#003 スライドブルー

スムルースはいろんな色を歌う。例えば、「冬色ガール」「バラ色ダンス」や「虹色の予感」、「休日シンデレラ」の色遣いも素晴らしい。形や言葉にとどまらないものに、彩りを添えたような曲がたくさんある。

今回の色はブルー。青春の青だろうか。気持ちの青だろうか。「スライドブルー」で歌ったのは、映画みたいな出来事。恋、それも失恋だ。ああ、甘酸っぱい。

例えば「青春の1ページ」と表現するように、思い出は1つの出来事としてまとめてしまいがちだが、スムルースはその出来事、今回なら失恋の心の機微を、丁寧かつ泥臭くかつキラキラと描く。そしてそれを、一編の映画のように仕立て上げるのだから、ほんとにくい。

スムルースの曲の核にあるのは徳田さんの歌詞。
徳田さんは、情景の切り取り方が素晴らしい。それも主観的なのがいい。曲を通して、主人公に見えている景色や、景色が色を失っていく様子も想像ができてしまう。気持ちの持っていきようのなさ、前向きになれない切なさにも共感ができる。

まずはAメロの歌詞で心掴まれる。

(1番Aメロ) ドラマチックをまさにかき消す スローモーション 突き刺さって 君の言葉に絶景は揺らぐ  からっぽになって水面に沈む 曇り空逆さに移って 君の姿を風がさらってゆく
(2番Aメロ) 沈黙ぼかす電車は遠く 向かう結末とためらいは マーブルみたいに馴染みはしない  飲み干す缶コーヒー苦い顔 君は空気を湿らせて 愛しいほどに息をつまむ

こんな言い方できるのかとため息が出る。しかもフレーズのはじめはメロディの抑揚があんまりなくて、同じ音が続く。でも単調にさせない周りのサウンド。
続いて、4小節ほどのBメロは、曲の中で唯一客観的なところ。君の前での僕はあくまで、かっこよくいたい。メロディの裏で歌っているベースもとてもいい。

(サビ) めぐるめぐる恋のスライド つのるつのる君の影 言葉にできない思いがぐるり重なってゆく 今は君のそばでいたいよ ブルーに染まり暮れてゆく 空に吸われし恋の日々

サビのメロディは、驚くことに4音しか使っていない。4音を行ったり来たりしている。思うに、主人公はどこにもいかない、いけないんだと思う。
あのときも君がいた、とか、そういえばあれは君のおかげだった、、とか、あの時の君と僕に思いをめぐらしている主人公は、"失ってから気付く"の最中にいる。

なのに、景色がグレーじゃなくて、ブルーすぎずカラフルという、スムルマジックに脱帽せざるを得ない。ベースがぐねぐねしていたり、ドキッとさせたり、ギターが音を繰り返したり、気持ちを掻き立てたり、と、この映画を彩っていく。

そして、Cメロからラストサビに向かっての自意識爆発な表現は最高だ。語りまくる歌詞をそっと支えてるかと思いきや、めちゃくちゃ追い上げてくるベース、ガンガンメイクアップしてくるギター、この映画こそ最高傑作ともいわんばかりのそのバランスがとっても良くて、とってもスムルース。

この曲はただ悲しんでいるんじゃなくて、どこかその思い出に酔っているところもある。映画をみているのは他でもない、自分自身だけ。恋をしてる時はなぜか主人公気取りで、そんな自分も嫌いじゃない、みたいな人間臭さも感じる。

人間臭いというか青臭いというか、その臭さこそがスムルースの良いところ。クールさだけなら都会のバンドに任せといたらいい。スムルースは、北摂のミスチル(徳田さん談)だから。

でも、私は、彼らのことを本当にかっこいいと思っていて、本当に大好きで、自分の人生を語るのに欠かせない存在だと思っている。

これを書くにあたって、久しぶりにスライドブルーのシングルをきいてみたら、2曲目の「ヒマワリサン(続編)」にたまげた。最初こんな曲あったっけ?と思ったら、陽だまり感たっぷりで沁みた。沁みすぎた。そして、伝説の「スムルの徳田です」も入っている、名盤なのだ。
今やサブスクの時代、シングルCDを聞くことは正直ほとんどないけど、それがなかったことになってしまうのはもったいない。CD持っている人は改めて聞いてみてほしい。


スムルースが活動再開をした。
待っていた分の期待と不安。好きでいるってなんなんだろうと、思春期みたいに悩んだりもした。どうも、スムルースのことを考えると、高校生くらいの自分に戻ってしまうらしい。でも、今だから思うこともある。
長い間この交換日記をとめてしまっていたけれど、また少しずつ書いていこうと思う。お付き合いいただける方がいたら、どうぞよろしくお願いします。

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