普通の金曜日

夜。駅の改札は人混みで溢れている。GW前の連休。色んな人がいる。コロナ明けのインバウンドと呼ばれる、恰幅の良い髭を生やした男性や、目鼻形のはっきりした女性が歩く。シワが軽く着き始めたスーツを着て、ごった返しの商店街の中を歩く、表情は綻び、同期と思わしき人と連れて行く。飲み屋のキャッチの声や、集団の笑い声が響く。キャリーケースを運んで、「9時着に着いたら良いから」と電話をしながら旅行に向かう人。シャッター前に座り込んで飲みすぎてしまった50歳位の男性。みんな、楽しそうに、前向きに、何かしらの関係を保ちながら過ごしている。それが普通。それが普通。憂鬱さは何処かに置いて過ごしている。

素面の力の入らない足で、焦点が合っていない視線で歩く。手入れの届いていない装飾を身につけながら、海底に沈んでいく様に地面に引き込まれていく。今だけは、暗闇の方が落ち着くから。砂糖のように溶けてしまえば良い憂鬱を抱えながら。


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