アフガニスタンで何が?(7) 【2002-2006年回想】 アフガン人の本気、国際社会の茶番

What has happened in Afghanistan? 2002-2006 Reminiscence

アフガン人の本気、国際社会の茶番

1.アフガン人は本気だった
2.重複投票はインクでは防げなかった
3.地方に行かなかった選挙監視団
4.軍閥の立候補は大きな汚点
 

1.アフガン人は本気だった
 11月3日、大統領選挙の結果が発表されました。カルザイ現移行政権大統領が55.4%の得票率を得て再任が決定したのです。次選のカヌーニ前教育大臣は16.4%で40%の開きがありました。カルザイの圧勝です。トップが過半数を得票したために、決戦投票の必要はなくなりました。
 今回の選挙はタリバーンやアル・カイーダの妨害が予想されていたために厳戒態勢のもとで行われました。また、選挙登録では少なく見積もっても100万人以上の重複登録が行われた事実が確認されていた上、投票日には軍閥や地方の武装したボスによる不正行為も懸念されていました。にもかかわらず、投票日は深刻な治安上の問題もなく、一部の不正はあったものの、結果を大きく左右するものではなく、選挙は成功だったと言われています。
 確かにアフガン人がこの選挙で示した熱意と勇気には並々ならぬものがありました。選挙当日ペシャワールで投票を見学し、スタッフからジャララバードでの報告を受けた私は、アフガンの人たちの、自分も国を作る過程に参加しているのだという熱気が伝わり、心に熱いものがこみ上げてきました。しかし、アフガン人が生命の危険まで犯して選挙にかけた本気に比べて、選挙をお膳立てした国際社会の茶番には目にあまるものがあります。

2.重複投票はインクでは防げなかった
 選挙で明らかになった多くの疑問の中で、投票当日に混乱を引き起こしたのが重複登録の問題でした。当初、選管当局(JEMB:Joint Electoral Management Body:国連と政府の合同機関)は、重複登録のことは知りつつも選挙で重複投票できないようにすれば問題はないと高を括っていたふしがあります。実際問題として、住民登録もなくIDカードさえ持ってない人が多いアフガニスタンで、重複登録を防止することは容易なことではありません。ましてや、選挙をもっと延期すべきだという国連やNGOの意見を押し切って、政治判断で決められた選挙予定日に間に合わせようと、JEBMは、信じられないようなスピードで登録人数を増やしていきました。6月から8月と治安が最も悪化した時期にです。選挙登録に関わる多くのアフガン人が殺されました。
 投票当日は、投票した者の左親指に特殊なインクをつけることで重複投票を防止できるはずでした。しかし、投票日にいくつかの投票所で普通のインクが使われていることが判明したのです。石鹸で洗えば落ちてしまうので、選挙票さえ複数持っていれば何度でも登録できます。アフガニスタンでは、パキスタンでの投票と違って、国内であればどこでも投票してもいいことになっているので、投票所に登録者名簿がないことも災いしました。立候補者のアハマッド・シャー・アハマッドジアとアブドゥール・サター・シラットがこの問題を激しく糾弾して選挙のやり直しを訴えました。この問題は瞬く間に波及し、カルザイを除く候補者全員が選挙をボイコットする事態にまで発展したのです。
 問題の糾明は選管当局に委ねられ、インク問題は選挙の結果に影響を及ぼさないということで不問にふされました。一方、選挙をボイコットした候補者も結局世論の批判を恐れてボイコットを取り下げました。文字通り命賭けで投票所に赴いたアフガン人にとって、この結果は不本意極まりないものです。そもそも選挙のやり直しなどできるはずがなかったのです。

3.地方に行かなかった選挙監視団
 この選挙の決定的な欠陥は、国際選挙監視が存在しないに等しい状態だったことにあります。派遣された国際監視団は総勢で150人にも達しませんでした(日本は5人)。それもカブールなどの安全な地域に限られていました。JEMBによって承認されたアフガン人の選挙監視グループと、同じく同機構の承認を得た28政党からのアフガン人監視員を入れても、国内の半分の地域しかカバーできませんでした。国連が設置した査察パネルは立候補者からのクレームに対応するのみで、監視員のいない地方の現実は把握する術も意志もなかったようです。
 各国各国際機関が国際監視員を派遣しなかった理由は治安の問題です。監視員の生命の危険が避けられない状況にあったからです。ここに今回の選挙の矛盾、あるいは茶番の実態が見えてきます。ARUE(アフガニスタン調査評価ユニット)のレポートはこの点を厳しく批判しています。国際監視員に危険な治安状況とは、投票に参加する一般のアフガン人の危険に他なりません。にもかかわらず、アメリカとアフガン現政権はNGOや国連の警告を押し切って選挙を強行しました。何がなんでもアメリカ大統領選の前に選挙を行い、成功の既成事実を作り上げるという政治的な意図が見て取れるのです。

4.軍閥の立候補は大きな汚点 
 選挙法の規定では、非公式の武装勢力を擁する者、それに所属するものの立候補を禁止しています。しかしカルザイ政権下の選挙委員会は、ウズベク人武装勢力(イスラム運動)の棟梁ドスタムとハザラ人武装勢力の領袖モハキークの立候補資格を認めてしまいました。8月2日に締め切られた選挙プロセスに対する不服申し立てでクレームが一番多かったのはこの件についてでした。カルザイによる政治的妥協の結果だと言われています。
 これだと、国会議員選挙や地方議会選挙でも、地方の武装勢力のボスは武装勢力と縁を切ったと自己申告すれば立候補できる理屈が通ってしまいます。国会下院選挙、上院議員を推薦する県・郡の選挙委員会、県・郡議会議員の選挙は、大統領選挙とは比較にならないほど地方における利害対立が反映します。脅迫、買収、粛清が私たちの見えないとことで横行するでしょう。軍閥の立候補を許したことは、アフガンの将来にぬぐいがたい汚点を残すことになることでしょう。

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