女3人、無頼旅 2
【カナンRPG小説 さむらいの妻 2】
話は知るため、語るため……。
このおはなしは、「石と呪いのファンタジー」世界を舞台にした、『カナンRPG』を実際にプレイした様子を、おはなしふうに書き起こしたものです。
登場するキャラクターは、実際にプレイしたキャラクターそのままではなく、このおはなしのためのキャラクターなんですが、プレイの様子は実際のものをもとにしています。……まあつまりは、実際のプレイの様子とはちょっと違うかもしれないですよ、ということです。
今回登場するのはこの3人。
●シグサ(♀)
ふたつ名は〈荒ぶる頭〉、音楽好きの24歳。
カナン中の音楽を楽しみたくて旅しているとは本人談。
●モモシル(♀)
ふたつ名は〈青きまなざし〉。
猪突猛進、なにかというと敵を作る、負けん気の強い18歳。
腕っ節に覚えもないくせに、トラブルを起こす。
●コズ(♀)
ふたつ名は〈大河の母〉。
おせっかいで男好きの19歳。
人当たりがよくておっとりして見られるが、実は3人の内でいちばんの長刀の使い手。
前回、謎のさむらいの依頼で、さむらいの妻の侍女候補を探すことになった一行。どうにか4人の娘を見つけてきましたが……。
※RPGについて詳しい方へ。
『カナンRPG』は、「石と呪いのファンタジー」世界、カナンを舞台にしたファンタジーRPGです。
※『カナンRPG』についてはこちらから、PDF版ルールブックは好評ダウンロード頒布中です。
【少女の品定め】
「その者たちか」
「ひいっ!」
「いっ、いつの間に……っ」
いきなり背後から声をかけられて、シグサたちはとびあがった。モモシルなどは、1カイほど向こうへ飛んでいって、娘たちにぶつかって盛大にひっくり返っていた。パレリがめくれあがってすごいことになっている。
「お、おさむらいさま、いつの間に……」
コズもとびあがりこそしなかったものの、声が引きつっている。
さむらいは無言でうなずき、もう一度繰り返した。
「我が妻の侍女にというのは、その者たちか」
「は、はい。いずれも充分にお役目をこなせるよう、教えを受けています」
「探すの大変だったんだから……!」
「こらモモシルっ」
「なによう、本当のことじゃない。すぐこの村で見つかると思ったから安請け合いしたのにさ」
「安請け合いとか言わない……っ。なんでもないんですよう。ええと……みんな山向こうの村から、わざわざこのお仕事のために来てくれたんです」
「どれほどのものか、確かめさせてもらおうか」
とりなすコズの言葉などなかったかのように、さむらいは少女たちの方を見る。その眼光に、少女たちは身をすくませた。
「我が妻は少々気むずかしいところがある。王宮勤めとは申さぬが、あまりに粗雑な者では困るのだ」
「それはもちろん、安心してください。村長さんの折り紙つきなんですから」
とコズ。
「で、どんなことを確かめるんです?」
シグサの問いにさむらいが答えた。
「そうだな。なにもかも万全とはさすがにいくまいが、それぞれ得意なことがあるだろう。それをやってみせてくれるか」
こうして4人の少女たちが、さむらいに向かってそれぞれ自分の得意を披露することになった。
ひとり目の少女はママキキ。
まだ歳は12というが、どうしてその物腰には女っぽいところがある。
少なくともシグサたち3人よりも女らしく見える。
「やかましいっ」
地の文に突っ込んではいけない。
さむらいの求めにママキキは口元に手を当てて、困った顔をした。
「得意なことと言っても、村長さんに行儀作法を習っただけですし……」
「ふむ。では、拙者のいうことに少し答えてもらえるか……」
さむらいは一問一答、のような対話をママキキと始めた。
強面、といっていいさむらいに対して、しかしママキキは驚いたことに、さしておびえも物怖じもせず、受け答えした。
2クリクほども会話していただろうか。
さむらいは言葉を切ってうなずいた。
「なるほど。これならばまずまずだ」
どうやらママキキはさむらいの眼鏡にかなったらしい。
次にさむらいが試すことにしたのは、ミィミシトという少女だ。歳は14、そろそろ嫁の行き先を考えねばならない年頃だ。
つまりシグサ、モモシル、コズの3人は、いき遅れなのである。
「黙れ、死の神に連れて行かれたいか」
地の文に突っ込んではいけない。
ミィミシトも同じく、とくだん得意なことがあるわけではなかったので、ママキキと同じようにさむらいがいくつかの問いを投げかけた。
15歳のメラメルは先のふたりと同じくさむらいと言葉を交わし、10歳のトムトマは料理の腕前を披露した。
やきもきしながらその様子を見ていたシグサたちだが、さむらいはそれなりに納得したようだ。
「うむ。まずまずだ。しかし困ったな」
「困ったとはどういう?」
腕組みするさむらいにシグサは聞いた。
「どの娘も甲乙つけがたいが、といって4人は多すぎるのではないかと思ってな」
もっともだ、とシグサやコズはうなずきかけたが、モモシルはそうは思わなかったようだ。
「いいじゃない。そんなの」
「とは?」
「問題がないんなら、全員連れてけばいいじゃない、って言ってんの。それとも、どうでもけちをつけようっていうの?」
「そうではない。なるほど、そこもとの言うことももっともだ。では、4人ともに雇い入れることにしよう。娘4人となれば、妻もにぎやかさに喜ぶかもしれぬ」
そう言ってさむらいは懐からまたずっしり重そうな袋を取り出した。
「これは謝礼だ。手間をかけたな」
