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8年前の世界からこんにちは

「浦島太郎」感がすごい

公務員を辞めて、法律事務所に移籍してそろそろ半年になります。
今回の移籍は、手持ち事件がゼロで立ち上げる点で通常の独立とは異なり、退職金があるわけではないので公務員の早期退職とも異なります。要は、思ってたよりシビアだ・・・ということ。任官10年前後で裁判官や検察官を辞めて弁護士へ転身する人と状況的には近いと思うんですが、ああいう方々はどうやって開業当初の数年間を過ごしておられるのか、急に興味がわいてきました。
また、私の体調はステロイドを足せばよい、というものではなかったようで、慣れない環境下では、1日座っているだけで翌朝大変なめまいで起き上がれなくなり、5月6月はそんなこんなで大変でした。思ってた以上に仕事にならない身体だったのは大きな誤算でした。ただ、なぜか8月になってくると、常時低空飛行ではあるものの、1日中嘔吐をし続けるような大崩しはしなくなってきたので、これは慣れたということなのかもしれません。でも、主治医は、血液検査のたびに、「これ、休職してた人間が復職をしてもいいかどうか相談するレベルだけどね」と引き気味です。私もドン引きです。

さて、普通の「弁護士」から公務員になった時には、「世の中にはこんな世界があるのか」と驚きの連続でした。世の中に対して、見る視点が変わることで、今まで自分がいた世界がどれだけ狭かったか、とりわけ、傍から見ていたら明らかに解決可能な法的課題を抱えていても、それをどうにかしようと思う人がほとんどいないことに驚き、頭を抱え、そして諦めました… この動揺は公務員にならないと、どれだけ言葉を尽くしてもわからないだろう衝撃でした。
でも、今回また公務員から「弁護士」へ戻ってみたところ、前回ほどではないにしても、驚くことが多いです。退屈しない人生です。つまるところ、思いのほかこの8年あまりの間の変化が大きいということなのでしょう。そこで、恥も外聞もなく、「あんた、いつの時代の人や!?」というツッコミよろしく、8年の時間の重みを味わっていただければと思います。

裁判所に行かなくていい

いや、ね、私も配偶者が「弁護士」だから、どうやらIT化の波が押し寄せてることは知っていたよ? でも、こんなに裁判所に行かなくて良くなっているとは知らなかったよ。なにやら大規模庁では「Teams使って裁判やる」とは聞いていたけれど、このへんは支部管轄だしまだ関係ないっしょ。Teams使うったってどうせ弁論準備だけで、まさか第1回からWeb指定とかないでしょ。
と、本気で思っていました。
ところが、すでにすべての地裁民事がTeams対応になっていることや、Teams対応になっていない家事の場合は、Webではなく電話で期日が開かれることなどは想定していませんでした。なので現在進行形で申立てる手続すべてにおいて、「こ、これは裁判所へ行くのか?行かないのか?」とドキドキしています。
先日弁護士の懇親会でそういう趣旨の話をしたらドン引きされました。ITオンチの配偶者でさえ、Teamsには事件がぎっしり入っていて期日を飛ばさずに仕事ができているところを見ると、ちょっと退職前に想定していた以上の浸透っぷりです。
「全国的にTeams移行するときに全員で四苦八苦する」段階はとうに越えているとすれば、新たにTeamsに初接続する弁護士って、新規登録弁護士(きっと姉弁兄弁とか事務員に懇切丁寧に教えてもらえるんだろうなぁ)くらいなので、10年選手の弁護士がいまさら「Teamsつないだことないんですけど」と書記官室に電話かければ怪訝な顔をされて当然です。

