女3人、無頼旅 5

【カナンRPG小説 さむらいの妻 5】

 話は知るため、語るため……。

 このおはなしは、「石と呪いのファンタジー」世界を舞台にした、『カナンRPG』を実際にプレイした様子を、おはなしふうに書き起こしたものです。

 登場するキャラクターは、実際にプレイしたキャラクターそのままではなく、このおはなしのためのキャラクターなんですが、プレイの様子は実際のものをもとにしています。……まあつまりは、実際のプレイの様子とはちょっと違うかもしれないですよ、ということです。
 今回登場するのはこの3人。

●シグサ(♀)
 ふたつ名は〈荒ぶる頭〉、音楽好きの24歳。
 カナン中の音楽を楽しみたくて旅しているとは本人談。

●モモシル(♀)
 ふたつ名は〈青きまなざし〉。
 猪突猛進、なにかというと敵を作る、負けん気の強い18歳。
 腕っ節に覚えもないくせに、トラブルを起こす。

●コズ(♀)
 ふたつ名は〈大河の母〉。
 おせっかいで男好きの19歳。
 人当たりがよくておっとりして見られるが、実は3人の内でいちばんの長刀の使い手。

 前回、ついに現れたさむらいの妻に、驚き混乱する一行。

【一方的な戦い】
「どうすんのよ!」
 少女たちをかばうようにしているモモシルが叫ぶ。
「こうすんのよ!」
 シグサは両手を口元に当てると大声で叫びだした。
「*****************っ!」
 聞くに堪えない罵詈雑言とはこのことである。
 シグサはあらんかぎりの罵倒、悪口をさむらいの妻に向けて叫んだのである。

 るるぁぁううううっ!

 言葉が通じているのかどうかわからないが、その意図するところは通じたらしい。さむらいの妻は上半身をぐるりと回してシグサの方に向き直った。
 そして両手を交互に地面について、泳いででもいるかのようにぐいぐいと進んでいく。もちろん、シグサの方へだ。
「きたぁーーっ!」
「当たり前でしょ! 早く逃げて!」
 コズが叫ぶが、身体の大きさに差がありすぎる。
 そうでなくとももともと蛇の移動というのは、身体の大きさの割に素早いのだ。
 さむらいの妻はあっというまにシグサのそばにまで追いついてしまう。
「きゃああーーーーーーっ!」
 振り上げられた巨大な手が、シグサに叩きつけられる。きしむような声をあげて、シグサの身体が宙を飛んだ。そのまま地面に転がる。雑草の間に一瞬姿が消える。
「シグサ!」
「死んじゃう!」
 コズとモモシルの悲鳴。だが、さむらいの妻はシグサの転がったあたりめがけてさらに手を振り上げる。
「やめるのだ、妻よ。やめないか」
 さむらいが声をかけている。
 手がまた振り下ろされた。
「シグサ!」
 地響き。土煙が舞う。
 頑丈なシグサだが、あんな大きな手で叩き伏せられて無事で済むはずがない。一瞬悲鳴さえも呑み込んだモモシルとコズ。だが、さむらいの妻が叩いた場所から少し離れたところで草の葉がざわと動く。
「シグサ!」
 ふらつきながらもシグサが歩いている。どうやら間一髪、叩き伏せれるのを逃れたらしい。
 コズが荷物を下ろして弓に弦を張る。
「これでも……っ」
 矢をつがえると、獲物を探すさむらいの妻に向けて、ぐいと弓を引き絞り、放った。
 小さな風切り音を残して矢はほとんどまっすぐに飛んで、さむらいの妻の後頭部……うねる彼女の髪、つまり蛇の一匹に矢が突き刺さる。
「なにをするかっ!」
 さむらいがたばさんでいた短剣を引き抜いて、コズたちの方へ向かってくる。
「それはこっちの台詞!」
 モモシルがぐっと手を突き出すと、指先にはさんだ小さな紙片が音を立てて燃え上がり、そのまま大きな炎の固まりになってさむらいに飛んだ。
 わっとなってたたらを踏むさむらいに、コズが矢を放つ。
 矢はさむらいののどを貫き、彼はそのまま仰向けに倒れた。
「シグサの仇!」
「死んでないわよ!」
「そうだった。……ってなんでこっちに向かってくるのよ、おとりになるんじゃなかったの?」
 ふらつきながらも駆けてくるシグサにコズが叫ぶ。
「ひとりでおとりやってたら死んじゃうってわかったの!」
「巻き込まないでよ!」
「一蓮托生よ!」
「この娘たちどうすんのよ!」
「ほらっ、いつまでもぴーぴー泣いてないで……うわ、きたあ!」
 さむらいの妻は、逃げられたと思ったシグサの姿をようやく見つけて、上半身をぐるりとこちらに旋回させた。
 もちろん追ってくる気だろう。
 長い下半身をずるずるとうねらせながら、独特の速さで迫ってくる。
「森に逃げ込むのよ!」
 少女たちを引きずるようにして、3人が駆け出す。

【夜が明けて】
 るるるるああぁぁぁぁぁぁっ!

