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速記学習 体験的研究ノート

某OBから「書いてください」と圧力を受けたので書きます。自分語り100パーセントです。

わたしは2023年に早稲田大学に入学してから邦文速記研究会に入り、速記を始めて、1年の8月に4級、11月に2級をとりました。じぶんで言うのもなんですが、それなりに早い成長速度だとは思うので、そこまでいった過程を書き記してみます。ただ、結論としては「練習量をたっぷりとると速度も伸びる」「練習量をたっぷりとるためには同期の存在が必要」というだけです。

前半は早稲田邦文速記研究会以外のひとでも読めるよう説明を追加していますが、後半から省略の情報が増え、あまり外部の人向けとは言えない文章になっています。目次をつけますので、読みたいところだけ読んでいただけたら幸いです。

-速記を知ったきっかけ

わたしは速記というものを小学六年生か中学一年生か、ともかく速研内では割と幼めの時期に、YouTubeのおすすめ経由で知りました。なんでもかんでも自分でやりたくなるたちだったので、知ってすぐに「速記が書ける」という早稲田式の本を近所の図書館で借りて、速記士になるぞ!という気持ちで本を開いたものの、あとはお察しです。
そこから速記は忘れかけていたのですが、大学受験で早稲田を志望し合格してから、早稲田にせっかく入るなら速記をまたやろうと思いました。速研に入る決意はかなり堅かったので、新歓ブースに行って新歓グルに入れられたその日の夜、入会する旨をつたえました。そのため、実は既習組をのぞけば新入生最古参です。
しかし新歓時期はやはり忙しく、次にサークルに参加したのは4月19日、新入生説明会のときでした。

当時のツイート

-基本文字〜文章練に入る

速研の新入生説明会でわたしは、自分が左利きであるという恐ろしいディスアドバンテージを知ることになります。

もしあなたが右利きならば、一度文章をアラビア語のように右から左に、すばやく書いてみてください。慣れてないのもあるとは思いますが、左から右の流れに比べて圧倒的に遅いのではないでしょうか。押すように書いて進むと、どうしても流れる運筆がかなわず、速度が落ちます。

そこで、速記では「速記文字をすべて左右反転させる」という策をとってこの問題を解決するのです。早稲田速研にはまだ左右反転されたサブテキストが用意されておらず(いずれわたしが作ります)、わたしは右利き用サブテキストとにらめっこしながら基本文字を覚える必要がありました。

カ行・ナ行・マ行は横向きの直線で、左右反転が難しくないので馴染みやすかった代わりに、サ行・タ行・ハ行・ヤ行・ラ行はもう、敵でした。周りはナ行・マ行が苦手、という人が多かったので、この点は左利き・右利き学習者の大きな差分だと勝手に思っています。

また、サブテキストには基本文字を覚えるためのこじつけ図があります。

こじつけ図

当たり前ですが、左利きはこの図を使えません。今見たら本当にこじつけが過ぎるので、この図が使えないところでなんの問題もないような気がしますが、入会当初のわたしにとっては大問題でした。ずっと右利きが羨ましかったです。

拗音も一緒で、おそらく右利きが混じりがちなキャ行・シャ行は反転が簡単なのでわたしにとって壁は薄かったです。ヒャ行が一番難しくて、文章練に入って指摘されるまで間違った書き方をしていました。

上が左利きのヒョ、下はわたしがずっと書いていたヒョです。「表現」ということばが書きづらすぎて、毎回泣きながら筆を反対方向に動かしていました。

助詞と文末表現は特に壁もなく、すいすい進めました。強いていうならば、わたしは「ことです」の「です」をずっと右利きの向きで覚えてしまっていますが、無理に矯正する必要がある速字ではないので今でも放っておいています。

わたしは新入生説明会でもらったサブテキを翌日になくして以来、練習に参加するのが気まずく、4月は18日の新入生説明会しかサークルに行っていません。5月は勇気をだして参加しようと思ったものの、5限が空いている曜日も少なかったので、5月の参加日も19日と26日だけでした。(カレンダー上だけなので、実際はもう少しあったかもしれません)とにかくこの2ヶ月では、ぎりぎり拗音を覚えたか覚えていないかくらいのところまでしか進みませんでした。ほかのサークルが楽しく、じぶんは速研はフェードアウトしそうだな、とさえ思っていました。
今になって言われますが、同期・先輩も同じことを思っていたようです。「松川さんは速研をすぐにやめると思ってた」何回も言われた言葉です。