私、これでもまだ市役所の弁護士職員の中ではITに強い方を自負していたのに、このありさまはだいぶ想定外でした。
ただ、「市役所を辞めた方がいいかもしれない」と思った理由のひとつが、司法界のIT化についていけなくなってしまうのではないかという危機感だったのもたしかです。さすがに市役所でもzoomくらいは使用していますが、基本的にインターネットに自由に接続できる環境にない(原則としてLGWANという、地方公共団体専用の組織内ネットワークで仕事をしている)ので、利用するのが重い重い。私が最後に所属していた部署でzoomを利用しようとすると、①専用PCを事前予約、②専用ポケットWi-Fiを事前予約、③接続する部屋を予約、④ポケットWi-Fiが予約できなかったら、配電盤から何十メートルもの長さのLANケーブルを部屋までひっぱる、という恐ろしい手順を踏んでいました。
こうした有様のネット環境で、すでに始まっているTeamsに対応しきれるとも思えないし、だいたいTeamsは使ったことがないし、しかもそのうち訴状から準備書面からオンライン提出になる、と言われると、「今ならまだオンライン化についていける柔軟性が残っているはずだ。まだ間に合う。」と思ったのでした。

誰が誰だかわからない

アホかと思われるかもしれませんが、長く市役所外の弁護士と接触する機会がなさすぎて、弁護士を見るたびにほんっとうに誰が誰だかわからないことが増えました。MLはそれなりにチェックしているので「名前」の存在は把握していますが、全員「ML上の存在」なんやって!
まず市役所に篭る前に出会っていた先生。この先生方の場合、8年経っていれば人相がそれなりに変わっておられる場合があります。よく駅とかで見かける指名手配写真があるじゃないですか。あれって犯行当時の写真が古すぎると、これまたAIによる「現在の容貌(予想)」写真が隣に並んでいたりして、全然違う顔になっていますよね。あれと一緒です。8年たつとしわの深さとか白髪の量とか奥行きとか使っているファンデーションとか、けっこう違うんですよ、ご自身気づいていませんけど!
次に市役所に入ってから登録された先生。この先生方は、よほど数奇なご縁でもない限り、その存在を認識することはありません。インハウスは弁護士会の会務に参加することが(自分の有休を犠牲にしない限り)ほぼ不可能なので、出会いの場がないのです。
そうすると、懇親会や研修にちょう久しぶりに参加すると、みなさんたいへん久しぶりな感じで話しかけていただけるのですが、毎回毎回、「全当職この人誰だっけ選手権」が始まります。春先は「移籍したので~」と言い訳をしながら名刺を渡せましたが、そろそろ半年たってその手も使いづらくなってきたところ。顔を合わせ、話しかけられてから、
「この人は、この人は、名前出てこないけど名刺を渡してはいけない人な気がするっ・・・!」
という野生の勘を働かせ、必死に会話を追いながら、頭の中の引き出しを、まるで空き巣に入った窃盗犯のようにひっくり返しています。8年分の新規登録弁護士と他会から移籍して来られた先生とを全部フォローするのは大変なんだよっ! しかも弁護士って、zoomで会議したら画面オフにするでしょ。アレのせいで本気でお顔がわかりません。
そこへ、「なんか市役所から出てきた弁護士おるで」ということで私は覚えてもらいやすいものだから、「片面的知りあい」ばっかりになってきました。これを読んだ先生方は、優しくそっと声をかけてください。。

法テラス

本気で「法テラスと契約を切った」「法テラスでは受けられない」とおっしゃる先生が増えたように思います。
8年前はそういう弁護士は都市伝説のレベルでしたが、今はそれほど珍しくないと感じます。公務員をしていたころも、「受けてもらいづらさ」は感じていましたが、移籍して「弁護士」として雑談する中で感じる「弁護士」側の感覚は、公務員の時に感じていたそれよりもはるかに大きいです。
特に、DVケースについては、DVの専門性が高い事務所ほど法テラスでは受けられないと言わがちのようです。そしてきちんと仕事をしている婦人相談員であればすでにこの傾向を感じていて、連携する際も法テラス契約が可能であるかどうかをまず確認されるようになりました。そうすると、私が弁護士会の電話相談で遠方のDVの相談を聞いた時に、「どこの事務所でも法テラスがあるから大丈夫!」とは言えないので、「もし可能であれば、まとまったお金を支払う覚悟でいた方が受任してもらいやすくなる」と案内するしかありません。
しかし、こんなことをしていたら全国的に配偶者暴力施策に悪影響を及ぼすのではないかと心配になるレベルです。
一方で、DV以外の部署だと、法テラスを困窮者支援制度と認識しておらず、「弁護士費用のローン制度」程度の理解の職員もいることから、最近の研修では、この点ちゃんと説明をするようにしています。

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