苦学生、ですから!それでは、本日は失礼します。戸締りしっかりとお願いしますね。我々には、この大学の人々の安全を守る、責任があるんですから!

高鷹:あー、はいはい。早くいっておいで。

0:あわただしく研究室を出ていく小丸を見送り一息つく高鷹。

高鷹:まったく……。

高鷹:くくく……あっははははは。

高鷹:そうかそうか、美味いのか。あれは。

0:窓際に歩み寄り、月明かりを浴びる赤い実をたわわに実らせた株を、愛おしそうに見つめる高鷹。

高鷹:どいつもこいつも、人工人肉なんぞという幻想を信じ切って……。あまつさえあの子は、食すという発想にまで至るとは。目の前のこいつらが、どこの誰とも知らない本物の人間を食らっていると、ほんのわずかでも疑わないのかねぇ。

高鷹:ははっ、人の血肉を糧にしたこの新緑たちは、美食たり得るのかぁ。

高鷹:またひとつ、思わぬ研究成果を得てしまったなぁ。

-END-

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