【20年前の出来事】
娘たちを連れてさむらいが去っていくと、シグサたちだけが店に残された。
「うわあ、ずいぶんあるよ。ワイ、ニイ、エン、セン……」
さむらいが置いていった袋の中身を数えるモモシルを横目に、シグサはうーんとうなる。
「いまここで全部数える気? ねえ、コズ。これでいいのかな」
「なにが?」
「なにがって……あの娘たち、ついて行かせちゃってさ」
「だってそういうお仕事だったのよ?」
なにを当たり前のことを、という顔のコズ。けれど、シグサは納得いかない様子だ。
「だけど……、あのおさむらい、大丈夫かなあって」
「かねは持ってたじゃん」
まだ硬貨を数えている
「ふつうの人買いにしちゃ、金額が高すぎるでしょ。たしかに妙な風体だったけど、ひとを見かけで判断するものじゃあないわ」
「かなあ……」
シグサは髪の毛をぐしゃぐしゃかき混ぜた。
「あれ、お客さんいたんですか?」
奥から出てきたのは、店の主人だった。
「なによ、あんなに大勢でいたのに気づかなかったの」
「すいません。なにしろ耳が遠くって」
「ねえおじさん。さっきのおさむらい、どこのおひとだか知ってる? ……って、ああ、見てなかったか。ほら、この前……3日前、あたしたちがここで話をしてたおさむらいさん」
「はて……そんなお方がいらっしゃいましたかな。このへんのおひとなので?」
「それを聞いてるのよ。知らないの?」
シグサはさむらいの風体を話して見せた。
すると、主人が妙な表情を浮かべる。
「知ってるの?」
「隠してるとためにならないよ」
「どこの悪人よ、あんたは。なにかご存じのことがあるんですか?」
「そういう風体のさむらいなら、知っています。いや、知っていました……」
その微妙な言い換えにコズは片眉をあげた。
「どういうこと?」
「もうかれこれ20年も前になります。その頃はこの宿場もずっとにぎやかでした……」
「そんな昔話を……」
短気なモモシルをコズが制する。老主人は続けた。
「その頃です、あのさむらいがやってきたのは。奴は、自分の家に仕える侍女を探していると言いました」
3人は顔を見合わせた。老主人の言葉は続く。
「わしらは娘をつかわしました。ところが……」
その先は聞くまでもないと3人は思った。
「娘たちは誰ひとり戻ってはこなかったのです。最初の1年2年は誰もそのことを不思議に思いませんでした。奉公に出た子供が数年帰らないことは珍しくもありませんから。しかし、それが3年になり、4年になった頃、ようやくわしらはおかしいと気づいたのです。その頃にはもう村のほとんどの娘がいなくなっておったのです。その頃はまだそのさむらいは村に来ておりましたから、娘たちの親の何人かは、娘に会わせてくれるよう奴めに言いました」
「それでどうなったの?」
「さむらいはわかったと言うて、親たちを連れて山へと入っていきました……。しかしそれぎり、彼らは戻っては来なかったのです。村の者たちは、恐ろしくなったのでしょう、ひとりまたひとりと村を去り、いまではこんな有様になってしまいました」
「そのさむらいは? まだ来ているの?」
老主人は首を振った。
「最後に奴を見たのはもう20年以上も前のこと」
「さっきまでいたさむらいは? ああっ、見ていないんだっけ!
「お客さんがおっしゃる風体は、たしかにそのさむらいのように思えます。けれど、歳が合いません。もし同じさむらいなら、ずっと年をとっているはずです」
「じゃあ別人ってこと?」
とモモシル。
「さあね。これ、なんだか神がかったおはなしに聞こえない?」
とコズ。
「かもしれない。どっちにしろ、やることはひとつだわ」
とシグサ。
「どうするの、どうするの?」
卓の上に広げた小銭を袋へ戻しなが聞くモモシルにシグサは答えた。
「決まってるでしょ、あのさむらいを追いかけるのよ。あの娘たちが心配だわ」
【ゲームテーブルから】
ここからは解説です。
『カナンRPG』のルールについて、ある程度知っているひと向けに書かれていますのでご了承ください。
前回に引き続いて、謎のさむらいから受けた依頼を果たそうとする一行ですが、気づいたことありませんか?
さむらいの名前が出てこないことに。
べつに書き忘れているからではありません。
シグサたちが聞かなかったからです。
なにしろもとがゲーム(脚色はあるにせよ)なので、こういうこともあります。
逆に、マスターの予想もしていなかったことが突っ込まれて、思いもしなかった展開になることも珍しくはありません。
今回も、予定では4人の娘のうちひとりを選んで連れて行くつもりだったのが、存外に品定めのところでの判定がうまくいってしまい、そのうえモモシルからの「4人連れて行けば」の言葉で、本文のような展開になった次第。
そんなわけで、いよいよ怪しいらしいことがわかったさむらいですが、次回はどんな展開になるか……お楽しみに。
(たしかこのシナリオはまだメモ程度にしかまとまってないので、RPGのサポートページにも載ってないんだよね。載せてあるシナリオなら、RPG持っているひとは、結末がだいたいわかるんだけど)
テキストの舞台となっている架空世界カナンについては http://imaginary-fleet.sakura.ne.jp/ca/main.html こちらのサイトをご覧ください。
これからもカナンの情報はじわじわ増えていく予定です。
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