日産と三菱自動車の資本提携で浦和レッズに何が起きるのか(もしくは起きないのか)

Jリーグファンの間でここ数日話題になっているのが、「日産が三菱自動車に資本注入したことによって、浦和レッズが存続の危機!?」みたいな話。

まず先に言っておくと、この出資によって浦和レッズ自体が直ちに存亡の危機に立たされるということはないと考えるべきだ。ただし、そのあり方自体には何かしらの変化が生じる可能性がある、ということだ。簡単に自分で調べたり考えたりしたことを書いておきたい。

僕が見た限りでことのあらましが一番ちゃんと載っているのはサッカーダイジェストの記事。

【浦和】三菱マークが消える? レッズが直面する3つの問題を改めて整理するhttp://www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=15847

この記事をベースにしつつ、整理していきたい。

まず問題とされているのは、Jリーグ規約第25条「Jクラブの株主」の項第5項にある、「Jクラブは、直接たると間接たるとを問わず、他のJクラブまたは当該他のJクラブの重大な影響下にある法人の経営を支配しうるだけの株式(公益社団法人または特定非営利活動法人にあっては社員たる地位)を保有している者に対し、自クラブまたは自クラブの重大な影響下にあると判断される法人の経営を支配できるだけの株式(公益社団法人または特定非営利活動法人にあっては社員たる地位)を保有させてはならない。」という条項に抵触しそう、ということだ。

「三菱自動車に日産が資本注入して傘下に」というニュースの字面からストとなんか思いっきりクロっぽい感じはするけど、村井さんがそうなると言い切っていないのにはいくつか理由があると考えられる。一つは日産と三菱自の関係が親子会社みたいな所有の関係になるとは言われていない(むしろそうならなそう)、ということ。日産は三菱自動車の筆頭株主になるものの両者の発表では「戦略的アライアンスを締結」という表現にとどまっており、三菱自動車を日産の子会社にするというようなことは言っていない。そして出資比率の33.4%というのは絶妙なところで、日産としては持分法適用会社、というところで収めておきたいんだろう。なので、これが規約で禁止されている「間接的所有」に当たるかどうかを判断するには専門家による検討(と今後両社の関係が詳細に分かること)が必要なのだろう(50%以上の出資で子会社にするのであれば即アウトだ)。適時開示によると契約書を5月25日までに締結するということなので、その辺りに内容もいろいろわかるはず。

結果として抵触するという事態に至ったとしたら、何かしらの形で株主構成が変わることになる(どういう形になるのかは後述)。しかし、それですぐにクラブの経営がまずくなる、ということはない。理由としては、あくまでも株の譲渡であること、三菱自動車はいちスポンサーだけど最大スポンサーではないこと、浦和レッズは自活できる企業体であることの3点が挙げられる。というわけでサカダイの記事から引用。

まず踏まえておきたいのが、三菱自は浦和の筆頭株主ではあるものの、一般的に言われる「親会社」とは異なる。当初、浦和の株の保有者は三菱自1社だけだったが、二度の増資により現在は30社に割り当てられている。また、05年にはクラブと三菱自の損失補てん契約を解消している。

現在、クラブへの最大の出資者はリーグ戦の胸スポンサーの「ポラス」であり、なにより入場者収入は2位以下に倍以上の差をつける21億7400万円を計上。15年度は6年ぶりに営業収入60億円を超えている。

2005年(前に三菱自動車が経営危機になった時だw)に解消した損失補填契約とは何かというと、クラブチームが債務超過になってクラブライセンス制度に抵触してしまいそうになったりするのを親会社が(広告宣伝費などの手段で)お金を出して赤字解消させるよ、という契約だ。代表的なのは毎年決算で収支が0円になる大宮、数年前に損失補填された横浜や名古屋。浦和はそういうことがないために、あまり積極的(放漫)な経営をできない(他チームから批判される0円補強を予算規模の割に積極的に行っている点はここに端を発する)。その代わり、自社の売り上げだけで生きていける筋道をつけることができ、純資産(自己資本)も8億近くまで積み上がっている。公開されている経営情報を見ると、純資産比率は50%を超えており、結構経営状況は良好である(2009〜2011あたりは下り坂で辛かったんだけどね)。いずれにせよ「自活できるスポーツクラブ」であるということは超大事だし、ここを持って浦和レッズのファンの多くはこの問題について特に心配していない。この辺は今から10年くらい前にレッズの社長だった犬飼さんが主導したもの。犬飼さんによる「脱三菱」施策への支持は結構強く、その後に三菱自動車から天下りしてきた社長の体たらくからしても浦和レッズのファンの多くは三菱自動車との関係が切れるのは別に大したことないというかむしろダメな経営者を送り込んでこなくなって賛成という風に思っているんじゃないかな。というかそもそも三菱重工のサッカー部だったこともあって三菱「自動車」にはそんなに愛着ないかも。