転機が訪れたのは春季関東学生速記競技大会、いわゆる春関です。大会前には1週間、4限・5限・6限の300分(!)練習が行われますので、時間割が合わなくてもたいてい毎日練習に参加できます。さらに、幹事長から「分速40なら一週間で書けるようになるから大会に出よう」という圧も受けて、目下の課題は「大会で文章を書き取れるようになる」ということに相成りました。
一週間の前半で文末表現までいれて、大会前日か前々日にようやっと文章練に入りました。ただ、まっっっっったく書き取れませんでした。40でも間に合わなかったです。まわりの新入生が全員40をすいすい書き取っている中、わたしは飛び飛びでした。じぶんが左利きだから、とか、前日課題をやっていて寝不足だったから(春関シーズンは中間シーズンなので)という言い訳はぽこぽこ思いつきましたが、じぶんは速記に向いてないとも思ったし、幹事長の言葉にのって大会に参加する判断をしたことを激しく後悔しました。


あまりの悔しさから自主練習しようと思ったところ、速研ドライブから練習用朗読音声にアクセスできることを教えてもらい、翌日、春関がある日の午前中、暇を見つけて頑張って速記の練習をしてました。電車のコンパートメント席の窓際で、窓のへりの狭いスペースに原文帳をおいて、4つしかない400の音声をローテーションで書きました。
(余談なのですが、このときは春関=ゆるゆる部内試合だと思っていたので、春関の午前中に「ココスのチョコミントパフェを食べる」という謎予定を入れていました。そしてココスが混んでいてぎりぎりの出発になり遅刻。今は絶対にそんなことできませんね)

チョコミントパフェ 下の方激マズだった
当時のツイート

最後のツイートに電車での練習はさすがにやめます、とか書いてありますが、結局やっています。電車での恥より大会での恥を恐れました。(そもそも別にミスを取られることは恥ではないですが、当時のわたしにとっては恥のようなものでした)

そして迎えた本番、電車内でも書いただけあって、さすがに文章は書き取ることができました。結果は3ミス、文末表現「まして」の読み間違いです。また、わたし以外の一年生5人が0ミスで優勝していました。これは正直言ってなかなか堪えました。
今考えてみれば、わたしの3ミスは書き取りミスではなくて読みミスである以上、反訳力の瑕疵であってけして書き取り力の瑕疵ではないのですが、速記力=ほぼ書き取り力だと思っていた当時のわたしは早く書けるようになりたい、ほかの人に追いつきたいという一心で、速記をもっと精力的にやるようになりました。

そして、さらに言うならば、文章練習はわたしにとってふつうにおもしろかったです。タイピングゲームに似ていて、決められた制限時間のなかで、与えられた文章を、国字以外の方法で書き取るというのは、他のことを考えなくて済むという点で魅力的でした。

-春関終了〜夏休み

そのまま練習して、6月中に分速100が書けるようになりました。このときはもはやほかの一年に負けるのが嫌だとかそういう気持ちは一切なくて、単純に楽しくて楽しくて仕方がないままに練習していたのを覚えています。やっていたことは、本当に聞いて書いて聞いて書いてたまーに読み返して、の繰り返しです。

分速100にいったので、二音文字も教えてもらいました。当時は「皆さん」「こと」「人間」の威力が強く、常用語が大好きだったので、音ベースでしか使えない二音文字は大嫌いでした。イ音を省略して何になるのだろう、どうせイは4ミリなのだから変わらないだろう……とばかり考えて、常用語「たとえば」「ほとんど」を教えてくださいと先輩にねだった気がします。今はイ音二音文字大好きです。

7月に初めて共練会も行きました。当時の実力が分速100でありながら練習用音声として5級が流されたので、手を早く動かして必死に必死に書き取ってました。
そこで紅葉の話があって、「色」という言葉が出てきました。共練会参加者のかたがその省略(ラ行省略で払う)を教えてくださって、嬉しくなって「色」単体でサブテキストに書き込んだところ、そこにいた速研の先輩に「体系づけて覚えたほうがいい」と言われて悲しくなったのが思い出深いです。今思い返せば本当にその通りですね……。なお、そこで教えてもらった体系が、「イ音二音文字▶︎クツ音▶︎ラ行省略▶︎同行省略……」だったので、ラ行省略が当時はあまりに遠く思えました。まさか2ヶ月後に自分が使いこなしているとも知らないで。

