『MGC 宵之宮学園ミニチュアゲーム同好会』 第2回

※このおはなしは、「ミニチュアゲーム」という少しマイナーなゲームを題材にしたのんきな軽~い小説です。
※おはなしは無料で最後まで読むことが出来ますが、応援したい! という方は「ちゃりん」してくれたら嬉しいです。(ちゃりんしてもらったお金で新しいミニチュアを買うのだ!)また「ちゃりん」してくださった方向けのおまけとして、注釈をつけました。こちらもよかったら読んでください~。
※いちおう連載を予定しています。今回は第4章まで。

【03 休むに似たり、とはいいますが】
 しばらく不毛なやりとりが続いたあと、ふたりはもう少しまじめに考えた方がいいと思い直しました。
「やっぱり、ミニチュアゲームの魅力をアピールした方がいいと思うのよ」
「そうですね。おっぱいのアピールよりは健全な気がします」
「ひとのおっぱいを不健全みたいに……、あらためてミニチュアゲームの魅力ってどんなところだと思う?」
「え。ええと……。あらためて言われると、どこをとりあげたらいいか迷いますね。うーん、……ミニチュアを使うところ?」
「当たり前すぎるわね……」
「だって、ミニチュア可愛いじゃないですか」
「そうね。ミニチュアって可愛いわよね」
「にっこり笑ってケイブトロル(12)持ってないでください。可愛くないでしょ、それ」
「えーー、こんなに可愛いのに。沙織ちゃんは、可愛くないっていうのよ。変な子ねー」
「そこ! ミニチュアに話しかけない! へんなひとだと思われます!」
「そんなことないわよ。こうやって話しかけると、水もおいしくなるってえらい政治家の先生も言ってた(13)んだから」
「それインチキ、嘘ですからねっ。まあ、可愛い……といっていいミニチュアもありますから、まずはそのへんを見てもらうのはありかもしれませんね」
 沙織は背後の棚に視線を走らせました。そこにならんでいるのは、不格好な、ただし鮮やかな赤や青できれいに塗られたロボット……と思いきや、ほぼ同じ姿で、頭の部分だけが人間だったりするミニチュアもありますから、これは彼らが着ている宇宙服かなにかでしょうか(14)。手に手に銃を構えています。そんなミニチュアが何十体かあって(そう、並んでいるミニチュアは、似た感じのデザインのものがそれぞれひとつやふたつじゃない、すごい数あるのです)(15)、そのとなりには、やはり宇宙服らしい姿の、細身でとんがり帽子のような頭をしたミニチュアたち(16)。さらにとなりは、いかにも怪物然としたつぶれた凶暴そうな、しかも緑色の顔をした、やはり銃と……これはノコギリでしょうか……凶暴な武器を構えたミニチュアたち(17)。さらに隣にいくと、今度は中世風の鎧を身につけ剣を高々と掲げたファンタジー戦士。これもまた何体も整然と並んでいます(18)。さらにその隣には、今度はごく普通の兵隊さんがずらりライフル銃を持って並んでいます(19)。色合いはほかのミニチュアに比べると地味ですが、それだけにいかにも「リアル」な感じがします。そのほかにもたくさんの……ぱっと見たくらいでは全部でどのくらいの数があるのかわからないほどたくさんの……ミニチュアが棚には並んでいます。どのミニチュアも精密というか、細かいところまでよくできていて、すばらしいものだ……というのはわかります。
 ただその一方で、どのミニチュアの顔立ちも(かぶとなどで隠れてしまっているものや、もともと怪物というのは別として)リアルすぎるというか……なんだかごついおじさんばかりに見えるのは気のせいでしょうか。
 このミニチュアたちは果たして「可愛い」のでしょうか。沙織はくららの持っているケイブトロルを可愛くないと言いましたが、棚に並んでいるほかのミニチュアが可愛いとはちょっと思えません。
 ひどく……ひどく不安が募ります。
 けれど、沙織の言葉にくららもうんとうなずきます。
「じゃあ展示会でもやりましょうか」
「そうですね。まずはミニチュアの素敵さを知ってもらいましょう!」

