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映画『君たちはどう生きるか』感想

(このnoteは7/15に作成され、7/30に公開されました)

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いや~~~良かったね。
正直こんなに良いとは思ってなかった。
映画館で実際に涙を零して泣いたの初めてかもしんない。下の世界の崩壊と、ラストのお父さんが駆け寄ってくるところで2回もボロボロ泣いてしまった。
自分でも正直なんで泣いたのかあんまり分かってないんだけど。劇伴の久石譲がすごいだけかも。

Twitterで期せずして目にしてしまったネタバレ(ほんと最悪)の中に「宮崎駿オタクにはオススメだけど、一般向けかと言われると…」という感想があったので、自分があまり好きではない“映像美”という言葉を追求したようなストーリー性の薄い映画を想像しながらも足を運んだんだけど。結果として、個人的にはそのネタバレはあまり的を射ていないと思った。
井上俊之さん等のアニメーターが参加していることもあってか似ている映画として『パプリカ』を挙げている人もいたけど、映像だけならまだしも作品全体としてはあまり適切な例えじゃないと思う。
モラトリアムに生きる少年というテーマをファンタジーに落とし込んでここまでポップに描けるのはすごいだろ、十二分に一般向けだと思うよ。それこそ今からをどう生きるか決めるティーンたちに是非見てほしいなと思ったし、きっと監督が想定しているターゲット層もそのつもりなんだろう。

もう一つ、このツイートを見かけていたんだけど逆にこれは知っておいて良かったなと思った。
早い段階で、あぁこれは半自伝的な物語なのだなと察せられたし、何より当初の眞人が他者との繋がりに欠けることについても納得がいったので。

この物語は、母親の不幸によって十分な母性に触れられなかった少年が、小説『君たちはどう生きるか』を読んでから他者との関わり合いによってアイデンティティを獲得していくモラトリアム期を、精神世界の旅に見立てて2時間のファンタジー映像に起こした作品だ。
愛する母との離別という形であたかも失くしてしまったかのように見えた現実世界での自分を、ファンタジーを通ることで取り戻していくための物語。そしておそらく若き日の宮崎駿少年自身も、実際にはこれをアニメ制作という手法で成し遂げていったんじゃないかと。
没頭できる別世界を用意できたからこそ、さながら『地球儀』を回す少年のように現実世界をもまた俯瞰で見ることができるようになったのだ。

上の世界では母を亡くし、転居によって友達も失くし、継母によって自宅での居場所まで失くし、ただ広大な家で待つことしかできない一子供の眞人だった。
しかしながら下の世界ではキリコやヒミ、青鷺らと触れ合うことで、船を動かしたりインコと戦ったりといった能動的なアクションを取れるようになった、というのは綺麗な対比だなと。

これはアニメのパワーを信じた作品であるとも思うんよね。
上の世界(現実)でそういった何らかの不幸によってアイデンティティの欠けが起こったとしても、下の世界(創作物)に浸かりに来てもいいんだよっていう。ただ、最後にはきちんと上の世界にお帰りなさいね、たまには石ぐらいのお土産なら持って帰ってもいいから、という。
そういう意味でも、最初に書いたように今を生きるティーンたちに届いてほしい作品だな、と思った。




【以下、箇条書きの感想】

・宮崎駿、アニメ作りが上手ぇ~~~~~というバカみたいな感想に尽きるな。
池のそばで眞人が倒れる→力を抜いて池に沈むような心象風景→そのままベッドの上で看病されているシーン…みたいなシームレスな場面転換とか、
下の世界でキリコと暮らすことになった時に人形と化した従者のおばあちゃんたちが出てきた時、揺らめく炎に当てられることでまるで命が吹き込まれているような表現があったりとか。

・キムタクやっぱすげーわ。声も良いし演技も上手いしちょっとコミカルな場面の引き出しまであるし。これが歌も芝居もお笑いもできる最強国民的アイドルSMAPよ。

・それに比べて、あいみょんどうした…?っていうのがやっぱ鼻についてしまうのよな。ヒミというキャラクター的にちょっと冷淡というか感情を抑えめにしてるのかとも思ったけど、「待って!」みたいな強い呼びかけができる場面では普通に気にならないぐらいの演技は出してくれるので、単純に感情を引き出すダイヤルの目盛りが極端に少ないんだなっていう結論になってしまう。この作品にこの程度の声が出ることに関してOK出して本当に良かったんか…??
どういう考えの元でオファー出したのか、ちゃんとしたインタビューでしっかり聞いてみたいわよ

・下の世界に向かうための森の入り口、完全にトトロやん!とウキウキになってしまった。正直あんまりジブリを通ってきたわけではないから、たぶんこういうイースターエッグがもっとたくさんあるんだろうなー、と思いながら観ていた。ジブリオタクは嬉しかろうな

・「下の世界は新たな命(わらわら)が育って上の世界に行く準備をする場所である」という場面と「下の世界のことを“地獄”と呼称する」という場面が近しいタイミングで出てきて、それぞれの描写に納得するとともにそれらがいずれも「下の世界」という言葉で繋がることにちょっと驚きがあった。宮崎駿には下の世界がそう見えているんだ、と。

・眞人父に漂う“イヤさ”について。
奥さん亡くした後の後妻がその妹ってそれは流石に!?みたいな部分はありつつも、個人的にはわりと肯定的に捉えている。
というのも、ああして生きなければいけなかった時代だったというのはあるんだろうなと思って。
おそらくだけど、監督としては別に眞人父を反面教師とさせて最近流行りの(?)ジェンダー論がどうの、などと語りたいわけではないと思う。
男がきちんと「男」としての役割を果たさなければ、という想いの強さの表れとして受け取ったので、自分は好きよ。
実母に先立たれ住処も変わってしまった眞人にとっては父だけが頼れる最後の存在であることは間違いない。眞人は父に対して確かなイヤさを感じつつも、あくまで家から出たいわけでも上の世界に戻りたくないわけでもなかった。眞人父もまた、息子の危機とあらば武器を手に取り未知のインコ軍団と戦うだけの家族愛を持ち合わせていた。
それを踏まえて、眞人父の役どころもバランス感覚を失って露悪的になりすぎてしまうと途端に上の世界の見え方やその後のストーリーまで変わってきてしまうから、あの脚本は絶妙なライン取りだったな~と。そしてそれを実際に表現できるキムタクの演技力よ。




最後に、フォロワーのツイートを一つ紹介して終わりたい。
7/15の日中に映画を観終わった後、劇中の内容を反芻しながら昨日見たつぶやきのことを思い出していた。

ベスト・オブ・君生きツイートに認定いたします。この人まだ何も観てないけど。

本当にめちゃくちゃ良いツイートだなと思う。
きっとまだ全く内容は知らないだろうに、たぶん宮崎駿がこの映画でやってほしいと思っているであろうことをやろうとしていて、とっても嬉しい気持ちになっちゃった。
5歳にモラトリアムが云々と言うのは流石にまだちょっと早いかもしれないけど、それでもこの映画を家族3人で観たっていう記憶はきっと残ってくれるよね。

こうしてこの作品が、これからの今を生きる少年少女たちの心に少しでも残って、それが何かの支えになってくれますように、と願うばかり。


(7/16追記)

😊

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