そんでもって株の出資はスポンサー出資とは違い一度きり(その代わり会社の最高意思決定機関たる株主総会での議決権はあるのでそこを通じていろいろできるし、もし会社が解散するということになっても残余資産はもらえる)なので、現状三菱自動車から毎年レッズにわたっているお金は、スポンサーとしての少額(背中だから数千万クラス+看板・CM掲出でトータルでも1億はいかないと推察)にとどまる。それがなくなることで収入が減るため赤字になる可能性はあるにせよ、自己資本が吹き飛ぶようなレベルにはない。そんなわけで浦和レッズが佐藤工業撤退後のフリューゲルスのようになくなったりすることはないし、フジタ撤退後のベルマーレみたいに選手大量放出でしおしおになってしまうということもない、というわけだ。

とはいえ、この25条に抵触するということになったら、三菱自動車が浦和レッズの経営を支配できる割合の株式を持たないようにしなくてはいけない。現在の株主構成を見ると、1株5万円の株式が3,200株発行されていて、そのうちギリギリ過半数になる1,620株を三菱自動車が持っている。そうなると、「現在の三菱自動車を上回る量の株を誰かが持つ」「三菱自動車以外の誰かが三菱自動車所有の株を買い取る」の二者択一になる。

結論から言うと後者の「三菱自動車以外の誰かが三菱自動車所有の株を買う」しかない。前者の「現在の三菱自動車を上回る量の株を誰かが持つ」ためには第三者割当増資による株式の新規発行が必要だ。計算上は最低でも1,640株、その会社に過半数取らせるためには3,220株の発行が必要。しかし、浦和レッズの現在の発行可能株式総数は4,000しかないのだ(安かったので登記簿を取り寄せて確認した!)。そのためあと発行できるのは800株なのでこの発行可能株式総数を変更しなくてはいけない。しかし定款の変更など手続きが必要になるので(非上場企業とはいえ)結構時間がかかってしまうことになる。そうすると自ずと株を譲るしかない、ということになる。

ではどこが買うか、選択肢は4つ考えられる。
1:自社株買い
2:既存株主のどこか(というか三菱グループのどこか)
3:既存株主でないどこかの企業
4:市民で出資してソシオ制

自社株買いはできないことはない。しかし資産の減少につながるためあまり望ましくない。なので選択肢としてはあまり考えられない。

一番濃厚なのは2か。ただし三菱重工も三菱電機も足元の経営状況が良くない。そのため三菱地所どうよ?みたいな話がサポーター間で話されている。お前ら!オーロラビジョンに桜庭ななみのCMが映ること期待してるだけだろ!賛成〜。三菱商事は他のクラブにも出資してる都合上出てきづらいかな。

既存株主でないどこかの企業だが、まあどこかしら手を上げる可能性はある。ただ非公開株だし、登記簿謄本によると取締役会の承認なしには株式の売買はできないという制約がつけられているので、その企業がどうしたいというビジョンなどを見極めるプロセスが必要になる。なので赤くなくなるとかそういうことが直ちに起きるということはないというかそういうところに株は譲らないだろう。なので今スポンサーしてる非株主企業さんとかどうよみたいな。

4のソシオ制はバルセロナで採用されている仕組みで、市民の共同出資団体でクラブの株を持って運営、という仕組み。FC東京のシーズンチケットがSOCIOカードという名前になっているが、これは株主資本への出資ではないので別物。かつて横浜FCでソシオ制をやろうとしたんだけど、結果断念している。これは正直面白い話ではあるけどうまく立ち行かせるには相当上手な舵取りが求められる。例えば8,000万円を集めるだけなら1万人×1万円もしくは2万円×5,000人というプランで1億円集まるできる(それが可能なだけのサポーター基盤はある)。しかし共同出資団体で株主になったとして、その意思決定をどうするか。株主総会でソシオの代表が投じた票が個々の出資者の意見の反映になってないケースも多々生じると思われるので、その辺は出資時に完全委任させるなり、ソシオ自体がクラブに異議を唱えない(ただしTalk On Togetherみたいな公開討議会をやることで補完するとか)なんていう形で仕組みの工夫が求められるところ。

個人的には4のソシオ制をとるなら出資したるって感じだけど2に落ち着きそうなところ。まあまずはそもそも今回の企業提携が規約違反に該当するかがわかってからなので専門家に委ねるしかないですな。

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