 恐ろしい咆吼と、巨大ななにかを引きずる音。さらにばりばりと大木がへし折られる音がシグサたちを追ってくる。
 必死で逃げた。
 後ろも振り返らず、ひたすら走る。
 何度転んだか分からない。
 やがて、気がつくと山を下りきって、見覚えのない場所に立っていた。
 山の反対側、別の山並みの向こうから朝日が昇ろうとしていた。どうやら一晩中逃げ回っていたらしい。
「助かった……の?」
 大きく息をしながらモモシル。着物があちこちずたずたで、草の汁やら泥やらでひどい有様だ。だが、ひどい有様はここにいる全員が同じだった。
「さあ……。でも……」
 コズも片袖が裂けて、肩が剥き出しになっている。肌のあちこちにひっかき傷が痛々しい。
「追いかけては来なかったみたいね……」
 地面に座り込んだシグサも同様だ。いつも編んである髪は半ばほどけて、壊れた鳥の巣のようになっている。
 また4人の少女たちも似たり寄ったりの姿になっていた。
「いったいなんだったのよ、あれは」
「まあ、神なんでしょ」
「我が妻、って言ってたじゃない」
「神様を奥さんにもらうと、あんなになっちゃうってことなのかなあ……」
 一行は疲れ果てた身体を引きずって、その場から歩き出した。
 まだあの夫婦が住んでいた山はすぐ近くに見えている。できるだけ離れたかったのだ。それに、一刻も早く人里を見つけて安心したかったというのもある。
 それでも結局その日は野宿になった。野宿では火は燃やさなかった。「彼女」に見つかるのをおそれたからだ。

 一行が小さな村落にたどり着いたのは翌日の昼近くだった。
 娘たちを元の村に返すまでにはさらに数日かかった。

 そして、さむらいと出会った宿場がまるで大嵐に吹き飛ばされたようにめちゃくちゃになって全滅したことを知るのはさらに何日もあとのことになる。

【街道にて】
「だからってあそこでほかになにができたっていうの」
「あんなのと戦って勝てるわけないじゃない」
 コズとモモシルはそう決めつけた。
 だがシグサはぼんやりとつぶやく。
「そうなんだけど、あのおじさん気の毒じゃない」
「そうかもしれないけどさ。あたしたちが死んじゃったらもっと気の毒じゃない」
 とモモシル。
「だよね……」
「もう行きましょ。もう少し急がないと、日暮れまでに宿場にたどり着けないわよ」
 コズに急かされて、シグサも少し足を速めた。
 3人の旅はまだ終わらない。

【ゲームテーブルから】
 ここからは解説です。
 『カナンRPG』のルールについて、ある程度知っているひと向けに書かれていますのでご了承ください。

 今回でシナリオ終了です。
 まずシグサの罵倒ですが、これは〈下層対話〉技能を使ってます。成功すればすごい威力の悪口雑言が言えたという……そんな判定です。

 恐慌に陥っている娘たちを連れて、しかも山道の逃走ということで、難易度は高かったのですが、さすがに命がかかってますから、全員、だいじなもの判定までつかって〈健脚〉判定を成功させました。

 今回のおはなしでは、一行は結局さむらいの妻から逃げ出しますが、もちろん戦うという選択もできたでしょうし、あるいはもっと別の選択もありえたでしょう。
 実際別のメンバーがこのシナリオに参加した際には、「説得を試みる」という選択をしています。

 このシナリオで、一行はそれぞれ、「蛇の女神の恐怖」というだいじなものを得ました。効果は、大きなものを見たときや蛇と遭遇したときペナルティを受けるというものです。

 こんな具合で彼女たちの旅は続いていきます。
 次回はまた機会があれば……。

テキストの舞台となっている架空世界カナンについては http://imaginary-fleet.sakura.ne.jp/ca/main.html こちらのサイトをご覧ください。
これからもカナンの情報はじわじわ増えていく予定です。
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