モチベの糧は同期のツイートと同期の存在でした。前者で言えば、既習組の同期がクツ音の話をしていて羨ましくなったり、たちが書きづらいとつぶやいたら「同行省略がいいよ」と教えてもらって早く知りたくなったり。後者で言えば、未習組のひとりが「松川に早く追いつく!」と言ってすごいスピードで成長していて、わたしも負けていられないと奮起したり、同期に成長速度を褒めてもらえたり、いろいろありました。モチベがもらえやすいのがサークル練の特徴だと思います。わたしは独習で挫折した経験があるので、なおさら早稲田速研のありがたさが沁みます。

当時のツイート

練習方法はこの時期もずーっと文章を書き取って、たまに読み返していただけです。というか、今までずっとそれしかしていないかもしれません。暗書はやりかたが未だによく分かっていないので実はあまりやったことないです。省略を入れるためにじぶんでランダムに読み上げてそれを書いてみる、というのはやりましたが、それで省略が入った自覚はあまりないので、わたし個人としてはそんなにおすすめしません。ただ、人によるとは思います。

-夏休み〜現在

気がつけば夏休みを迎え、わたしの速度は分速160程度になっていました。省略は、ア段・エ段の二音文字+常用語集7割くらいが入っていたと思います。ウ段オ段のイ音二音文字はこの時期嫌いでほぼ入れてなかったので、夏休みの途中でヨイヨエ・ルイルエがあることを知って感動しました。

8月に検定があることは知っていたので、そこでの4級合格を目標にしようと決めました。
8月の検定は速研OG開催の「速記交流合宿」のなかにカリキュラムとして埋め込まれていたので、合宿中は4級の音声をいっぱい書きました。4級の模擬試験をしていただいて、9ミスにまで抑えられていたので、本番も安心して受けに行きました。
8月検定の大阪会場は4級と2級が同室で、わたしのほかには2級を受けていた既習組の同期がいました。最初に2級が読み上げられ、練習がてら頑張って書き取ろうとしたものの、まずペンでは無理でした。次に指先で試みるも無理。脳内ですら無理で、もう朗読音声を楽しもうと集中するのをやめました。そのプロセスを通してもなお朗読は終わらず、後半5分間、わたしは10分間の長さに絶望してました。
4級自体は受かりましたが、2級というものの遠さを知って、それを書き取ることができる同期の強さをあらためて認識して、またモチベが上がりました。

以降は少し細かい省略にふれつつ語ります。
夏休み後半は、クツ音とラ行省略を入れながら分速200〜220の壁と戦っていました。ラ行省略二音文字が大きな壁で手が止まるのもあって、分速220がとにかく書けませんでした。

また経験則ですが、分速200ぐらいからは問題の白さ・黒さが如実に現れる気がします。個人的にはこれが壁の正体だと思っていて、この問題で分速200が書き取れた!じぶんは分速200が書けるんだ!▶︎別の問題でぼろぼろに打ちのめされて、分速180が今のじぶんの限界なのかもしれないと絶望する、のループを壁だと認識しているだけだと思っています。

そして10月初旬、新人戦直前になって、220を通り越して急にするりと3級が書けるようになりました。そのあとすぐに、手を早く動かしてがんばれば2級も書きとれるようになりました。一気に手応えが変わったと感じたのは3点、
①ペンを離さずに、なめらかに書く
②ようの点、「のこと」「なもの」をなめらかに書く
③原文帳をじぶんの体に近づける
これらを守ってからでした。

細かい話になりますが、一個ずつ書いていきます。
①わたしが速度練習でつまったときに一番有用だったのはこれを意識することです。一画一画を意識してとめはねするのは、チリツモで時間を食っていきます。ペンを流す、なめらかに書く、本当にこれを意識するだけで覚醒したような気分になれます。
ただ一部の速字はどうしてもそれができません。(ルイルエ・〜とか・ゆりつぎ、など)それをなるたけ消すために部分的に省略は入れました。特にわたしは本当に本当にゆりつぎという行為が嫌いだったので、カ行の同行省略は何もしないでもするるんと入れられました。

