相談支援の処「法」箋ー本を上梓することになりましてー
本を上梓することになりました。
司法研修所の民勉教官の「餞別の教え」が、「可及的速やかに書籍を上梓せよ」でした。文章を書くことが三度の飯よりも大好きな私なので、そのミッションはさっさとクリアすると思っていました。たしかに、雀の涙の分担執筆をしているような共著本はけっこうあるのですが、単著となるとなかなか機会に恵まれません。民弁教官がおっしゃっていたのは、「共著でも可」ということだったんだろうか… 単著、ということであれば、ちょっと予想外に10年以上かかってしまいましたが、書き上げることができました。
仮に私が本を出すのであれば、処女作はたぶん「自分語り系」だと思っていたのですが、まさかの実務書です。たぶん、実務書です。実務書のつもりで書いています。しかし、私は基本的に「情に熱く、理に弱い(by大学の恩師)」ので、実務書は一番書いたらアカンやつです。
それでも、「市役所に入ってから自分が経験した法律相談をまとめて外部に発信したい」という思いは、入庁してから大なり小なりずっと持ち続けていました。ここを訪れる人、私に来る法律相談、どれも、在野のポジションでは見えなかった世界からの相談だったから。そして、在野のままではきっと知らなかった世界だから。そして、私一人が知っていても、きっと必要な人に法的解決は届かないから。
しかし、繰り返しますが、「情に熱く、理に弱い」ので、ツッコミどころ満載なのではないか、と思います。というのも、全10ケースそれなりに文献等を調べながら書きましたが、いずれも先行研究らしきものがあまりなかったように思いました。ぶっちゃけ、すべての章で2~3万字の学術論文が書けそうなくらいの気分でした。なので、「おい、お前そこおかしい」と思った方は、研究会か何かにぜひ誘ってほしいです。。
何の本なのか
帯にも書いてもらいましたが、この本のコンセプトは、
断らない相談支援ーこの無茶ぶりに備えるために
これに尽きます。
「断らない相談支援」は、どんな困りごとも断らずにいったん受け止めることが至上命題とされています。すると、「困りごと」の中には法律問題が一定割合で含まれます。でも、福祉専門職にとって、困りごとの中で「離婚したい」だの「親が死んで家をどうしたらいいかわからない(相続)」だのと急に言われても、どこへどうつないだらいいのかわからないように見えたのです。そして、どうしたらいいかわからないので、その課題を「そっ閉じ」して・・・しまわん?
そういう、「どうしたらいいかわからん」を少しでも解消できれば、と思って書き上げたのが本書です。
このコンセプトなのだから、これまでに出版されてきた児童相談所内弁護士の実務書や、スクールロイヤーの実務書などと似たようなものができるはずだったのですが、書いているうちにそうした既刊本とだいぶテイストの違うものができ上ってしまいました。
というか、本書を「書こう」となった直後に、ベストセラー書籍「こども六法」が出版されました。その後、「おとめ六法」「シニア六法」「おっさん六法」などなど、「○○六法」がたくさん出版されました。どれも、一般の方に法律をわかりやすく伝える本です。そこで私は、いっとき真面目に、この本のタイトルを「ふくし六法」にしてやろうかと思ったくらいです。ところが、出来上がって改めて読んでみると、いや、これもなんか違う感じに仕上がってしまいました。
・・・なんでだろう・・・ どう違うのかは、本屋で手に取ってみてください。
対象読者
① 福祉専門職
さて、タイトルからわかる通り、本書のメインターゲットは福祉専門職です。私の持つすべての力を全開にして、多少の正確さを犠牲にしながら、とにかく「わかりやすさ」を究極まで追求しました。法律も福祉も専門ではない担当者に壁打ちの「壁」になってもらい、わかりにくいところは徹底的に指摘していただいて、(平たく言うと)がんばりました。チラシができてからちょいちょい宣伝していると、在宅薬剤師さんだったりケアマネージャーさんからも、興味を示していただけています。ひょっとしたら、訪問看護師さんとかも、興味のある人がいるかもしれません。人の家におじゃまする職業であれば、大なり小なりこういったことに接しますものねぇ。というわけで、まずは、断らない相談支援を担う相談支援の現場職員の皆さまのニーズに応えられていればな、と思います。
② 自治体職員
断らない相談支援もそうですが、社会福祉法や生活困窮者自立支援法などに従い、地域福祉のデザインを描くのは、自治体の福祉系部署の職員です。そしてそれは、ケースワークの一つひとつから課題を抽出し、施策化していくメゾ、あるいはマクロレベルのソーシャルワークが求められます。最近は、成年後見制度利用促進法に基づいて中核機関を作れと言われてみたり、障害者差別解消法が改正されて自治体で差別解消に関する取組をしろと言われたり、これまで取り扱ったことがないようなテーマを、市町村レベルで施策化することが求められることがたくさんです。国のポンチ絵をいくら眺めてもよくわからないところ、そうした施策を地域住民のニーズから再構成し、「なぜそれが必要なのか」「それを成功させるとどんないいことがあるのか」という視点から「自治体ワンポイント」というコラムでちょいちょい挟んでいます。
③ 法律家
正直、法律家はそれほどターゲットにしていないんですが・・・ そのわりに、大阪高裁ブックセンターに置かれる、という話を聞いてめちゃくちゃうろたえているんですが・・・
もし、何かの間違いで本書を手に取ってしまった法律家がおられたら、まず、大目に見てください。広い心が大事です。というのも、先行研究があんまりないなー、ということもそうなのですが、あくまで福祉専門職に日々のケースワークの中で「これは法律問題ではないか」と気づいてもらうこと、そして気づいたらて、適当なタイミングで法律家につないでもらうことに注力しています。このため、「普通、ここはもっと細かく説明するんじゃない?」「ここからが大事なのになぜここで説明を止めた!?」という寸止め感あふれる記載がたぶんたくさんあります。でもそれは、私がアホで理解していないからではなく(いや、その可能性も多分にあるけれど)、詳しくしすぎて「わかんねー」となって、本書を途中で閉じてしまわれることを防ぐため、あえてやっていることだったりします。
いうても「本」なので、きっと方々から怒られるんだろうな、と怖くてしかたありませんが、もしよろしければお手に取っていただけると幸いです。
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