女3人、無頼旅 4

【カナンRPG小説 さむらいの妻 4】

 話は知るため、語るため……。

 このおはなしは、「石と呪いのファンタジー」世界を舞台にした、『カナンRPG』を実際にプレイした様子を、おはなしふうに書き起こしたものです。

 登場するキャラクターは、実際にプレイしたキャラクターそのままではなく、このおはなしのためのキャラクターなんですが、プレイの様子は実際のものをもとにしています。……まあつまりは、実際のプレイの様子とはちょっと違うかもしれないですよ、ということです。
 今回登場するのはこの3人。

●シグサ(♀)
 ふたつ名は〈荒ぶる頭〉、音楽好きの24歳。
 カナン中の音楽を楽しみたくて旅しているとは本人談。

●モモシル(♀)
 ふたつ名は〈青きまなざし〉。
 猪突猛進、なにかというと敵を作る、負けん気の強い18歳。
 腕っ節に覚えもないくせに、トラブルを起こす。

●コズ(♀)
 ふたつ名は〈大河の母〉。
 おせっかいで男好きの19歳。
 人当たりがよくておっとりして見られるが、実は3人の内でいちばんの長刀の使い手。

 前回、さんざ山道を迷ったあげく、ようやくさむらいに追いついた一行、だがそこに待っていたのは……。

※RPGについて詳しい方へ。
 『カナンRPG』は、「石と呪いのファンタジー」世界、カナンを舞台にしたファンタジーRPGです。
『カナンRPG』についてはこちらから、PDF版ルールブックが好評ダウンロード頒布中です。

【現れたのは……】
 最初に視界に入ったのは朽ち果てた屋敷の残骸だった。
 以前は立派だったであろう屋敷は、壁も朽ちてなくなり、柱も折れ曲がって地面に伏すように倒れ込んで、載っていた瓦が土砂崩れのあとみたいにうずたかくつもっていた。
 いったいこの屋敷のどこにさむらいは住んでいたのだろうか。
 だが、そのときのシグサたちはそんなことを思いつきもしなかった。そもそも屋敷の残骸でさえほとんど目に入っていなかったのだから。
 彼女たちが見ていたのはその後ろ。
 屋敷の背後にあらわれた「もの」だった。
 最初、それを山だと思った。
 だが、それはゆっくりとした動きでじょじょに残骸の向こうからその姿を現していく。
 沈みかけた陽にそれの表面がてらてらと輝く。濡れているように見えるが、たぶんそうではなく、光を反射しやすい表面なのだ。たとえば金属か、あるいは蛇の鱗のような……。
 蛇。
 屋敷の向こうに盛り上がっていくそれは蛇の胴体のように見えた。重ねた縄のようなものが幾重にもうねって、盛り上がっていく。それは移動する蛇の動作そのままだ。
 だが、こんな蛇がいるだろうか。
 その胴は、太さが3カイほどもあるのである。
 だが、蛇でないというならなんなのだろう。
 家の残骸はこんなふうに動きはしない。山はこんなふうに夕日を照り返したりはしない。
 そしてその重なり合った胴体の向こうから、ついにそれが現れた。
「おお、妻よ……!」
 さむらいの声。
 現れたのは女の顔だった。
 美しいと言っていい、しかし左右の目と目のあいだが、1カイもある巨大な女の顔だった。
 長く垂らした女の髪がうねうねとうごめいている。
 よく見るまでもない。
 女の髪はその1本1本が、大きな蛇だったのだ!

 るるるる、るるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。

 女が声をあげた。
 シグサも悲鳴をあげていた。

【襲いくる妻】
「あれ、神?」
「それ以外なんだってのよ。ちょっとシグサ、しっかりして!」
 悲鳴をあげ続けるシグサを揺さぶるコズ。
「騒ぐな女たち。我が妻は騒がしいのを嫌うのだ。食われたいのか」
 さむらいが言う。
 だが、いったん恐慌に陥った者が我に返るのは簡単ではない。
「しっかしてよ、シグサ!」
「……っ、だ、だって……あれ……っ」
「あなたいちばんおばさんなんだから、大人らしいとこみせなさいよ」
「だっ、だれがおばさんよ!」
 コズの言葉でどうにか我に返ったシグサはこぼれた涙を拳で拭って、さむらいの妻、巨大な女に向き直った。
 頭だけで3~4カイはあるだろう。さらに起きあがった上半身は裸で張りつめた美しい乳房が柔らかそうに揺れている。身体に比べれば大きすぎるというほどではなかったが、それでもやはり片方3カイはありそうだった。
「くっ」
 モモシルはなにか言いたいことがありそうだった。
「だまれうるさいしね」
 地の文に突っ込んではいけない。
 そしてその胴体は腹の下あたりで例の太さ3カイ以上もありそうな蛇の胴体とつながっている。
 つまり上半身人間、下半身蛇、というのがさむらいの巨大な妻なのだった。
 むろんそれは普通の生き物ではない。神だ。
「さあ、早く泣きやむのだ。妻が怒り出す。我が妻が怒れば拙者にもどうにもならぬのだ」
「あんたの奥さんでしょぅっ?」
「ちょっとちょっと泣きやんでよ! あんなのに来られたら、どうしようもないわよっ」
 肝の据わったシグサでさえ、簡単には泣きやまなかったのだ。村から一歩も出て事がないような少女たちがすぐに我に返れるわけがない。
 かえって金切り声のような悲鳴をあげだす。
「ひいーーーっ、ひーーーーっ!」

 るるるるっ、るるるるぁぁうううううっ。

 巨大な女……だか蛇だかは、あきらかにいらだった調子で屋敷の向こう側から身体を乗り出してくる。その太い胴の下で屋敷の残骸がばりばりと音を立ててくずれていった。
「ああ! 妻よ! 落ち着いておくれ! 落ち着いておくれ!」
 さむらいが妻の方へ向かっていく。

 るるるるる、るるるるううぁぁっ。

 だが当の妻は夫の言葉など聞いていないようだった。
 巨大な下半身をうねらせ、屋敷の残骸を揉みつぶしながら、すごい勢いでこっちに向かってくる。
「逃げなきゃ!」
「この娘たちどうすんの!」
 少女たちは立ちすくんで悲鳴をあげ続けている。
「ええいっ! しょうがない!」
 シグサがその場から走り出した。

【ゲームテーブルから】
 ここからは解説です。
 『カナンRPG』のルールについて、ある程度知っているひと向けに書かれていますのでご了承ください。

 悲鳴をあげてしまった少女たち、そしてシグサは〈抑制〉技能判定に失敗してしまいました。

 あと、カイというのは長さの単位で、1カイが約3メートルほど。さむらいの奥さんがどれだけ大きいか、換算してみてください。
 またこの世界では、この世ならざるものはだいたい「神」という言葉でひとくくりにされています。現地の言葉では「ムング」。

テキストの舞台となっている架空世界カナンについては http://imaginary-fleet.sakura.ne.jp/ca/main.html こちらのサイトをご覧ください。
これからもカナンの情報はじわじわ増えていく予定です。
※課金設定もあくまで試験的なものですが、カナン世界に興味のある方、支援したいぞ、という方は入金してくださってもオッケーですよ。

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