②この三つは異常な省略です。自分でもなぜだかよく分からないのですが、この三つで速記生活が変わったような気がするくらいスピードがあがりました。「なもの」「のこと」は理論としては①で言ったことの拡張だとは思うのですが、特別効果があったので別で載せています。
ただ、ようの点などは分速140の時点から入れるし、筆も離します。体験の話なのでうまく言語化するのが難しいですが、文章で「ようです」「このような」が出てきたとき、するりんと書いてあげると、じぶんのなかで何かのバフがかかって、スピードが上がるような自覚がありました。
理論を説明するとするなら、「頻出単語をなめらかに書けるにする」ということなのだと思います。わたしの場合はそれがようの点だったというだけで、ほかの人からしたら別の省略かもしれません。ただ、新人戦直前、ようの点から3級攻略の取っ掛りを得られたのは紛れもない事実です。

③夏休みのころになってくると、速記というものがおもしろすぎて、いろいろな資料を漁るようになりました。
そのうちのひとつが「佐竹式ジュニア 理論編」です。速記の基礎の理論を教えてくれる資料で、練習方法や基本文字の書きかたを丁寧に解説してくれます。なかには「姿勢」という項目もあり、様々なことが書いてありますが、わたしが実践した中でいちばん有用なのはこの「原文帳を身体に近づける」でした。
スポーツにはルーティンというものがあって、毎回同じことをすると気合いが入るから、集中力が増してコンディションが上がる、という話はよく聞きますが、その一種ではないかと思います。他の人だと基本円を書く、基本文字すとるを繰り返して書く、などは見かけました。

また、分速240〜260の壁にも直面しましたが、これは原因が割と分かりやすいのではないでしょうか。すなわち、テキスト2冊目の「二音文字Part1」が、頻出なわりに数が膨大で馴染ませるのに時間がかかるということです。
ただその分効果は絶大で、馴染ませたあとは240の黒い時事に(ギリギリ)対応できるようになりました。280も対応できるようになりたいですね。

以上、時系列順に見たわたしの成長記録でした。

最初のほうに書きましたが、わたしは決して速記の才能に開かれているわけではない、と自分で思っています。これは普段わたしと接しているならばわかると思いますが、わたしが謙虚だからというわけではもちろんないし、また決して悲観でもありません。事実として、無能力を練習量でカバーしている自覚がある、というだけです。そして、練習量を積むためにはやはり、速記という行為を好きになること・他人からモチベを受け取ることが重要なんだと思っています。
速記はほぼ個人競技なので後者は否定されやすいのですが、わたしはじぶんが追いかける背中として、あるいはじぶんを追いかけてくれる存在としての同期がいなければ今2級は書けません。そして、邪推だとか傲慢だとか言われるかもしれませんが、同期もまた、わたしの存在に多少影響を受けてたところがあったのではないかと思います。

これを読むだろうメイン層がどこなのかはさっぱり分からないのですが、もし速記を新しく始めた新入生ならば、ぜひ周りからモチベをもらってとにかく練習してみてください。冬になるころには、堅実な速記力がついているのではないでしょうか。

-おまけ

いろいろ速記について思うことはあります。それを箇条書きで以下に書きますが、時系列順ではありませんので注意してください。

・正確かわからないのですが、じぶんで起こした速度の記録があったので示してみます。後半に行くにつれ検定問題ベースです。黒い時事はいま240でも怪しい。
6月18日分速40
7月2日分速100
7月3日分速120
7月30日分速140
8月10日分速160
8月24日分速180
9月3日分速200
9月28日分速220
10月5日分速240
10月26日分速280
11月16日分速320……??
ほんとかなあ

