同じ空の下で

 大学生の頃下宿させてもらっていたわたしのおばあちゃんは、毎晩お月さまをみていた。同じお月さまをみている、とある大切な人に想いを馳せるのだ。わたしは毎晩、帰り道に見た月のかたちをおばあちゃんに報告して、特別にきれいな日は喜んで、一緒に夜風にあたりながら月をみたものだ。
 ちいさな子どもたちと家にいると、しばしば途方もない孤独を感じる日がある。たまらなくなって、遠方の母に電話をした日、母は「すぐに駆けつけられなくてごめんね。でも、だいじょうぶだよ。同じ空でつながっているんだよ」と声をかけてくれた。それは優しいおまじないのようにわたしの心をあたたかくしてくれた。
 大人になったら、さみしいとか、心細いって泣いたりすることってないのかと思っていた。でも、それができたとき、わたしは今までよりもお母さんと深く繋がることができた気がした。
 この前も夫の前で泣いた。一緒に仕事ができなくて、本当にどうしようもなくさみしいんだ、やりきれない。でも子どもたちは何より大切にしたいんだと、しくしく泣いた時、夫はそんなわたしのありのままを深く受け入れて、愛してくれていることにやっと気がついた。
 苦しくなったらちいさな家の中から出て、どこまでも広い広い空を見上げたら、わたしの大切な人といつも同じ空で繋がっている。だいじょうぶだ。ひとりじゃない。家族も、親友も、ご近所さんも、町で出逢うあたたかな人たちも、大好きなお客さまたちも。「上を向いて歩こう」の歌を冬の夜空の匂いで思い出した。今夜もじぶんを励ますように、わたしはことばを紡いでいる。


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