「おかしい」
「おかしいわね」
 肩を落としたふたりの隣には、展示用に並べられたミニチュアたちが置いてあります。
 ふたりが厳選したミニチュアたちです。
「どうしてなの……、このグローイン(20)のひげなんかすごく頑張って塗ったのに」
「このナーグルのデーモン(21)だって、素敵に可愛いのに……」
 そういうふたりが手にしたのは、それぞれ、ひげの小人――いわゆるドワーフ小人――のミニチュアと、もうひとつは、ぶくぶくに太った裸の男性の死体――にしか見えませんが、そういう怪物なのでしょう――のミニチュアです。
「怖いって言われた……」
「気持ち悪いって逃げられました……」
「「どうして……っ!」」
 どうしてもこうしてもないと思います。
 どうやらふたりが企画したミニチュア展示は、ほかの女子たちの心には響かなかったみたいですね。
「こんな子供っぽいもの、つきあってられるか! なんて言われちゃうし……」
「ネイルとかあんなに凝ってるのに、ミニチュア塗るのめんどくさいとかありえないですよ」
「そうよねえ。滴る腐汁とか、腐ったお肉とか塗るのはとっても楽しいのに」
「それはちょっと特殊なような……」
「えええ。世界にはケイオス(22)のファンってたくさんいるのよ?」
 聞いてるこっちがえええ、です。
「でもほら、ここは女子校だし」
「それを言ったら、いまどきの女子はひげとか胸毛とか嫌いだと思うわ。沙織ちゃんは、胸毛のある彼氏欲しい?」
「えっ、いや、それは……っ。むむむ……。…………やっぱり私たちが好きなミニチュアでは、女子高生にアピールできないってことでしょうか」
「そうかもしれないわ。なにかほかの方法を考えましょう。ともかく、部員が増えてくれないと困るもの」
「そうですねー」
 ふたりは顔を見合わせてまたため息をつきました。

【04 巻き戻しボタンっきゅるるるっ……っていっても若いひとにはわからない】(23)
 少し時間はさかのぼって、〈ミニチュアゲーム同好会〉のミニチュア展示中のこと。
「どうですかぁ、見ていってくださーい」
「可愛い可愛いミニチュアですよぅ」
 沙織とくららのふたりが呼び込みをしても、たいていの生徒は素通りしてしていってしまうのですが、その中にひとり、何度も廊下に出された展示台の前を行ったりきたりしている生徒がいます。
 その生徒は、展示台の前を通り過ぎると、いったんは廊下の端まで行って、角を曲がってしまい、それからしばらくしてまた戻ってくる……というかたちで何度も行き来を繰り返していたので沙織もくららも気づかなかったのですが、間違いなく同じ女子です。
 ごくまじめな生徒である沙織やくららとは違う、ちょっと着崩した制服姿、といって生徒指導の先生が見たら即座に呼び止められるような華やかなアクセサリは身につけていない、いまどきの女子としてはやや素っ気ない外見は、「私はちょっと乱暴な女子ですよ」というアピールが感じられます。歩き方もそんな感じで、スカートの裾をばたばたひるがえらせながら何度も行ったりきたりを繰り返しているのです。
 そう思って見ていると、彼女は通り過ぎるたびにちらっと横目で並べられたミニチュアに視線を送っています。
 ほとんど顔を動かさないせいで、沙織もくららも気づきませんでしたが、その女性とは沙織に呼び止められるまで6回も展示台の前を通り過ぎたのでした。
「あのっ、ミニチュアとか興味ありませんか?」
「こんな子供っぽいもの、つきあってられるかっ」
 自分の方へとのばされた沙織の手を振り払うようにして、その少女は足早に去っていき、そして今度はもう戻ってこなかったのでした。

つづく

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