・当たり前のことかもしれませんが、速字はビジュアル連想ゲームで覚えないほうがいいです。ビジュアル連想ゲームというのは、たとえば「まして」は増しているから上向き、「ました」は真下だから下向き、とかいうやつです。むかしの日本の速記を見たら、基本文字アが穴、イが石、みたいなものもありました。基本文字段階、低速度段階だったら悪影響はないかむしろ覚えやすくて最適なのですが、高速度では詰みます。おすすめは音ベースで覚えることです。たとえば二音文字キョウは「としない」の速字と同じ、みたいな覚え方はいいと思います。
みんなにとっては当たり前にやっていてわざわざ書くことではないのかもしれないですが、わたしは気がつくのが遅かったので一応書いておきます。

・最初のほうに、左利きと右利きの差分を何点か述べましたが、教材さえあれば正直ほとんどの部分はなにも変わりません。そして2024年入学者が現れるまでにはわたしが左利き用サブテキストをつくっているので、教材という点もクリアできるでしょう。
左利きが不利な点はおそらく以下5点
①数字が書けない
②アルファベットが書けない
③原文帳上で横書きに反訳できない(脱訳しやすい)
④速字の覚え間違いがあったとき指導者が気づきにくい
⑤国字由来の速字を覚えづらい(非常、少ない、アメリカイギリス、すべて)

数字は今現在わたしが直面してる課題です。とりあえずは数字は反転させず、書く方向だけ右から左に揃えていますが、佐竹式数字の導入などを考えています。
アルファベットは2冊目の後ろのほうに載っている表でなんとかしましょう。
③④⑤は悲しいですが気合いで乗り切るしかありません。なんだかんだ、指導者が右利きでも書き間違いは気がついて指摘してくださることが多いです。先述した「ヒョ」もそうだし、同期が「エイ」の向きを指摘してくれたこともありました。そこまで悲観せず、じぶんの特性だと思って飲み込みましょう。

・鬼滅の刃、あの漫画は速記本です。速記の上達方法がいたるところに書いてあります。速研人なら読みましょう。

・佐竹が書いた、体験的研究ノート(このnoteタイトルの元ネタ資料)というものがあります。ここでは260の壁に長い期間陥りやすいひとの特徴として、性格が悪い、ということがあげられていました。
思うに、佐竹がここで言いたい性格の悪さというのは人間関係上のものではなくて、速記の省略を新しく学んだときに、なにかと理由をつけて逃げようとしたり、じぶんの覚え違いを矯正しなければいけないときに、「これでも読めるから」「線量はそう変わらないから」と理由をつけてまた逃げようとしたり、そういうことを頻繁に行うことではないかと解釈しています。今まで使っていた文字を捨てて省略をあたらしく入れたり、そもそもの覚え間違いを矯正したりするのは苦しいことなので、自分の中から言い訳が出てくるのは当たり前かもしれないですが、それを繰り返し行っているとチリツモで正しい速字からどんどん離れていきます。佐竹がここまで言及しているわけでは決してないですが、じぶんとの向き合い方として、一個持っていた考えなので書いておきます。

・書くときになにも考えないのが速記の良さだと思っていたまま来てしまったので、わたしは柔軟に速記をつくりかえることができません。同期はそれをできる人が何人もいてすごい。
ただ、手書き速記のよさとして、「速記者」という人間が言葉を発されたときの場の雰囲気を理解して、それに基づいて反訳できる、というのがある以上、わたしはいい加減このフェーズを卒業しなければならないのだと思います。今のわたしの速記は競技速記・検定速記であって、実務速記からは遠く離れているので、速記士の資格を負うならやはり後者に近づけていきたいつもりはあります。

・自分用の参考材料というのもかねて、2冊目以降で、「これを入れたら速度が爆伸びした」と思う省略を下に書いておきます。
なもの・くる・られる・考える・かける・比べる・動く・働く・シン・セン・ショウ・コク・リョク・セツ・シツ・になります・となります

・追記①
どの速度の時点でどこまで省略を入れていたかの目安は練習時にほしかったので、わたしの場合を書いておきます。ただ、わたしはかなり腕力で速記をするタイプなので、あまり参考にならないかもしれません。

分速40 〜サブテキ文末表現
分速100 〜ア段・ウ段イ音二音文字
分速120 〜常用語
分速180 〜クツ音・ラ行省略理論編
分速200 〜ラ行省略二音文字
分速240 〜常用語Part1を9割・二音文字Part1を6割
分速260(現在の適正速度は多分これくらいです) 二音文字Part1残り、ととにに続く常用語3割、常用語Part2を4割、二音文字Part2を2割

実は二冊目の省略は本当に頻出なものしか入れていないので、まだまだ伸びしろがあると言えるのかもしれません。

・追記②
これは絶対書いておこうと思っていたのに忘れていました。速研ドライブには偉大なる速記者、吉川欣二さんの資料が残されていたのですが、そのなかに次のような記述がありました。

速度練習において指導者によく忘れられがちなことは、ただ学習者にだけ書かせてしまうということです。遠く速記文字を書いていけるということは、ただ速記文字を正確に覚えている、速記文字をすぐに書けるといったことだけではなく、実際には多くの要素が複雑に絡み合っているものなのです。また、それらの要素には、口で説明できるものも多くありますが、それ以上に、口では言いにくい要素が多いのです。そういった要素については、指導者の方で手本を示す以外に方法はありません。

私が、速記独習中に最も困ったことが、実はこれだったのです。一生懸命に練習をして、一生命速く書けるように努めているのに、何か足りないところがある、どこか抜けている、そんな感じが強くし、その壁を越えるのには相当しんどい思いをしました。実は、遠くスムーズに書いていけるコツ、ノーハウというのは、ベテランが速記しているその中にすべて入っているわけです。そして、学習者はベテランの速記しているのを見て、どこがどうということはわからなくても、そのモヤモヤッとした形で要領を自然と会得していくものなのです。

もう少しこういった要素を分析すれば、それは、「速記するときの姿勢」であり「原文帳の置き方」であり、「線のリズム」であり、「速度に合わせた筆の動かし方」といったことであり、「視線の位置」であり、「紙のめくり方」であり、「とっさのときの速記文字の処理」であり、「速記するときの気迫」といったような形で出てくるのですが、そういった1つ1つだけを取り出しても余り意味がないのです。
要は、ベテランの人が書いているときの「雰囲気」をそのままに受け取っていくということが大切であり、また速記のように「技術」を習得していく上においては非常に大切なことなのです。

ですから、速度練習については、ただ学習者に速度練習をさせるというだけではなくて、できるだけ多くの機会を見つけて指導者自身が学習者の目の前で書いて見せるようにしてください。それは、何よりも効果の大きい練習法となるはずです。

私の大学時代、速記研究会での指導は、研究会設立当初のごく初期には、指導法云々といったハイレベルの教え方ではなく、私の整理した省路体系のノートをそのまま回覧し、写させるだけで、あとは共同練習を行うのみといった形でしたが、非常にスムーズに検定試験1級レベルにまでみんな達していきました。むしろ、速記研究会の活動が軌道に乗って、大世帯になり、テキストも完備し、指導方法についてもいろいろと試みを行った時代の方が高速度に達する率が低くなってしまいました。これはいろいろな原因が考えられますが、その1つが、高速度を書いている状態を学習者に見せる機会が少なくなってしまったということにあったのではないかと考えています。そして、このことは当時の速記研究会員であった私の友人からも、「あんなに速くしゃべられていてもこんなにゆっくり書いていけるのだということを目の前でいつも見ていたことが、上達の一番大きな要素であったと思う。だから、速記学校のように毎日何時間も練習しないでも、クラブの練習だけで2年間に1級まで行けたんだろう」ということを言われたことがあります。

吉川欣二『速記教育概論』

長!中略しようと思ったのですが、ぜんぶ重要なのでぜんぶ載せてしまいました。
わたしの速記方式は、上にあるどこかで書いたかもしれませんが、いわゆるゴリラ式というやつです。腕力で書きとるタイプです。
そこで、手を早く動かす、ということを考えたときに、いま引用した「他人が書いている様子を見る」という行為が生きてくるわけです。
わたしの場合はこの動画の効果が如実に出ました

感動しませんか。「会話というのは、相手の話を聞くこと、自分の考えを話すことによって成り立ちます」この部分だけでご飯が三杯食べられます。わたしは分速200字程度の頃にこの手の早さを見て、分速220字が書けるようになったと思っています。
ゴリラ式速記はどうしても体力的な限界がいずれくるので正直おすすめはしないのですが、ゴリラ式を目指さなくても手の早さというのは結局必要になります。ぜひ他の人が書いている姿を見て、その速度を感じ取ってみてください。

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